選んだものは、間違いじゃなかった。

【試着室で思い出したら、本気の恋だと思う。】/尾形真理子

幻冬舎文庫


 読み終えて本を閉じた後、それまでもやもやしていた心の埃や泥がふわぁっと飛んでいった瞬間を今も覚えている。こころが一気に軽くなった。

ああ、私はこれで良いんだと思えた。


 人は無意識に年齢や環境や周りの言葉に縛られて自分に呪いをかける。

もう若くないから、太ってるから、色黒だから、お母さんだから、だから……?

だからなんだろう。


 大好きな花柄のワンピースやピンク色、ふわふわなニットや繊細なレース、ミニスカートももう着れない……じゃないの。

年齢に合わせて似合うものを見つけていけばいい。


きっと、二十歳の頃にお気に入りだった花柄のひらひらワンピースを今の私が着ても似合わない。あれは二十歳の私だから似合う服装。

でも今の私が好む服装を二十歳の私にさせたら、なにか違う……としっくり来ない。

似合う服は変化する。似合う色や素材も似合う丈も変化する。


 渋谷区神南にある洋服のセレクトショップを舞台にした短編集。

どの章も好きだけれど、「あなたといたい、とひとりで平気、をいったりきたり」「悪い女ほど、清楚な服がよく似合う」「ドレスコードは、花嫁未満の、わき役以上で」とエピローグのストーリーが特にお気に入り。


 二十代後半から三十代の女性たちが物語の主人公だから年齢層も今の私にドンピシャで親近感。

気持ちわかるわかる、と声に出していた。


 ──どんなに肌を磨いたって、スタイルに気をつけたって、時間は止められない。誰であろうと、二十一のままじゃいられない。

素直に年を重ねていきたいとクミは思った。三十二歳のわたしを楽しんであげたい

(悪い女ほど、清楚な服がよく似合う)


 私が書いた恋愛短編【トマトのカッペリーニ、冷たいパスタで。】の作中には主人公が下着にこだわる場面があって、心情や知識の参考にさせていただいたランジェリーショップの元店員さんがいる。


現在は下着のアドバイザーのような立場でSNSで下着についての知識やアドバイスの発信をされているその方に、不躾ながら【トマトのカッペリーニ、冷たいパスタで。】の作品URLをつけて、あなたのおかげでアイデアが生まれた作品です。よければ読んでください! とツイッターでDMを送った。

いきなりで失礼だし作品読んでくださいなんて言って送りつけるとは、我ながらすごい根性だよ……苦笑


 お優しい方だったので、読んだ感想のお返事も優しさに溢れていた。

お返事のなかで仰ってくれたのが『“試着室で思い出したら本気の恋だと思う”のような雰囲気で、主人公のイメージが湧きやすかった』と。

【トマトの~】はまさに【試着室で思い出したら本気の恋だと思う。】の雰囲気を目指して書いた作品。この作品を私の小説を読んで思い浮かべていただけたことが嬉しかった。


【試着室で思い出したら本気の恋だと思う。】の作者、尾形真理子さんはルミネの広告コピーを手掛けたコピーライターさん。ルミネのコピーも素敵なものが多いんです。

読点の使い方も絶妙。


 ──運命を狂わすほどの恋を、女は忘れられる

 ──自分に夢中になれないと、誰かを真っすぐ愛せない

 ──雨が嫌いだった頃、わたしはまだ、誰のことも、好きじゃなかった


 ルミネのサイトで連載中の尾形さんのショートストーリー【One piece of a woman】も面白いのでぜひ❤

私は第3話の【愛が複数になって】が好き。



 私が選んできたものは、間違いじゃなかった。

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