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声と共に現れたのは棒を背負い豪奢な袈裟を見に纏い、法典を持つ坊主頭の僧侶。
見た目からして高位の僧であり、そして実像ではなく半透明なのだから普通の人間ではない。
「
和樹が息をのまされるのは、高僧は生きている人間ではなく《霊》だからだ。
「れ、霊……ッ!?」
僧が驚く、僧は霊の存在など信じていなかったからだ。
「信じられないだろうけど、《霊》は存在するし、撃退もできる」
非稼働銃を構え、和樹は言う。《霊》はプラスの電荷で構成されており、マイナス電荷をぶつけることで雲散霧消させることができる。
アメリカに住む悪魔祓いの兄弟が《霊》を斃したと記録にあった。
「ふむ、無礼なのはいただけぬが。この儂の姿に臆しなかったことは誉めてやろうかの」
高僧の霊はは和樹と僧を一瞥し、カカっと笑う。
「まさか……、あなたは……」
常楽寺の高僧といえば、僧には思い出せる名前があった。
「
この常楽寺の八世住職であり、徳川家康の従兄弟にあたる典空顕朗その人であるというのだ。
「その通り、そこの僧。この寺の歴史を学んでおるな。さて……」
と、典空は法典をしまい、背中に背負った棒を持ち、構える。そして――
「守護者の試練を踏破せし者たちよ。今、この世界はどうなっておる? 人々は平穏無事に暮らせておるのか?
「……それは」
僧は言葉に詰まらされる。典空は《霊》となってもなおこの世界に住む人々の平穏無事を願っているようだ。
親戚である徳川家の存亡より、まず人々を気に掛けるのは僧らしいといえばらしいのかもしれない。
「大きな戦役こそありましたが、徳川幕府が存在していたころより、文化は発展しておりますし、治安もよくなりました。しかし――」
「しかし――じゃと?」
典空はしかしと僧が言葉を切ったのを気にした。
「人心は乱れているとは感じます。思想は入り乱れ、些細なことで言い争い。おそらく徳川の治世と変わらないかと存じます」
「……同感だな」
僧の言葉にうなずかされるのは、下手な《秘宝》よりも人間同士の争いのほうが目立ってしまっている。
しかし、和樹もただ同意したわけではない。
「だが、この坊さんみたいに自分なりにどうにかしようって動いてるヤツもいるし、俺もそうだ」
希望は捨てていないと和樹がいうと、典空はニッと笑い。
「よくぞ言った。ただ状況に流されるのではなく、まず己がすべきことを成す――。それが人という者!」
そう典空が口にしたとたん、典空からすさまじい《氣》が迸った。
「ッ!」
和樹と僧が圧倒的な典空の《氣》に思わず後ずさってしまう。
「心意気は良し。次は技量を試すとしようかの!」
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