第7話:もっとドキドキ

ベッドに腰掛けていたので、勢い余って仰向けに押し倒されるような格好になってしまった。


「達也……」


そのまま美奈が俺の胸に顔を埋めたので、ぎゅっと抱きしめる。


そんな時だった。


ガタッ──


音を立てて保健室の扉が開いた。


(ヤバッ!!)


反射的に、美奈を掛布団の中に入れて隠してしまった。

美奈も俺の腹あたりを抱きしめるような状態で、密着してぎゅっと体を小さくしている。


緊張と興奮でドキドキと胸が鳴る。


入ってきたのは時掛先生だ。

昼休みが終わったのだろうか。


仕切りの役割をしているカーテンをめくって、声をかけてくる。


俺と美奈の体を隠している布団は、もともとふわっとしたタイプだったので、注視しなければ膨らんでいるのはギリギリ分からない……はずだ。


「ええと……中杉くん、大丈夫か?」


「え、ええ! ずっと寝ていたので、かなり良くなりました!」


「……そうか? それにしては顔が赤いが……」


少し距離を置いていた時掛先生がつかつかと歩いて近づいてくる。

そのまま俺のベッドの横に立つ。


(ひえ〜!)


俺は、情けない声を心の中でだして体が硬くした。


「……き、気のせいでは?」


「……そうだろうか? どれどれ」


そうして時掛先生は、俺の額に手を当てた。

ひんやりとした先生の手が気持ちいい。

先生との距離が近くなって、その美しさに目が奪われる。


……じゃなくって!!

好きな女の子が抱きついていているのに、他の女性を気にしてどうするんだ!


──だけど、考えれば考えるほど、美奈の体の感触と先生の手の感触に、意識を集中してしまって、胸のドキドキがどんどん早くなってしまう。

布団の中の温度も熱くなっているように感じた。


「う〜ん……これじゃ分からないか」


と言って先生は、今度は俺におでこをくっつけようとしてきた。


──待って待って先生!

ヤバイ! それはヤバすぎるって!!

美少女JKに抱きつかれた状態で、美人先生にそんなことされたら、俺は天国に行ってしまうぞ。


俺はなんとか声を絞り出す。


「……た、体温計!」


「ん?」


「体温計はないんですか! ここ保健室ですよね!?」


「……あ〜、体温計ね〜」


そう言って、先生はベッドから離れて自分の机に戻っていった。

机の引き出しをゴソゴソとしながら、喋っている。


「いや〜、実は体温計どこにしまったか、忘れちゃってさ〜」


──おいおい、ズボラすぎるだろこの人!


「え〜と、どこだっけな〜」


先生がこちらに背を向けている間に、俺は布団をめくってお腹に抱きついている美奈に、


(……今のうちに隣へ)


と、ヒソヒソと伝える。


美奈はうなずいて、布団から出ると、カーテンで仕切られている隣のベッドに移動した。

これで最悪、見つかっても大丈夫なはずだ。


「あ、そうだ! 昨日、高木先生に貸したまんまだった。ってことは職員室か〜」


「そ、そうなんですか!」


「う〜ん……。ちょっと返してもらいに行ってくるわ。待っててね」


「はい、待ちます! いくらでも待ちます! なんなら十年でも! ゆっくりでいいですよ! ははは」


「や〜ね。そんなかからないわよ。面白い子」


そう言って、時掛先生は保健室を出て行った。

先生の足音が遠ざかるのを確認して、美奈に声をかける。


「い、今のうちに教室に戻って!」


「うん」


美奈は、うなずいて保健室を出て行く。


去り際に扉のところで美奈が振り返って、


「……ね、私たち、ドキドキできたね!」


と、はにかんだ笑顔で言った。


俺は、


「お……おう」


とドギマギしながら返すのが精一杯だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る