第9話:俺のこと、好きだったの?

……服着てると分からないけど、結構大きいんだな、それにふにょふにょと柔らかい……。


自分の腕に当たる美奈の体の感触に幸福感を感じながらファミレスに着いた。


「え〜と……、そっちに座ってもいい?」


「お、おう」


案内されて席に着くと、美奈は俺の隣に座った。


昔から一緒にご飯を食べるなんて事は日常茶飯事だった。

ただ、当たり前だけど、向かい会わせで座ること多かったから、隣同士で座ると距離が近くてドキドキする。

さっきまでだってあんなに密着してたのに、また違った気分だ。


メニューを見ながら、


「あ〜、俺、完全にリア充だよー」


などと自然につぶやいてしまう。

俺の過去の青春時代からは、ほど遠い言葉だ。


「え? 達也、うな重にするの?」


「え!? ち、違う、違う!」


──し、しまった。

この時代じゃリア充なんて言葉はなかったのか。

そりゃそうだよな、ネットすらそんなに普及してないんだ。


「もっと軽いのにしとくよ」


「そうだよー。帰ったら晩ご飯だってあるでしょ」


「う、うん……とりあえずサンドイッチにしとくか」


「う〜ん……じゃあわたしは、パフェかな」


「おいおい、太るぞ」


「ひど〜い」


美奈が頬を膨らませる。


──いかん、昔の幼馴染ノリでついつい悪態をついてしまう。

なんとかフォローせねば。


「ま……まぁ、美奈は太ってもかわいいからな!」


「……そ、そう?」


俺の顔を覗き込む。

ちょっと拗ねていたけど、そんな顔もまたかわいい。


「た、多分な」


美奈が太っている姿なんてあんまり想像がつかないけど……。


「もー、達也適当すぎ! …………いいよ、二人でわけよ?」


「お、おう。そうだな!」


パフェの食べさせ合い?

それこそまさにリア充イベントじゃないか。

くっ、楽しみでたまらない!


タブレットで注文……なんてことはこの時代ではもちろんないので、店員さんを呼んで注文をする。

ほどなくして、ドリンクとサンドイッチといちごパフェが運ばれてきた。


「え〜と、いただきます」


とりあえず、サンドイッチを片付けてしまおう。

もしゃもしゃと急いで食べ始める。


「ちょっと達也、子どもじゃないんだから」


「ふ、ふぁって(だって)」


「ゆっくりでいいから」


「う、うん」


なんだかカップルというか、母親に諭される子どものような構図になってしまった。

中身はおっさんのくせに、女子高生にお世話されてしまうとは……。


「焦らなくていいからさ、私は待ってるよ」


そう言って、美奈はちびちびといちごパフェを食べていた。

俺は、もぐもぐとゆっくりとサンドイッチを咀嚼していく。


「……今までだって、ずっと待ってたんだからさ……」


ん?

俺が告白するのを待っていたって事なのかな?


ドリンクを飲んで、口の中をキレイにしてから俺は聞いた。


「な……なぁ、美奈ってさ……昔から俺の事好きだったの?」


幼馴染としては仲は良かったと思うけど、昔の記憶をたどる限り、そんな素振り見せてもらった覚えがない。


「もう……達也って鈍感だからなぁ……。アピールしてたつもりなんだけど……」


「そ、そう?」


俺が鈍すぎただけなのか。

確かに、中学生ぐらいだと女の子の方が大人だしな。

俺はかなりガキだったから、恋愛感情に疎くても全然不思議じゃない。


「そうだよ。それにほら、バレンタインだって毎年チョコあげてたじゃない?」


「え? それってだいぶ昔のことだろ。少なくとも中学に入ってからは、美奈からチョコもらった記憶無いけど」


「ええっ!? ちゃんと靴箱に入れてたけど……」


「そうだっけな……」


かなり昔のことだけど、さすがに美奈からチョコをもらってたら、覚えてそうなんだけど。

う〜ん……。


「あ、確か、バレンタインの日に俺が帰ろうとしたら、誰かが俺の靴箱から何か持ち去って走って行く姿を一度見たことあるな」


「ええ〜……」


「……今考えると、美奈はモテてたから、誰かが俺に嫌がらせしてたのかもしれないな」


もともと美奈と幼馴染の俺は、周囲からの嫉妬の対象だった。

俺たちの仲を邪魔しようとする男がいてもおかしくない。


「……しょんな〜。頑張って作った奴だったのに……」


美奈ががっくりと肩を落とす。


「ま、まあ終わったことだし、今はこうして美奈と……恋人……になれたわけだし」


「うん……今年は……ちゃんと手渡しするから」


「おう、楽しみにしてる……で、その前に……」


そう言いながら、サンドイッチを食べ終わった俺はパフェをスプーンに取ると、美奈の前に差し出す。


「はい、あ〜ん」


「え!? ……達也からやるの?」


「いいだろ? ほ、ほらホワイトデーのお返しをできなかった代わりってことで」


「う、うん……あ〜ん……」


美奈の形の良い唇が上下に開く。


──うーん、この唇に俺はキスしちゃったのか……。


「……ど、どうしたの? 早く……」


「い、いやすまん……ちょっと昼の事を思い出してて……はい」


そう言いながら、俺はパフェを美奈の口に入れた。


「むぐ……ぬぐ……ひょ、ひょっと! 恥ずかしいこと言わないでよ」


パフェを口に入れて、むせながら拗ねている。


「わ、悪い……」


俺が謝ると、口を拭った美奈は俺にパフェを差し出した。


「まったくもう……はい、今度は私の番だよ……あ〜ん」


「……おう……」


口の中にパフェが入ってくる。

美奈に食べさせてもらっていることに幸せを感じて、味は甘いってことしか分からない。


「別に……思い出さなくても、これからいっぱい……してあげるのに……」


「ぐふっ……むぐっ」


今度は俺がむせた。


「ふふっ……さっきのおかえしだよ」


美奈はそう言って、いたずらっぽく笑う。


──こいつ、こんな小悪魔みたいなところがあったんだな。

かわいくて……新鮮で……前よりもっと好きになってしまいそうだ。


【あとがき】

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