王子様は自分で仕上げた田舎娘を王妃にしたい

陽瑛

ソフィーナ 1-1

 森に囲まれた大きくはないけれど、小さくもない家。周りに他の家はなく、少し離れたところに湖があるだけの自然豊かなところ。そこがソフィーナの家である。


 ソフィーナの名前は父方の祖母から名前を継いだので、呼び分けるため家族からはソフィーと呼ばれている。


 ソフィーナが祖母より名前を継いだ理由はブロンドの髪と、緑色の目にある。若き頃、幾多の男性を虜にした祖母によく似た色合いだったので、その名を継いだ。


 現在16歳になるソフィーナは、誰もが認める美しい女性に育っていた。ただ社会と縁遠い暮らしをしているため、もてはやされることもなく、本人にその自覚が芽生えることはなかった。



 ――――――――


「今日も平和だな~」


 ソフィーナは湖に足をつけながら、暇を持て余していた。本来なら学校に通うべき年だが、父であるギバートの強い希望によって家庭教師に学んでいる。


 ギバートは家族思いの理想的な父親である。少し突き出たお腹はご愛嬌。朝は必ず家族で食べるというルールを決め、そのルールに一番苦しめられているのがギバートだった。


 ギバートは自分の仕事のことを頑なに子供たちに話そうとはしなかったが、基本的に帰ってくるのは夜中である。なかなか子供たちと会えない日々を寂しく思い、せめて朝の時間だけはとルールを決め、休みの日も関係なく、どんなに遅く帰った次の日も朝早く起きてくる。


 毎朝家族で食事を取りながら、いろいろな話をする。たわいもない話だったり、政治経済の難しい話まで。話ながらとる朝食は1時間もかかるため、みんな早起きする羽目になっているのだが、家族の時間は幸せそのもので、誰もやめようとは言わなかった。


 ずっと家族4人で過ごしていたが、4歳上の兄は寄宿舎がある学校に進学したため、12歳から家にはほとんど帰ってこなくなった。学校を卒業後も離れた領地の役人に決まり、学校で出会った伯爵令嬢のお姉様と23歳で結婚。余計に家には帰ってこなくなった。


 ギバートは兄がなかなか家に帰らず寂しかった。そして、次はソフィーナの番である。



「寄宿舎で生活なんてできるかな~。不安だな~」



 そうソフィーナがギバートの前で何気なく呟いた時だった。



「ソフィーナもそう思うか。寄宿舎なんて寂しいよな。やめてしまおう。勉強なんてどこでもできるんだから。やめだ!やめ!家に家庭教師をよぼう!決まりだ!」



 軽く口にしたソフィーナの一言にギバートは顔をほころばせ、あっという間に寄宿舎に通うことを辞め、自宅で家庭教師と学び続けるという道が出来上がってしまった。


 18歳までは決められた家庭教師としっかり勉強するようにとギバートに言われ、歴史や外国語、絵画やピアノまで大勢の教師がソフィーのために屋敷にやってくる。それぞれの課目に先生をつけているため、総勢16名もの教師にソフィーナは学んでいた。


 先生方はどの人も教え方が素晴らしく、いろいろなことを学べる授業はソフィーにとって楽しく有意義なものだった。


 変わったもので言えば王国建設の歴史や、現在の王国の税収についてなど、こんなに一般市民が詳しく教えてもらっていいのだろうかと不安になるほど、具体的な数字をあげてくれ、教師と対策について論議するのも楽しかった。


 授業が終わって15時くらいから夕暮れまでは自由時間。


 そして、この自由時間がソフィーにとって寂しい時間だった。自由にと言われても一人で過ごすしかなく、森に囲まれた家から少し離れたところにある湖で足をつけたり、本を読んだりするくらいしかやることがない。


 たまに家庭教師をひき止めてみたりもするのだが、みんな『報告しなければいけませんので…』と足早に帰っていく。


「今日も暇だな~」


 ソフィーナは湖に浸けていた足をパチャパチャと動かした。

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