12話:未来改変 前編
◇ ◆ ◇
五月の連休を利用して、俺は美奈を誘って遊園地にデートに出かけた。
俺たちの家から一時間ほど電車に乗れば大型の遊園地があるのだ。
レジャープールも併設していて、夏には泳いで遊ぶこともできる。
小さな頃から良く遊びに来ていたが、恋人として来るのはもちろん初めてだ。
待ち合わせの駅に現れた、美奈は白色のワンピースに水色のカーディガンを羽織っていた。
紛うことなく美少女……いや、天使のようだった。
俺が、
「かわいいし、似合ってる」
と伝えると、
「……ホント?」
と上目遣いで聞かれた。
「本当だって」
「ふふっ……ありがと」
その笑顔で立ち眩みしそうになるほど、余計にかわいいんだけど、俺はそれを伝える言葉を持っていなかった。
──トニカクカワイイ。
そしてたわいのない話をしながら、ほぼ入場と同時に遊園地についたのだが、人混みでごった返している。
「やっぱり連休だから混んでるね」
「そうだなぁ……」
一番の目玉である有名な大型ジェットコースターは、早速一時間待ちのようだ。
「……でもまぁ、せっかくだから乗っていこうぜ」
「そうだね」
そう言ってジェットコースターに向かう途中、この遊園地のテーマキャラクターの看板があった。
顔の部分に穴が空いていて、後ろから顔を出すやつだ。
「あ、なつかしいねアレ」
「ん……。ああ、昔ここで写真撮ったっけな?」
「小学校のときだよねー。達也が恥ずかしがって、なかなか写真撮れなかったな〜──」
当時、親と一緒に来ていたのだが、俺が嫌がったのだった。
……結局、押し切られたのだが。
「──あの写真、アルバムに取ってあるよ」
俺も取ってある。
撮るときは恥ずかしかったのだが、子どもの頃としては珍しく、美奈がおめかししてきた時の写真なので、もったいないなと思ってこっそり焼き増ししてもらったのだった。
「……撮るか?」
携帯はもっていないが、親から借りたコンパクトカメラは持ってきてある。
「いいの?」
「……嫌じゃない」
照れを隠しながらそう言うと、美奈が「ふふっ」と笑って、道行く大学生くらいのカップルに写真をお願いした。
写真を撮りおわると、そのカップルの女性の方が、
「君たち、なんか初々しくてかわいいね」
なんて言うので、二人して顔を赤くしてしまった。
そのカップルが去ると、美奈がつぶやいた。
「……私たち、ちゃんと恋人同士に見えてるのかな?」
「そ、そりゃ、そうだろ?」
なんなら、このラブラブムードが目に入らぬかというぐらいで歩いているつもりだ。
「んっ、良かった」
そう言って美奈が手を繋いで指を絡ませくる。
……可愛すぎじゃないですかね? 俺の彼女。
◇ ◆ ◇
ジェットコースターに着くと、そのまま順番待ちに並んだ。
退屈なはずの待ち時間でも美奈と二人だと幸せだ。
待っている途中で、やっぱりまた懐かしい思い出を思い出す。
「そういえば昔はこれも乗れなかったなぁ」
「達也の身長が足りなくてね」
「言うなよなー」
子どもの頃は美奈の方が身長が高くて、俺だけ乗れない事があったのだ。
泣き出して親を困らせたことを覚えている。
結局、「達也が乗らないなら私も乗らない」って美奈も乗らずに、俺の傍に居てくれた。
……今思うと、当時からめちゃくちゃ優しかったな。
「いいじゃん、今は達也の方が身長高いんだし」
「中学の途中から一気に伸びたからな〜」
二年生ぐらいの時だったか、成長痛で膝が痛かったことを覚えている。
「……私、悔しかったなぁ」
「ん? 悔しがることなんかある?」
平均的には男の方が身長が高いわけだし、自然なことだと思うけど。
「なんとなくだけどね……。達也の顔が遠くなるのが嫌だったのかなぁ」
「よく分からんが……」
「……ね、ちょっと膝曲げてみて」
「いいけど……」
そう言って俺は美奈の顔と同じぐらいの位置まで自分の顔を下げる。
「そうそう……。昔はいつもこんな感じだったなぁ」
「ん……確かに」
ちょうど俺と美奈の顔の位置が一緒ぐらいの高さになっている。
「……いつでもキスできそうな高さだったのにね」
そう言って美奈は俺の顔を両手で挟んだ。
美奈の透き通った目が俺の目の奥を覗き込んでくるようだ。
「……そんなの……今だって出来るだろ」
と言って、俺は彼女に顔を近づけると──
「ゴホン!!」
後ろに並んでいる家族連れに無言の圧力を掛けられた。
慌てて元の距離に戻る。
……くっ! あと少しだったのに!!
そんなバカップルムーブをしていたら、一時間なんてあっという間だった。
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