ソフィーナ 1-2

 ソフィーナはずっとここで一人で過ごしているわけではない。以前は違っていて、エルという女の子もこの湖に来ていた。


 初めて出会ったのはソフィーナが10歳でエルが14歳の時。肩まである黒の髪に少し切れ長な黒色の瞳をもつエルはとても綺麗で、初めて見た時、女神様かと思ったほど。


 エルはソフィーの兄と同じ年だったからか、すぐ2人は仲良くなった。何日か連続して会える時もあれば、数週間あくときもあり、父の仕事次第だからいつ会えるか約束できないと言われていた。


 湖に行ってエルがいた時には飛び上がるくらい嬉しく、楽しかった。貴族ごっこと称し、おやつや紅茶を用意してもらってお茶会ごっこ。2人でダンスをする舞踏会ごっこ。王子様との出会いの場面や、トラブルに巻き込まれたときの対処法まで。


 エルはいつもソフィーナにお嬢様役をさせた。エル本人は王子様役や執事役をし、本格的に指導を行った。



『違います!やり直し』


『もう何回やり直せばいいの?』


『ソフィー、カーテシーは簡単なようだけど、実はとても奥が深いんだよ。あと頭が2センチ下』



 うまくできるまで何度も何度も詳細に注意を重ねた。その指導は数センチほどのズレも指摘された厳しいものだった。


 一番驚いたのはエルが初めてドレスを持ってきたときだ。



『エルって何者なの…』



 驚くソフィーにエルは微笑みを浮かべただけだった。



『そんなことより早く着てみて!サイズも合うと思うんだけど』



 いつもはエル一人で来るのだが、ドレスを持ってきたときは侍女だという方が一緒に来て、天幕を張ってドレスを着せてもらった。


 黄色のふわふわしたドレスは重たく、コルセットもつけて苦しい。



『すごく歩きにくいわ。ドレスって見るのは良いけど、着るのは苦痛そのものね』


『そのドレスはまだ簡単な作りだから軽いし、歩きやすい方だよ』


『これで…?世の中の女性って大変なのね』


『さっ、靴はこれだよ』



 ハイヒールを差し出され、はいてみると予想以上の不安定さに一歩も足が前にでない。



『なにこれ?絶対に歩けないよ』



 ソフィーナが足をガクガクさせているとエルがソフィーナの手を取った。



『慣れれば大丈夫だよ』



 練習しようとしたけれど、土の上をハイヒールで歩くことはすごく難しくて、さすがに無理だと言うと、なんと次に合ったときはドレスと一緒にたくさんの板を持ってきて、歩く練習を再開させた。


 スムーズに歩けるようになったら、そのままダンスの練習をした。


 エルの指導は厳しかったが的確で、ソフィーナは貴族のマナーを完璧にマスターすることができた。そして、本格的だからこそ、もう子供とはいえなくなってきた年齢でも面白く、次はどんなマナーを学べるのかエルに会える日をソフィーは楽しみにしていた。


 しかし、エルは何も言わず急に来なくなった。また数週間後には会えるとずっと待っていたが、もう来なくなり2年がたつ。


 最後に会ったときエルは18歳だった。妙齢の女性として結婚し遠方に行ってしまったのかもしれないとソフィーナは寂しく思った。


 今もエルのことを思い出す。会えなくなって2年がたち、もう20歳になっているだろうだから、もしかして赤ちゃんとか産まれてるかな?



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