エマニュエル 1-1

「…妖精がいる」



 初めてソフィーナに会ったのは14歳の時だった。湖でパシャパシャ遊んでいるソフィーナは可愛らしく、ブロンドの髪は光を受けキラキラと輝いていた。


 一目惚れ。まさにこの言葉がピッタリな出会いだった。


 彼女と早く話してみたいという心を抑え、一目見ただけで城に帰ると、若いが優秀で信頼のおける従者ニコラを探した。



「ニコラ、すぐにフーリエ宰相の娘のことを調べてくれ」


「城から脱げ出したと思ったら帰って一言目がそれですか」



 嫌みを言いながらもニコラはソフィーナのことを調べてくれるようだった。



「宰相の知人にも聞いて参ります。少しお時間をいただきます」


「できるだけ早くしてくれ」


「かしこまりました」



 いつもに増して強い口調で急かしてくるエマニュエルにニコラは驚きを隠しつつ出ていった。


 エマニュエルは小さい頃より第一王子として、次期国王の役割を教えられてきた。


 そして、自分と結婚する相手は後の王妃になるということも理解していた。


 父親である王はもちろん国の資質に重要だが、妻であり母である王妃も外交に携わったり、国内の貴族との関係を取り持ったりと仕事は山ほどある。その地位に相応しい人物でないと国は平穏を保ってはいけないと幼い頃から肌で感じていた。


 そして父である国王より、妻にする相手の最終的な決定は自分でするようにとも言われていた。


 同じ年ごろの娘に出会っては、この子は相手にどうだろうかと考える。


 重役の貴族はこぞって自分の娘をエマニュエルに会わせたがった。少しでも王家との繋がりを強くしたいとみんな思っていたのだ。


 ほとんどの娘と会い、数人の候補を挙げながらも相手を決めかねている時、たまたま宰相にも娘がいるということを知った。



「フーリエ宰相、宰相にも娘がいるのか?」



 軽い立ち話のつもりで話しかけたが、いつもは澄ました顔をしている宰相であるギバートが明らかに表情を崩した。



「いえ、まぁ。はい。いや、少し急ぎますので失礼いたします」



 他の役人は、こぞって関わりを作ろうとするのに、会わせまいとする宰相の変な態度が心に引っ掛かった。


 宰相の娘が婚約したという話も聞いたことがない。


 気になる…。気になると、いち早く解決したいのがエマニュエルの性格だった。


 幸いなことに宰相の別邸は城から近い。それなら、様子を見に行けばいい!そう考え、すぐに馬で走った。


 街から森へと風景が変わり、少し走ると急に視界が開け、湖に出た。


 そこにいたのがソフィーナだった。会った瞬間に今まで感じたことのない思いが胸に宿った。


 どうか自分に相応しい女性であってくれ…と祈りながら、ニコラの報告を待った。

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