第4話:待ちきれないっ!

「しっかし、珍しいよなー。達也がわざわざ美奈ちゃんの家まで迎えに行くなんてさ」


「ま、まぁな!」


俺の家から学校に行くまでの途中で、美奈の通学路と合流するので、昔の俺はわざわざ家まで行く事はなかった。

なんとなしに、合流地点で会えればいいや、会えなければそのまま登校しちゃえ、ぐらいの気持ちでいたんだ。

でも今回は違う。


ちゃんと迎えに行く優しさを見せたいということもあったし、何より──


──早く会いてぇーーー!!!!

──会いたいよぉーーー!!!!

──今、会い行きます!!!!


「お、おい、達也! 待てよーーーー!」


おう……気がつくと、いつの間にか駆け出していたらしい。

タクとの距離がかなり空いていた。


「す、すまん……」


タクが追いつくのを待って、一緒に歩く。

ほどなくして無事に美奈の家に到着できた。


すぅはぁ……と深呼吸して、心の準備をする。


「お前……何やってんだ?」


「……戦いの準備……かな……」


「?」


不思議がるタクを無視して、チャイムを押した。


「はーい」


インターフォンから美奈のお母さんの懐かしい声が聞こえる。

お母さんもすごい美人で優しい人なのだ。


「えーと……中杉です! 美奈さんをお迎えに上がりました!」


「達也くん? ふふっ……ずいぶんとご丁寧な挨拶ね。美奈はもうすぐ出るから、ちょっと待っててね」


ちょ、ちょっと丁寧すぎたか。

久しぶりに高校生に戻ったから、加減が難しい……。


そうして家の前で待つこと数分──


──ガチャリ──


音を立てて玄関の扉があいた。


 ◇ ◆ ◇


ドクンと胸が高鳴り、じわりと汗が噴き出す。

ふわりと春の風が吹いて、さらりと肌をなでる。


──そして、現れた。


小さな顔に、優しそうな垂れ目、笑顔の似合う口角の上がった唇。

明るい色のポニーテールとスカートが風で軽く揺れている。


彼女が玄関から歩いてくる間、時間の流れが遅くなったみたいに感じた。


……めっちゃなつかしくて、めっちゃかわいくて、めっちゃきれいで、めっちゃいとしい俺の幼馴染……


いや、見惚れてないで、挨拶しないと!


「美奈! ひ、久しぶ──じゃなくって、おはよう!」


「おはよう。ふふっ! 達也なんか変だよ?」


いかん、動揺してキョドってしまった……。


笑われてしまったが、笑顔が見れた嬉しさのが勝る。

美奈の朗らかな笑顔を見れただけで、俺はもう満足だ……。


──じゃない!!


……何か言わなきゃ!

ぐいぐい行くって決めたんだ!

ヘタレじゃないんだ!

気の利いた言ってみせろ!

おっさん高校生!!


「美奈……やっぱり……かわいいね」


……バカー! 俺のバカー!

思ったことそのまま言ってるだけじゃねーか!

しかも会ってすぐなんだぞ!!


これじゃ美奈も呆れて──


「──へぁっ!?──」


聞いたことのないような音を出して体をびくんとさせた。

顔が赤くなっていくのが分かる。


「……ふぁ……ぃ……」


て、照れてるの?


……これはチャンスなんじゃないか!?

ここで気の利いたことを言えれば、大人の男らしさにメロメロになるんじゃねーか!?

検索しろ! 俺の人生経験の中から、なんか気の利いたセリフを探し出せ!


「美奈……ずっと……好きだった」


……バカー! 俺のバカー!

人生経験浅すぎだろ!

心の中をダダ漏れさせてるだけじゃねーか!


「──っ──」


美奈がぷるぷると震えている。


「あ、あの……達也……えと……」


今度は、体の下で両手をこすりあわせている。


……なんてこった……困らせてしまった。


そりゃそうだよな……。

通学するときにいきなり会って、好きって言われてもな……。

ロマンチックさのかけらもないし……。

ぐいぐい行くっていっても、順番はわきまえないと……。


とりあえず謝ってごまかそう……。


「ご、ごめ──」


俺の言葉をさえぎり、美奈の声が聞こえた。


「わたしもだよ!」


「……へぁっ?……」


今度は、俺の口から聞いたことのない音がでた。


「わたしも……達也のこと……好きだよ……」


美奈の目は俺の事を真っ直ぐ見つめている。

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