断章3 不条理な現実

「そんな馬鹿な……」

 

 俺は驚くしかなかった。


 学校の図書館に俺の予想通り、彼女はいた。


 それはいい

 

 だが、彼女の隣には見知らぬ男の姿があった。

 しかも、彼女は男に対し、俺にも見せたことの無いような笑みを浮かべていた。


 ズキン!と胸が痛む。


 誰だ、あの間男は?

 

 彼女の笑みは、俺だけに向けられるべきものなのに。


 怒りに体を震わせていると、彼女は思いがけない言葉を口にした。


「ファンいっぱいだね、皆月先生!」


 それはまさしく青天の霹靂であった。

 まさか、目の前の『平凡』を具現化したような間男が、『恋愛戦線』の作者皆月凍矢なのか……

 

 俺たちを結び付けたものが、俺の前に立ちはだかるなんて。

 

 信じられなかった。

 許せなかった。

 なぜ、俺の女が、最近、腕が衰えてきたネット小説家如きに奪われなければならないんだ。


 その時、俺の視線を感じたのか、間男が俺のほうを見た。

 俺と奴の視線が絡み合う。


 

 好きな作品の作者を現実で知った驚きと喜び


 彼女の隣にいることに対する怒り


 彼女に対する愛情

 

 彼女を奪われた絶望


 

 さまざまな感情をこめて俺は間男を睨むが、間男は目を逸らす。


 勝ったと思った。


「どうしたの?」


 戸惑う間男に心配そうに彼女が声をかける。

 その表情に俺はイラっとする。


 なぜ、そんな男の心配をする!

 

 俺は図書館を飛び出していた。

 

 なぜだ。


 なぜだ。


 なぜだ。


 俺には何が起きているのかわからなかった。


 彼女への告白、そして、告白後の幸せな日々を、いろいろと考えてきたのに、なぜこんなことに。


 どうして『現実』はこんなに不条理なんだ。

 俺は何も悪くないのに。

 

 どうすればいい。

 

 どうすれば、彼女を奪い返せる。


 まずは、じっくりと考えないと……



****


「あなたはそれでいいのかしら?」


 自宅近くの公園にたたずむ赤いドレスの妖艶な女性が俺に向かってそう語りかけてきた。

 

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