エマニュエル 1-3

 ソフィーナとたわいない話を1時間ほどし、また来るからと言って別れた。


 城に帰るなり、エマニュエルはまたニコラを探した。

 


「家庭教師からソフィーナの評価を聞き出してくれ」



 ニコラは言われることを想像していたのか、すでに調べていた。



「ほぼ全員より、完璧との声をいただいております。宰相の娘だからでしょうか、政治関係の話しにはもっぱら強く、議論が過熱しすぎることもあるそうです」



 ニコラの報告が自分が思っていたよりも良く、エマニュエルは自分が考えていた計画を決行することにした。



「教師を呼び出し、王妃教育に切り替えるように指示をしよう。今後は授業後、必ず報告するようにとも伝えてくれ」



 しかし、ソフィーナの家庭教師には一つ欠けていることがあった。



「貴族マナーについての教師がついてないな」



 他は王妃教育に相応しい教育者がついているのだが、マナー教育についての指導者がリストに載っていない。



「宰相は有名な貴族嫌いですからね。仕事好きではなかったら、家族揃って田舎暮らしをしたいと日頃より言っているそうですから、あえてつけていらっしゃらないのかもしれませんね。婚約も言い出せば、すぐ逃げてしまいそうですよ」


「宰相には内密にすすめよう。しかし、教師を勝手に1人増やすのは宰相に気づかれるだろうしな…」


 エマニュエルは少し考え、名案を閃かせた。



「そうか。私が教えればいいんだ」



 エマニュエルは相手の所作を見るため、女性のマナーについても学んでいた。



「ニコラ、私はこれからできるだけソフィーナの元に通い、王妃教育の一貫を担おうと思う」


「止めても無駄なようですので、できるだけ行く日を教えてください。城下の警備を強化いたしますから」


「ニコラにしては甘い対応だな」



 絶対に反対されると思っていたエマニュエル驚いたように言う。



「殿下のお相手が決まることは国の安定に繋がりますから。宰相は中立派、政治的にまったく問題なく、身分も相応しい。殿下が望まれるのであれば、これほど似合う相手は他にいないのではないかと思われますので」


「まだ早い。これからの王妃教育についてこられるか、私と対等に話ができるか…。しかし、できれば彼女であってほしいと心から思っているよ」


 エマニュエルは先ほどソフィーナと過ごした時間を思い出す。自分が王子だと知らないソフィーナは、街の様子やエマニュエルのことを詳しく知りたがった。


 答える度にコロコロと表情をかえ、なんの思惑もない素直な反応をする彼女と過ごす時間はとても楽しいものだった。


 顔がにやけそうになるのを抑えつつ、これからの指導についてエマニュエルは考えていた。

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