断章1 『恋愛戦線』が二人を繋ぐ

 

 電脳の海に漂うネット小説たち

 様々な小説投稿サイトがあり、幾万の小説が読者を待っている。


 面白いのものあれば、つまないものもある

 千差万別、玉石混交な作品たち

 多くの作者から作られる作品は無限であり

 星の如くある作品の中から、自分にとって至高の作品を見つけられるかどうかもわからない。


 あるものは、自分の好きな作品がないのなら、自ら作ればいいなんて、作者に転じる読み手もあるが、俺にしてみれば愚の骨頂でしかない。


 1つの作品を作り上げる時間で、いったい何作の作品に出会う事ができるのか、どうやら計算できない愚者がこの世の中には多いようだ。


 そんなクレバーな俺は、放課後、学校の図書館にいた。

 外は雨、だが、天気予報のアプリをみれば、少しすれば雨がやむようだ。


 その間、図書館でネット小説を読もうと考えていた。

 

 読む作品は決まっている。

 皆月凍矢みなづきとうやの作品『恋愛戦線』だ。



 異世界に転生したごく普通の高校生が、恋人の人数だけ能力値やスキルが増強すきるチートスキル「恋愛無双」を手に入れ、ハーレムを楽しみながら魔王を倒すという物語。

 


 異世界転生

 チート

 そして、ハーレム


 ネット小説では掃いて捨てるほど多い設定だが、それらのバランスが絶妙だった。

 更新頻度も悪くない、誤字もあまりない。


 今読んでいるネット小説の中では1番好きな作品だった。

 おそらくだが、俺と作者の皆月凍矢は同年代であり、俺と同じ感性をもっているのだろう。


 だから、心地よかった。

 

 スマフォでウェブサイトを確認すると、ちょうど更新があったようだ。

 

 恋愛戦線では、そのチートスキルの特性上、ヒロインが多い。

 そのため、どうしてもヒロインの登場頻度がキャラによって差がでてしまうのだが、前回の引きを読むかぎり、今回の更新は、俺の中ではメインヒロインである主人公の幼馴染のターンのはずだ。

 

 眼鏡キャラであり、黒髪ロングの美人、大人びているが恋する乙女の一面も見え隠れしているのがいい、凄くいい、俺好みのキャラだった。

 

 これで面白くないはずがない。


 さっそく読もうと最新話のタイトルをクリックしたその瞬間、狙いすましたように僕の背後から声が聞こえた。


「あ、君も恋愛戦線のファンなの?」

 

 俺があわてて振り向くと、思ったより近い距離に、彼女の顔がった。


 眼鏡をかけた黒髪ロングの少女。


 同学年だが同じクラスになったことはない。

 だが、俺好みの女性だから、名前だけは調べて知っていた。


 藤原綾乃ふじわらあやの

 

 俺の中の高校美少女ランキング7位の女だ。


 こんな俺好みの女が『恋愛戦線』のファンだと?

 

 

 これは運命だと俺は思った。


 

 胸が熱くなる。

 

 俺は


 俺は


 彼女に対し、


「あ、その、じゃあ……、僕はこれで……」

 

 俺はスマフォを制服のポケットにしまうと、あたふたと図書館を後にした。

 

 コミュ力を鍛えていない俺には、気の効いたセリフは吐けなかった。

 

 だが、俺の印象を強く残すことはできたはずだ。 

 ここから少しずつ、近づけばいい。

 

 雨はまだ降っていた。

 だが、火照った今の俺には心地が良かった。

 


****


「お前さんは、それでええんか?」


 自宅近くの公園にたたずむ爺が俺に向かってそう語りかけてきた。

 

 

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