ソフィーナ2-2
「ソフィーナ様、申し訳ございませんが、準備に取りかからないと間に合いませんので移動をお願いします」
エマニュエルの所作に赤面し、ボーっとしているとメアリーに声をかけられ、お城の中へ案内された。
メアリーに連れられ、いろいろな部屋をまわる。服を脱がされ採寸されると、全身を磨かれ、爪の先まで綺麗にしてもらう。
「すごい!肌がプルプルしてる!」
髪の毛も複雑に結い上げ、ドレスは鏡で合わせること数十着。実際に試着を5着ほどしてようやく全ての準備が整ったのは、パーティーが始まるまで1時間をきった頃だった。
たくさんの女性に囲まれ、アドバイスをもらいつつ選んだドレスはエメラルドのネックレスが似合う黄色のドレス。ふんわりと裾が広がった可愛らしいデザインの物だった。
エメラルドのネックレスが映えることも選んだ理由の一つだが、エルと初めて着たドレスも黄色だったなと懐かしく思い、つい同じ色のこのドレスを選んでしまった。
準備が整い、予定より早く終わったため、パーティーが始まるまで少し休憩していと言われ、広い応接室で待たせてもらう。
ソファとテーブルしかない部屋だったが、飾っている絵画やシャンデリアは素晴らしく高そうで落ち着かない。
しかし、ソファに座っていると、昨日眠れていなかったのと、慣れない準備の疲労から、すっかり眠ってしまっていた。
「ソフィー」
声をかけられ、目を開けるとエマニュエル王子の顔が目の前にあった。
「わぁー!すみません。私、こんなところで眠ってしまっていたみたいで…」
寝ぼけた頭でワタワタと慌てていると、落ち着いてと笑われてしまった。
「黄色のドレスにしたんだね。よく似合ってるよ。この部屋に閉じ籠ってずっと見つめていたいけど、ソフィーのデビューを邪魔するわけには行かないからね。嫌だけど、一緒に行くとしよう」
エマニュエルが2年前を懐かしく思いながら声をかけた。
「エマニュエル王子と一緒に行くなんて、私には荷が重すぎます。裏口からこっそり入らせていただければありがたいのですが…」
ソフィーナがうつむきながら言う。
「初めての社交界デビューはみんな特別なんだ。他の女性とも初めての記念によくダンスを踊ったりするから気にしないで。それにエスコートする相手がいないと、私も寂しいからね。今日の相手はソフィーに決めていたから、私のためにもお願いするよ」
他の女性も社交界デビューは特別扱いならと差し出された腕に手を絡ませる。まさかエマニュエルがエスコートするなんて思ってもみなかったソフィーナは、自分がまるでお伽噺の主人公になったように感じた。
パーティーは城のホールで行われた。王族は専用の入口から入室になるので、エマニュエルにエスコートされているソフィーナも王族専用の入口からと案内された。
入った瞬間からたくさんの視線を感じる。王族の方々は他の招待客から見えやすいよう
壇上にいて、第一王子であるエマニュエル王子は王族の方々の中心に位置するところに立っている。そして、最後に王がやってきた。
「今宵はよく集まってくださった」
王の挨拶が始まり、エマニュエルの横に立っているソフィーナはどうしてこんなにたくさんの方の前に立っているんだろうと顔を青くしながら前を見つめていた。そんなソフィーナにエマニュエルが耳元で声をかけてきた。
「あそこにソフィーの父上と母上がいるよ」
エマニュエルの視線の先を見るとなぜかそこには正装したギバートとアンジュがいた。ソフィーナと目があったアンジュは嬉しそうに、ギバートは複雑そうな顔をしている。
「エマニュエルを皆もどうか祝ってくれ」
その声と同時に会場からは大きな拍手があふれた。王の話が耳に入っていなかったソフィーはビクッとしてしまう。
「ソフィー、笑って手を振って」
驚いたのがばれてしまったのか、含み笑いのエマニュエルに言われ、とっさに手を振った。
「完璧にできてたはずだけど、今日の手の振り方は60点かな」
エマニュエルの呟きは拍手の音でかき消された。その後、拍手が小さくなってきたところで音楽がなり始める。
「さぁ、ソフィー。ソフィーの初めてのダンスをエスコートする名誉を私に与えていただけますか?」
エマニュエルがソフィーナの右手を取りながら話しかけてきた。
「もちろん、喜んで」
本音は今すぐにでもみんなの視線から逃れたかったけど、エルが王子様の誘いは断ると不敬になるから、必ず受けるようにって何度も言っていたことを思い出す。
エマニュエル王子のエスコートで壇上から降り、ダンスの始まりの基本ポーズを取ろうと王子の腰に手を回した。
エルの女性らしい細い体とは違い、エマニュエルは見た目は華奢な体だけど、組んでみると男らしい固い体でなんだか恥ずかしく感じてしまう。
エルとの舞踏会ごっこでしか踊ったことがないソフィーナは、うまく踊れる気がせず、すっかり固くなってしまった。そんなソフィーナを見て、エマニュエルがクスリと笑った。
「ソフィー、その顔は今からダンスを踊る顔じゃないな。ダンスとは楽しむものだよ。私を信じて、私の目を見つめて。体は自然と動くはずだ」
その言葉通りにエマニュエルの瞳を見つめる。見れば見るほど、エルによく似た目だなと思っていると、流れている曲もエルと一番練習した曲だということに気がついた。
「そう。あとは笑顔で踊れるようになれば完璧だよ」
少しずつ体も動いてきて、エマニュエルに優しく言われた言葉に安心して笑顔になる。
「王家の婚約の躍り初めて見たけど、あんなステップよくピッタリ踊れるな」
ソフィーナはダンスに集中して気づかなかったが、難しいステップを息ピッタリに踊るエマニュエルとソフィーナに周囲の人は皆驚いていた。
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