第5話:ばれちゃった!?

美奈は耳まで真っ赤にしている。


え!? ええええええええええええええええええええええええ!?

これマジ? これマ? こマ?


美奈ってば、俺のこと好きだったの?

うっそだぁ〜!?


…………いや…………。

しゃんとしろ俺!


この状況で、冗談みたいなことをやってる場合じゃない。


しっかり美奈に俺の想いを伝えないと……。

今度こそ、逃げちゃ駄目だ、本当に。


「美奈……俺と、付き合って欲しい……恋人として」


しっかり彼女の目を見る。

ふざけてるわけじゃないって、通じるように。

俺がどれだけ美奈のことを好きか、分かってもらえるように。


「……」


……美奈は考え込んでいるように見えた。


待っていると、心臓の鼓動が驚くほど早くなって、ふと、このまま死んでしまうんじゃないかって思った。


「いい……よ」


……やった!

やったよ!

もう十年以上越しの恋が成就したことで、俺はこの場で飛び跳ねたい気分だった。


「……けどね……ちょっとだけ……待って」


え? え?

どういうこと?

いいのか、だめなのか、どっち?


「ど、どういう意味? つまり……その……保留……みたいな?」


「ううん、違うよ! ……つ、付き合おうよ、わたしたち」


ぶんぶんと頭をふって、改めて意思を伝えてくれる美奈。

どうやら付き合ってはもらえるらしい……。


嬉しさと、気恥ずかしさと、そして混乱でどうしていいか分からず、その場で少し沈黙していると──


「……ぉ~い……。お~~い……」


と近くで声が聞こえた。


声の方向を見ると──


「おおっ! タク!? いたのか!」


「……ってか、一緒に来ただろ……」


タクが俺の耳元で叫んでいたようだ。

舞い上がってしまって、存在をすっかり忘れていた。


「す、すまん! 美奈しか目に入らなくなってた!」


「……お前を……殺す」


顔がマジだった。


「わ、わるい」


謝る俺の横で、美奈の顔が赤くなっていた。

……俺、勢いで、結構すごいこと言ってしまった気がする。


 ◇ ◆ ◇


なんとなく気まずい雰囲気になりながら、三人で学校に着いた。


さすがに、高校に通っていたのはかなり前のことなので、学校の構造の記憶があやふやだ。

一年の時、二人とは同じクラスだったのは覚えているので、基本は後ろから二人について行けば良いんだけど……。


「……え〜と……」


まず最初、自分の靴箱を探すのに苦労した。


「?」


幸いにも、名札は五十音順に並んでいた。

二人に若干怪しまれたけど、自分の場所をなんとか探して靴を入れた。


廊下を歩いていると、なんとなく覚えている記憶と、目の前に見えている風景が重なり合っていく。

比喩じゃなくて、実際に記憶が蘇ってきたような、ノスタルジックで不思議な感覚だった。

しかも、他の生徒たちがたくさん居る。


社会人になってから、こういう空間に来ると逆に異様な雰囲気に感じるな。

そして……騒がしくて、居るだけでもちょっと疲れる。


物思いにふけりながら、教室に入るところまで来たのだが──


……しまったなぁ……。

自分の席の場所がまったく分からない……。

学期中に何度も席替えするクラスだったから、毎回の席の位置なんて記憶に残っていない。


……いっそのことタクに聞いちゃおうか……。

いや、さすがに怪しすぎるか?


自然にこの場を切り抜ける、いい方法はないかな?


と、少し考えを巡らして──


「ご、ごめん! 俺ちょっと体調悪いから、保健室行ってくるわ。カバンだけ頼む!」


「お、おい!?」


タクに荷物を預けて駆け足でその場を去った。


これなら、後から教室に入って自分が持ってきたカバンの位置を確認すれば、スムーズに席に座れるだろう。


……一応、実際に保健室に行った事実だけ作っておいた方が良さそうだ。

記憶をたぐり寄せながら、廊下を移動した。


 ◇ ◆ ◇


保健室につくと、ノックしてから扉をあけた。


「すいません。ちょっと体調が悪くて……」


そう言いながら入っていくと、保健室の先生と覚しき女性が足を組んで椅子に座っていた。

黒髪ロングでかなり若く見える。

白衣とのコントラストが、さまになっていた。


(……こんな人、居たかな?)


正直、保健室の世話になった記憶がほとんどないし、養護教諭の顔なんて覚えちゃいない。

かなりの美人だから、印象に残ってても良さそうなもんだけど。

まぁ、同い年で好きな女子がいる高校生が、年の離れた大人の女性なんて覚えていないのも普通かも知れない。


「症状は?」


「え……と、頭痛と吐き気です」


「……そこに座って」


必要以上の言葉は話さない人なのかな?


クールな印象の先生が示した椅子に腰掛けると、彼女と向かい合って座る形になる。

まじまじと顔を見つめられて、目を覗き込まれる。


……なんだか、緊張するな。

自分が大人の記憶を持っているのもあるかも知れない。

大人の美人と向かい合っていると、相手の女である部分を妙に意識してしまう。

存在を主張している胸とか、黒いタイツが魅惑的な足とか……。


この先生、何て名前なんだろう?

と気になって、白衣の名札を見ると、時掛ときかけという名前らしい。

ふーん……下の名前はどんな感じなのかな……?


って、いやいやいや!

俺は美奈一筋なんだ!

いくら美人だろうと、こんな年増(実際の俺より間違いなく年下だが)に、心揺らされてどうする! って無理矢理自分に言い聞かて、雑念を払った。


「……口ひらいてみて、あ〜ん」


「あ〜ん」


「……う〜ん」


どうしたんだ? 俺は単なる仮病なんだけど……。


「……アルコールの匂いがするわね。二日酔いじゃないかしら」


え!? えっ?


そういえば……タイムリープする前に美奈からの手紙を読んでから、いてもたっても居られなくなってビールをあおったことを思い出した。

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