第2話:なつかしいっ!

◇ ◆ ◇


俺の名前は中杉達也なかすぎたつや

お気づきの人もいるかもしれないが、野球ラブコメ漫画の金字塔タッ○の主人公と一字違いの名前だ。

それもそのはず、両親が面白がって主人公と同じ名前をつけてしまったのだ。


そして、近所に住んでいる幼馴染の名字は浅草南あさくさみなみ……ではなくて、浅草美奈あさくさみな

こっちも同じ漫画の幼馴染ヒロインと似ている名前だが、これは偶然らしい。


とまあ、そんな名前をしているわけだから、子どもの頃から変に意識をしてしまったところがある。


甲斐性のない俺に「お前を甲子園に連れて行く」とか「世界中の誰より愛してる」なーんてことを言えるはずもなく、だらだらと高校まで一緒に過ごしてきた。

……というか、俺帰宅部だしな!


過去に戻ってきて思ったこと。

──すぐにでも美奈に会いに行きたい。


その気持ちをぐっとこらえて、改めて自分の部屋の中を確認してみる。


まず目につくもの──ブラウン管がある。

俺のいた時代じゃテレビはほとんど液晶だから、その大きさにビビってしまう。


……よくこんなスペースを取る物を使っていたな……。


そして……最も残念なことは……スマフォとパソコンがない!

今は平成七年の四月後半。西暦だと1995年。


Windows 95は……多分、出ていないな。

確か、父さんがパソコンを買ったのが、俺が高校二年のときだ。

そこまで待つしか無いか……。


「ってか、携帯もないんだが……」


携帯電話とかPHS、そしてポケベルは、この時代にもあったはずだ。

高校生のときに使った記憶があるんだけど、買ったの三年生ぐらいだっけな?


正直、無いものだらけで、俺からすると不便そうだ。


ただ、本棚には当時の漫画が並んでいたのが嬉しかった。


「幽☆遊☆○書か〜……懐かしいな」


……そういやこれも、幼馴染ヒロインだったな。

俺も今回は「だてに未来は見てないぜ!」ってところを見せたいものだ。


「っと、あんまりゆっくりはしてられないな」


とりあえず、まずは顔を洗いに行く。


俺の部屋は家の二階にある。

洗面所とトイレが二階にもあるので、そこで顔を洗って準備する。


「……歯ブラシどれだろ?」


自分の歯ブラシが分からないので、引き出しに入っている新しいものの包装を破いて使う事にした。


当時はほとんど使っていなかった、整髪料もしっかりつけて準備万端……多分。


シャツと学生服は、自分の部屋のハンガーに掛けてあったので、すぐ見つかった。

それを着て、鏡の前に立つ。


……なんか笑っちゃうな。

まず、自分が若すぎて笑える。

正直、幼い……という言葉が合うぐらいだ。


そいつがまだ真新しい学生服に袖を通してるってのが笑える。

多分、当時も着慣れてなかったんだろうけど、今も着慣れていない。


職場でのスーツも着ていると堅苦しいけど、学生服も同じぐらい堅苦しいな。


……とりあえず、こんなもんか……。


着替えを済ますと、緊張しながら階段を降りる。


◇ ◆ ◇


「お、おはよ〜」


恐る恐る階段をおりて、キッチンに向かう。


「おはよう」


「あら、今日は早いわね」


「ははは……たまにはね」


いつもギリギリだったもんなー。


キッチンに居たのは、無愛想な父さんと、元気な母さん。


母さんは洗い物をしていて、父さんはテーブルに座って新聞を読んでいた。

当たり前だけど、二人とも若いな……。

今じゃ老化が目立ってきてるから、二人の元気な姿を見られて素直に嬉しかった。


懐かしい食卓に座って、ご飯と味噌汁、卵焼き、漬物なんかを食べる。

この味で育ってきたから、やっぱり自分の口に良く合う。


父さんが読んでいる新聞をチラ見してみた。


「──っ──」


阪神淡路大震災の記事だった。


そっか……俺、そんな年まで戻ってきちゃったんだな……。

考えてみると、その後、また日本では大きな震災が起きる事を俺は知っている。


──もしかして、俺に何かできたりするだろうか。

例えば、事前に避難を促すとか……。


俺が日本を救うなんて大それた考え、今まで持ったこともないけど……。


……考えるべきことは多い……だけど、とにかく早く美奈に会いたい!


朝ご飯を急いで食べた。

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