第6話:キス……しようよ

……でも、タイムリープ前のアルコールなんて体内に残ってたりするのか?

タイムリープ自体が科学を超越した事象だから想像もつかない。


困惑する俺を見て、時掛先生はふふっと笑った。


「冗談よ、冗談」


「な、なんだ……」


「でも、そんな動揺するなんて、君、ほんとにアルコール飲んでないでしょうね?」


「の、飲んでません」


「だめだよ〜。ちゃ〜んと、大人になってからじゃないと」


クールな先生かと思ったけど、どこか魅惑的な人だと感じた。


「ま、いいわ。軽い風邪でしょう。とりあえず薬でも飲んで、横になってなさい」


「はい」


保健室のベッドで休ませてもらう。

ちょっとしたら、教室に戻ろう……。


そう思って、横になると、ふと考え始めてしまう。

出会い頭の勢いで美奈に告白できたけど、イマイチ釈然としない答えだった……。


俺、ちゃんと美奈に好きだって言えたよな?

美奈も俺の事、好きだって言ってくれたよな?

俺たち、付き合うことになったんだよな?


……目覚めてからここまで、本当に一瞬の出来事に感じる。

時間の感覚がおかしくなっているのだろうか。

そのせいなのか、美奈と付き合うことになったことも実感がない。


もやもやとしながらそんなことを考えていると、なんだか、この時代に戻ってきたこと自体が夢のようなのに、またその中で夢を見ているような気持ちになった。


そうして……意識が途絶えた。


 ◇ ◆ ◇


「──!?──」


ドキッとしながら、目が覚める。

意識が覚醒した瞬間に、もしかしてこのタイムリープの夢が覚めてしまったのではないかと、恐くなったんだ。


でも、目が覚めると目の前には「一応、知ってる天井」があった。

俺が寝ていた保健室の天井だ。


それを確認すると、


「良かったぁ……」


思わず声に出してつぶやいた。


「……何が?」


そう聞こえて、声の方向に目をやると美奈がベッドの脇の椅子に座って俺を見ていたようだ。

不思議がった目で俺を見ていた。


「美奈……?」


「ふふっ、そうだよ。変なの」


俺はベッドに腰掛けて美奈と同じ目線になって尋ねた。


「……えーと……今何時?」


「もう、お昼だよ」


「え……俺、そんな眠ってたのか?」


ちょっとだけ休んで教室に戻るつもりだったのに、相当、深く眠ってしまったらしい。

登校してから、教室に一回も行かず、昼まで寝てしまうとは。


「ねぇ……達也、大丈夫? なんか今朝から様子おかしかったから、心配で……」


「ああ……大丈夫……。眠ったら良くなった」


「そう……良かった」


「心配かけてごめんな……」


そうして、お互いに黙ったまま、少しの時間が流れた。

俺は思いきって、気になっていたことを切り出した。


「あ、あのさ……今朝のことなんだけど……えーと美奈の家の前で……」


「う、うん……」


美奈がうつむき加減で赤くなっていた。


「……俺たち、恋人同士ってことでいいんだよな……?」


俺にとって一番大事な質問だ。


「……うん……」


「……それじゃあさ……ちょっと待って……って言うのはどういう意味?」


「あ……うん……変なこと言っちゃってごめんね。突然のことで、わたしも混乱してて……その……」


俺は黙って美奈の言葉の続きを待った。


「達也のこと好きだよ。……だけど、わたしたち、幼馴染じゃない? だからさ、ちゃんと男の人として好きなのかどうなのか、自信がないの……」


「……そうか……」


俺は少し肩を落とした。


「ち、違う……きっと、この気持ちは本当に恋だよ! ただ、それに確信がもてるまで、待って欲しいって意味だったの……」


「……確信? でも、そんなのどうやって……」


俺が沈黙すると、美奈が意を決したように言葉を発する。


「……今すぐ、確かめる方法……あるよ……」


「方法……?」


そんなものがあるなら今すぐ試したい。


「…………あのね……達也……」


「うん?」


「……キスして……いい?」


「……え……」


意外な言葉だった。

美奈からそんな事言われるなんて……嬉し過ぎる。


「そ……それで、ドキドキできたら、きっとこの気持ちは本物だから……ね?」


美奈の目が潤んでいる。

吸い込まれるような気持ちで俺も返事をする。


「……うん……キス……しよう……」


そうして、俺たちは唇を重ね合わせた。

美奈の唇はぷっくりとやわらかくて、ほんのりと甘かった。


「どう……だった?」


唇を離した後、俺がそう聞くと、


「うん……ドキドキ……したよ」


「じゃあ──」


「だから……もう一回……ね?」


頬を赤らめた美奈はそう言って、もう一度キスをせがんだ。


「んっ……」


今度は唇を合わせながら、手と手をつないでお互いの存在を確かめあう。

体温が混ざり合って、美奈の手が熱くなっているのか、俺の手が熱くなっているのか、分からない。


俺は、嬉しさと、恥ずかしさと、気持ちよさで、飛んでいきそうになる意識をつなぎ止めるのに必死だった。

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