11話:達也活躍す

◇ ◆ ◇


美奈と付き合い始めてから数日後──


「達也、お前、結構凄い奴だったんだなぁ……」


学校の休み時間にタクと話していると、突然そんな事を言い出した。


「え? なにが?」


「いや、美奈ちゃんのことだよ……突然コクった時は何事かと思ったけどさ……」


「……あ、あのときはスマンかったな」


美奈に久しぶりにあえて、頭が真っ白のまま告白してしまった。

一緒に居たタクの事を忘れてしまって、怒らせたんだった。


「ま、もういいよそれは。今となっては逆に尊敬するわ。あんな堂々とコクるなんてさ」


「そ、そうか?」


「まあさ、二人とも幼馴染で仲いいから、いつかこうなってもおかしくなかったけど……。お前にそんな勇気があるとも思えなかったし」


「確かになぁ……」


高校の時の俺は、幼馴染という関係生が崩れてしまうことが怖かったんだと思う。

大人になって、失う怖さを知ってからこそ怖い物知らずになれたというのは皮肉なものだ。


「あ……ちなみにな、もうクラス中、お前らが付き合ってること知ってるからな」


「ええ!? そうなの?」


「男子からの嫉妬に気をつけとけよー」


「う……まじか」


当然のことだが、男子の中での美奈の人気は高い。

今までは単なる幼馴染だったから、嫉妬も多少は緩かったけど、今後はどうなることやら……。


「女子からの嫉妬もあるんだよ」


俺とタクの会話に美奈が入り込んできた。


「ん? どういう意味?」


「ほら、最近の達也ってば、妙に授業中目立ってるしさ」


「あ〜、確かに。お前ってそんな勉強頑張る奴だったっけ?」


頑張る奴……ではなかった。

勉強が全く出来なかったわけではないが、そこそこで満足していたのが俺だった。


一方で美奈は、才色兼備を絵に描いたように勉強もできる。

というか、努力を苦にしないタイプだった。

なので、俺の知る未来だと、美奈は東京の一流大学へ進学する。


そして俺は田舎の二流大学だった。

この差は俺が高校時代に思っていたよりも大きかった。

物理的距離が離れることもさながら、精神的な距離も離れてしまった。


二流の俺が一流の美奈と会うなんて恥ずかしいという気持ちが生まれてきてしまったんだ。

今にして思えば、そんな下らないプライドは投げ捨ててしまえばいい、なんて言えるが、当時の俺はそんな簡単なことが出来なかった。


というわけで今回は勉強を頑張っている。

現時点で持っている大人としての知識はどこまで活かせるかわからない。

幸いなのが、脳細胞も若返っているためなのか、勉強したことの吸収が早いことだった。


「ん……これからは、ちょっと頑張ろうかなと思ってな」


「へ〜……なんでだ?」


「う……まぁ……ストレートに言うとだな……美奈と同じ大学に行きたいからだな」


「──えっ!? も〜、気が早いよ。私たちまだ一年生だよ」


「んなことない、高校なんてあっという間なんだよ」


俺以上に、この言葉を実感できる高校生はこの世にいないんじゃないだろうか。

光陰矢の如しならぬ、光陰新幹線の如しだ。


「……そっか。そうだよね……」


美奈が噛みしめるようにうつむいて、そのまま俺にくっついた。


「ああ」


「……一緒の大学に行けるといいね」


そのまま、俺の肩に頭をコツンと当てる。


「おう」


「あの〜、お二人さん、教室でいちゃつくのやめてもらいます?」


タクに言われて教室を見ると、俺たちは教室中の注目を集めていた。


「「ご、ごめん」」


流石に少し恥ずかしくなって、自分たちの席にもどって授業の準備をした。


◇ ◆ ◇


その日は午後に体育の授業があった。

この時代に来てから、体育は二回目だ。


体育は隣のクラスとの合同で行われるので、それなりの人数がいる。


期間ごとに色んな種目をやるのだが、今日は種目が変わるタイミングで、男子がソフトボール、女子が陸上だった。


相手のチームのピッチャーとキャッチャーは隣のクラスの野球部員で、ピッチャーの方はソフトボールの経験もある奴だ。


一応野球経験のある俺は、三番ショートで出場することになったが、もうずっとバットも振っていないので、さすがに自信がない。


一回の表に守備機会があったが、ボテボテのゴロだったので無難にさばけた。

そして一回の裏、ツーアウトランナーなしで打席が回ってきた。


あんな速い球打てるかよ……と思いながら打席に入る。


「お前、浅草さんと付き合ってるんだろ?」


とキャッチャーが俺につぶやいた。


「そうだけど……なに?」


「いいや……なんでもないけどさ……。あいつの球110kmぐらい出るんだぜ。野球換算の体感だと140kmぐらい」


うわあ無理だわ……という気持ちを隠して平静を装った。


「ふぅん……」


一球目──外角低めにストライク。


「お前さあ……達也って言うらしいね。漫画のタッちゃんってわけだ。あっちほどカッコ良くないけどさ」


うるせえなぁ、こいつ。

と気を取られていたら二球目の投球が始まる。


「──!?──」


モロに顔面を狙った投球だ。

昔取った杵柄なのか、ギリギリ反射的によけられたが、尻餅をついた。


「ははっ、やっぱカッコ悪いなぁ。浅草さんにはもったいないよ」


「……」


……俺に恥をかかせたいらしい。

ムカついたので多少、大人のズル賢さを使わせてもらおう。


「……あのピッチャーさぁ、癖あるよね。外角と内角で踏み足が全然違うもん」


「はぁっ?」


「ほんとほんと、タイム取って注意しに行った方がいいんじゃない?」


体育の授業とは言え、野球部がシロートの帰宅部に負けたくないという気持ちは強いだろう。


「……いらねーよ」


そして、素直にアドバイスにのるはずもない。


「さいですか」


俺は正面を向いてバットを構える。


三球目──


──カァーーン──


俺が外角のボール球を思いっきりひっぱたたくと右中間をボールが抜けた。

そのまま走ってランニングホームラン。


ホームベースを踏むときに、キャッチャーが悔しそうな声で、


「なんでわかったんだよ……」


と聞くので


「だから、癖があるんだって」


と答えておいた。

次のプレイが始まる前に、キャッチャーがタイムをとって、ピッチャーとヒソヒソと話していた。


まぁあれだ……。

……なんのことはない。癖なんて見つけてなかった。


ただ、ああやって揺さぶりを掛けてやれば、大抵のキャッチャーは一回外に外す。

癖があるのかないのか自分で確かめたい、スグに打たれたくないって気持ちが働くだけだ。

決めに行く球でもないから、ピッチャーの球速も遅めになる。


それを一二の三で、ひっぱたたいただけ。


ちょっとした大人の悪知恵に引っかかった青春高校球児は、癖があるんだと思い込んだピッチャーの自滅で、その後はボロボロだった。


「達也すごかったじゃん!」


体育が終わって教室に戻る前、美奈に声を掛けられた。


「……たいしたことないよ」


「またまた〜。女子もキャーキャー言ってたよ」


そう言って、俺の腹をつつく美奈。


「う……」


「な〜に恥ずかしがってんの?」


美奈に褒められて嬉しいが、あまり彼女を直視できなかった。


実力以上の力で勝って褒められたから、恥ずかしかった?

いや、違う。


前回は男子と女子で別の場所で体育の授業だったから、気がつかなかったけど……。


そうか、この時代って



────ブルマじゃん!!!!───



ホント、戻ってきて良かったなぁ……。

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