エマニュエル 1-5
エマニュエルは2年間の遠征で、騎士と共に訓練を行った。
この遠征は王族としての自覚を担うため、前線を知ること、城という恵まれた環境を離れ、心身ともに成長させることを目標としている。
エマニュエルは武術の基礎を学んでいたが、自分が学んでいたものは本当に基礎だったのだと思い知らされた。
筋力が足りなければ、技術もない。
始めは騎士達の訓練にまったくついていくことができなかった。騎士達も自分達と同じレベルは求めておらず、殿下は軽いメニューをと勧められたが、意地でも同じメニューをこなした。
エマニュエルの地面に這いつくばる姿は見慣れたものになり、王族としてあるまじき格好のつかない様子も見せてしまった。
しかし、2年間みっちり鍛えたおかげで、エマニュエル自身、納得のいく体つきになることができた。
最後まで騎士である彼らに敵うことはなかったが、彼らはその道のプロであり、それこそ、この国の素晴らしい財産だと実感できた。
騎士達も自分達と同じメニューをこなしたエマニュエルを身近に感じ、この先、彼のため、国のためにいっそう努力しようと思えたのだった。
これでもう理想の女性と言われないはずだと胸を張ってエマニュエルは帰城し、父であり王に挨拶をしに行った。
そこでは王が数枚の女性の姿絵と共に待っていた。
「よくぞ帰った、エマニュエル。明日お前の帰還を祝ってパーティーを開く。お前も、もう20歳。国内だけでなく隣国からも婚姻の話を急かされている。帰還そうそう悪いが、そこに婚約者の候補として数名あがってきている。ここにある名前を姿絵と共によく確認し、明日のパーティーに出るように」
ちらりと視線をあてるが、そこに愛しのソフィーナの姿はなかった。
「私にはこちらの女性方はどの方も最善とは思えません。ギバート宰相の娘が一番の適役かと存じます」
はっきりと述べると、王の顔が歪む。
「ギバート宰相の娘は公爵家で身分はもってこいの相手だが、宰相本人より推薦はされておらぬぞ」
「宰相は有名な中立派でございます。政権にも波がたたず完璧です。私は彼女と面識がございます。明日のパーティーでは、私の帰還を祝うと共に、彼女を婚約者として紹介させてください。今からギバート宰相とご令嬢に許可を取って参ります」
エマニュエルがハッキリと述べた。
「そこまで言うのなら、エマニュエルに任せようではないか」
王というより、父親としての柔らかい顔が見えた気がした。
「ありがとうございます。これより、お相手に婚約の話をして参ります。ニコラ、証人としてついて参れ」
エマニュエルはニコラと共に宰相の別邸に急いだ。
婚約者について、話を早く決めるよう周りが焦っていることは知っていたが、ここまでとは思っていなかった。
しかし、帰還そうそうソフィーナに会えるとは嬉しい誤算だった。
2年ぶりとなる城から別邸への道はかわりなく、胸がときめく。いつもと違うのは、今日は湖ではなく、別邸まで向かうことだ。
もう2年前の自分とは違う。ソフィーナの反応はどうだろうか。懐かしく喜んでくれるのか。それとも、気づかれないのか。
宰相の別邸に到着し、ソフィーナに面会を求めた。連絡もなく夜の訪問に当然ながらギバートは拒否する。
「殿下といえど、絶対に許せません」
大きな声でのやり取りが聞こえたのか、ソフィーナが出てきた。
「ソフィー、どうして出てきたんだ!」
ギバートの声に立ち止まったソフィーナの元にスルリと駆け寄る。
ソフィーナには貴族の婚約のやりとりを、王子様との出会いの礼儀として教えた。何度も練習したから、必ずうまくいくはずだ。
「ソフィーナ嬢、急の訪問を許して欲しい。私はアザラル王国第一王子エマニュエル・ステュアート。どうか私と末永いお付き合いをよろしくしたい」
ソフィーナは一瞬たじろいだが、すぐにエマニュエルの両手を取り、いつものように言葉を続けた。
「エマニュエル王子、私の名前はソフィーナ・フーリエと申します。私もあなた様との素晴らしいお付き合いをよろしくお願い申し上げます」
ソフィーナが言葉をいい終え、上手くいったと満面の笑みになる。これで婚約は完了した。証人は花嫁の父と高位従者。
文句は誰にも言わせない。
ソフィーナはエマニュエルがエルと同一人物だとは気づいていないようだった。それだけ自分が変わったのだと嬉しく思い、同時に寂しさも感じる。
ソフィーナを明日のパーティーに誘うと、ギバートは嫌がったが、母親であるアンジュの一押しもあり、ソフィーナを引きずり出すことに成功した。
明日の迎えを約束し、別邸を出る。
「エリック、ソフィーナが婚約を了承したと陛下に伝えてくれ。宰相もその場にいたとな。ソフィーナの紹介の場も設けるよう、改めてお願いしてくれ」
「かしこまりました」
「私はこれから、明日の用意をする!」
こんなに明日が楽しみなのは初めてだ。エマニュエルは意気揚々と城へと戻った。
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