エマニュエル 1-2

 ニコラがソフィーナについて報告があると言ってきたのは、2日後のことだった。



「殿下、フーリエ宰相の娘について調べましたが、情報が少なくあまり役に立つものはございません」



 ニコラが珍しく自信なさげに話す。



「わかったことすべて教えろ」



 エマニュエルは焦る心を抑えながら聞いた。



「かしこまりました」



 ニコラが手元の紙を見つめながら話し始める。



「フーリエ宰相の娘、名はソフィーナと申します。年は殿下より4つ下の10歳。学校には通っておらず、宰相が家庭教師を手配しています」


「私より下かも知れないとは思っていたが、4つも下とは思っていなかったな」


「兄が一人いらっしゃり、ジャルペンと申します。ジャルペン様は現在、辺境のターニャ伯爵家の娘シャルル様と結婚しております。子供はまだおりません。以前は王立学校の騎士部門に通っておられます。ジャルペン様は素晴らしい成績をおさめておられ、そこで現在の奥方であられるシャルル様に出会っておられます。ジャルペン様は…」


「エリック、私はソフィーナについて調べろと言ったのだ。兄の報告はまたでよい」



 ジャルペンの報告が続きそうだったので、エマニュエル王子は思わずニコラの言葉を遮った。



「それでは、以上です」



 ニコラが読んでいた紙をエマニュエル王子に渡す。



「以上とは、どういうことだ?」


「つまり、お名前がソフィーナ様、お年が10歳、家庭教師が通っているということしかわからないのです」



 手渡された紙には短い文が記載してあり、ニコラの報告が書いてあるだけだった。家庭教師の名前も書いてあったがそこには、この国の財務、歴史、外務等の名だたるメンバーの名前が書いてあった。彼らはエマニュエルの教師でもあったので、優秀だということはよくわかる。



「他にはお茶会、交遊関係についてなどの記録はないのか。公爵家の娘だ。そろそろ婚約者がいてもおかしくない年齢のはずだ」


「そのような情報はございません。これは噂ですので報告するのを悩ましたが、宰相は森から一歩もソフィーナ様を出したことがないそうです。よって、姿を見られたのも限られた人のみだとか」



 エマニュエルは耐えきれず立ち上がった。



「わかった。私が自分で調べに行く」


「殿下。お止めください。殿下に何かあっては困ります。行くにしても、もっと準備をして日を改めてください」



 ニコラが正論を言いながら引き留めた。



「宰相の別邸はすぐそこだ。門には騎士もいる。私が将来の相手を探すということは、この国にとっても大切なことだ。すぐ帰る」



 ニコラの制止を振り払い、エマニュエルは馬を跨ぎ、また宰相の別邸に向かった。


 2日前に訪れた時は湖で一人で遊んでいたが、今日もまた会えるか。


 はやる気持ちを抑え、森を駈けていくと湖が見えた。少し離れたところに馬を止め、静に歩いて向かう。


 そこには、ソフィーナがまた一人で遊んでいた。



「いた…」



 気配を消して見つめていたつもりだったが、視線に気づいたのかソフィーナがエマニュエルの方を向いた。


 目線が合い、驚いたような顔をしたソフィーナもまた愛らしかった。


 勢いに任せて出てきたが、急な訪問は失礼だったかと慌てる。



「驚いたとは思うが、決して怪しいものではなく、そう、私はエマニュエルと申し…」



 エマニュエルが焦り、カーテシーも忘れ挨拶を述べようとしたが、ソフィーナは笑顔で走って近寄ってきた。



「すごい!女神様みたい」



 ピョンピョン跳び跳ねそうな勢いだった。



「私、同じくらいの子に会うの初めて」



 喜ぶソフィーナにエマニュエルは一番気にかかっていたことを聞く。



「他の人には会ったことないの?そう、例えば婚約者とかはいないの?」



「そんな人いるわけないよ。友達もいないのに」


 ソフィーナが頬をぷうっと膨らませ、いいことを思い付いたと笑顔に変わる。



「ねぇ、私の友達になってくれる?」



 人懐っこいなとエマニュエルは自然と頬がゆるんだ。



「もちろん喜んで」



 そう言われると自分にも友達という存在は誰一人としていないことに気づいた。



「お名前はエルって言った?私はソフィーナよ。おばあ様と同じ名前だから、みんなからはソフィーって呼ばれてるわ」


「じゃぁ、私もソフィーと呼ばせてもらう。私のことはエルでいいよ」


「よろしくね。エル」



 ソフィーナの笑顔につられてエマニュエルも満面の笑みを浮かべた。

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