ソフィーナ 2-1
初めて馬車に乗り、想像以上に揺れ、乗り心地が良くないことに驚きながらもソフィーナは目の前に座るメアリーに話しかけた。
「メアリー様、あらためて本日はよろしくお願い申し上げます。恥ずかしながら、私は家から出たことがありませんので、ご迷惑をかけると思いますが、いろいろと教えてくださいね」
ソフィーナがそう言うと、メアリーは驚いたような顔をした。
「ソフィーナ様、私のことはメアリーとお呼びください。そのように、ご丁寧にしていただく必要もございません」
「では、ぜひ私のこともソフィーと呼んでくださる?」
メアリーとは年も近そうだし、もしかして友達になれるかもそれないとウキウキしながら聞くと、メアリーはさらに目を真ん丸に見開いた。
「ソフィーナ様、私はただの侍女でございます。ソフィーナ様はフーリエ宰相のご令嬢であり、殿下の大切なお相手ですから、そのようなことはできません」
メアリーにはっきりと断られ、せっかく友達になれると思っていたのにとしょんぼりしていると、馬車は森の外に出た。ずっと続いていると思っていた木々はあっという間になくなり、街の光景が広がる。
「こんなにすぐ街に行けたなんて」
昨夜ニコラが言っていたことは本当だった。
「ねぇ、メアリー、あれはなに?」
「屋台でございます。軽食などいろいろな物を買うことができます」
「すごい!立って食べれるように、形も工夫してあるのね」
「ねぇ、あれは?」
「騎士のための店でございます。武器や防具などがおいてあります」
「だから強そうな男性がたくさんいるね」
目にするもの全てが新しく楽しくて、次々に質問するソフィーナに対し、メアリーは一つ一つ丁寧に答えてくれた。
「ソフィーナ様、お城の敷地に入りましたので、もう少しで馬車は止まるはずです。私はソフィーナ様のお友達にはなれませんが、誠心誠意お側につかえさせていただきます」
馬車の中で子供のように嬉しそうにはしゃぐソフィーナを優しく見つめていたメアリーが笑い、そう言った。
馬車が止まり、メアリーが外に出る。続けてソフィーナも出ようとすると、お城に気を取られていたせいもあるが、思っていたよりも馬車の出口が低くく頭をぶつけてしまった。
「いたっ」
頭をおさえながら前を向くと、苦笑いのエマニュエル王子がいた。
「ソフィー、待っていたよ。準備で忙しいのはわかっていたけど、一目だけでも会いたくて」
そう言いながら、ソフィーナの手を取り、馬車から降りる手伝いをしてくれる。
「初めての馬車の乗り心地はどうだった?本当は迎えに行きたかったんだけど、誰かさんがうるさくてさ」
エマニュエル王子がニコラの方を見ながら言った。
「殿下、周りのことを考えてください!殿下が外出されるとなると、どれだけの護衛や見回りが必要だと思うんですか」
少しは立場をわきまえて行動すべきだとニコラがぶつぶつ文句を言っている。そんなニコラを気にもせず、エマニュエル王子はソフィーナの右手を取り、自分の唇に持っていった。
「また夜に会えるのを楽しみにしている」
そう呟き、エマニュエル王子はニコラと去っていった。
「馬車の乗り降りは練習してなかったからな…。しかし、あんなに見事に頭を打たなくても。美しい姿も台無しだ」
先ほどのソフィーナの様子を思い浮かべ、耐えていた笑みをこぼしながら言ったエマニュエル王子の言葉はニコラにしか聞こえなかった。
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