ソフィーナ 1-4

 2人が帰った後もギバートはソフィーナをパーティーになんとしても出させたくないようで、考え直せ、危ない、最後には明日は運気が悪いんだなんて、訳のわからないことを言っていた。そんなギバートを無視して自室に帰ると、少ししてアンジュが来た。



「ソフィー、あなたに渡したいものがあって…」



 そう言って出されたのはソフィーナの瞳の色である緑色の宝石エメラルドがついたネックレスだった。きらきらと真ん中に大きなエメラルドがあり、周りを小さなダイヤモンドが飾っている。


 宝石にあまり興味がないソフィーでも価値が高いものだとすぐわかった。



「すごく綺麗だけど、これどうしたの?」


「ソフィーが社交界に出る時のために、もう2年前くらいに作っておいたのよ。お父様がソフィーのことを愛しすぎて、どうしても危険な外に出したくないって、今まで延びてしまったんだけど、よかったら明日つけてみない?」


「私がこれをつけるの…?」



 アンジュから渡されたネックレスはずっしり重く、これを身につけるなんて恐れ多い気もしたが、自分の瞳と同じエメラルドは素晴らしく、自分のために作られたと考えると胸が一杯になった。



「きっと似合うと思うから。今まで外に出してあげれなくてごめんね。お父様も悪気はまったくないのよ。明日は今までの分もしっかり楽しんでね」



 そう言うと、ゆっくり休んでとニッコリ笑って出ていった。


 今まで外の世界とは無縁だったのに、エマニュエル王子が来て、パーティーに出ることが決まったなんて夢みたいだが、手にあるネックレスの重みで今日起こったことは本当なんだと実感できた。


 ネックレスを枕元におき眠りにつこうとしたが、明日うまくできるのか、父の言う通りやめた方がいいのかもしれない、でも家以外はどんな世界なのか知りたい、パーティーにも行ってみたい、そんないろんなことが頭によぎる。


 空はどんどん明るくなっていき、寝ないといけないと焦っていると、逆にまったく眠たくなくなり、眠れぬままいつもの起きる時間を迎えた。


 いつもと同じようにブロンドの髪をまとめ、部屋を出るとアンジュがいた。


「今起こしに行こうと思っていたところよ。ソフィー、そろそろお迎えが来るはずだから、急いで準備しなさい。ご飯もう作ってあるから」


「夜のパーティーなのに、もうお迎えがくるの?」


「女にはいろいろと準備に時間がかかるのよ。ほら、急いで!」



 アンジュに急かされ用意してあった朝食を食べようとリビングに向かう。そこには、いつも一緒に朝食を食べている父がいなかった。



「お母様、お父様はどうしたの?」


「朝から陛下に直談判に行ったわ。もう諦めが悪いんだから」



 アユジュは苦笑いを浮かべた。



「さぁ、ソフィーは気にしないで急いでご飯食べなさい。もうお迎えが来るはずよ」



 緊張でなかなか食がすすまないでいると、家のドアが叩かれ、誰かと思うと昨夜来られた眼鏡の男性だった。



「早くから申し訳ございません。エマニュエル殿下の命により、ソフィーナ嬢をお迎えに参りました。私、殿下の侍従をしておりますニコラ・デュクロと申します」


「お待ちしておりました。ニコラ様、本日は私どもの娘ソフィーナをよろしくお願いします」



 母に応対してもらっている間に急いで部屋に昨日もらったネックレスを取りに行く。夜のパーティーのお迎えがこんなに早いなんて思っておらず、心の準備も身支度もまったくできていない。準備ができていないと母に泣きつくと、全部お城でするから大丈夫だといつもの笑顔で言われた。


 ドタバタと出ていくと、家の前には大きくて立派な馬車があった。馬を見るのも初めてだ。思っていたよりも大きくたくましい体にビックリした。


 馬車の前では肩まであるウェーブのかかった赤茶色の髪の女性がお辞儀をしていた。ニコラに促され、馬車の側まで行く。



「ソフィーナ様。こちらが本日、ソフィーナ様のお世話をさせていただきますメアリーです」


「メアリーでございます。よろしくお願い申し上げます」


「私はソフィーナ・フーリエと申します。こちらこそよろしくお願い申し上げます」



 時間があまりないと挨拶もそこそこに馬車の中に案内された。ニコラも一緒に乗るのかと思っていたら、令嬢と一緒に乗るなんてできませんと御車の横に座られた。メアリーとともに馬車に乗ると、室内はとても広く2人が座っても十分な広さだった。



「いってらっしゃい」



 アンジュがとても嬉しそうにお見送りしてくれた。




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