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ぬがよい、盗掘者め!」

 武士の石像が槍を振り上げる。槍は斬るもの、刀は突くものという事を体現した戦い方だ。

 槍は脅威なのだが、ここは広大な戦場ではない。

「よッっと!」

 和樹が像の槍をかわす、一直線の軌道が見切りやすいのが幸いした形だ。

 このように狭い部屋おいて長い得物はディスアドバンテージとなる、小振りの得物が弱いという事にはならない。

銃功夫ガン・クンフーの技がひとつ――」

 和樹が両手の非稼働銃に氣を込め、銃のトリガーを絞る。


鉄破斬てっぱざんッ!」


 銃から放たれる氣をブレードと拳に乗せ放つのは、鋭い斬撃。

「な……ッ!」

 像が驚きの声を上げる。和樹の斬撃が武将像の腕を切り落としたのだ。気を乗せ、それを内部に叩き込むからこそできる芸当だ。

 破損した際の動作まで作り込むあたり、像が侵入者に斃されることも織り込んでいるのだろう。かなりに作り込んでいる様子だ。

「これが銃功夫……ッ!」

 動き自体は映画で見られるようなガン・カタを真似ただけではあるが、それを和樹独自に昇華したのが銃功夫というわけだ。

 銃功夫が名前だけのハッタリではないことを僧は思い知らされた。

「ばッ、馬鹿なァ!」

 腕を切られ、槍を持てなくなった武将像が機能を停止した

「ええい。殺してくれる!」

「まだ、敵が残っています!」

 残った像が弓を番えているのを見て僧が叫ぶ。素早く和樹に狙いを定める。


「遅えぞッ!」


 独特の足運び、――縮地により瞬時に像との距離を詰める。神速といってもいいその縮地は武将像に和樹の姿を認識させない。

「《海道一の弓取り》には程遠いぜ!」

 その絶叫と共にブレードの一撃で像をつらぬいた。

 ちなみに海道一の弓取り――東海道に本拠を置いた大名を指す言葉であり、今川義元と徳川家康の異名でもある。

 今川姓は現代でもそこそこ珍しい苗字であり、和樹の実家は古美術商を営んでいる。

「よっしゃ、殲滅完了ッ!」

 和樹は非稼働銃をベストにしまい、完了だと手をはたいた。それと同時に奥に扉が現れる。解除も成功したということだ。

「すごいものですね……」

 僧は感嘆の吐息を漏らしている。

「銃でも効かない相手ってのはいるからな……。昔、中国で機械兵士が暴れまわった時も功夫で機械兵士を斃したんだってさ」

「機械兵士? あれは本当だったんですか? 中国政府は否定してましたが……」

 機械兵士の話を切り出すと僧が訝しむ。機械兵士など創作の話でしかないと言われ、当の中国政府も否定していた。

 失なわれた叡智テクノロジーも《古代文明》も存在しない――、と。しかし、和樹は違うと首を振り。

「清朝が滅んだ際、超古代文明の兵器群が悪用されるのを防ぐために、関係者たちがどこの政府にも干渉されないための組織を作り上げたんだよ」

「それがフィッシャーマン・ファウンデーションだというのですか?」

 眉唾物の話をしだす和樹に僧は眉間にしわを寄せる。

「なんでも銀のインシュイという不老の霊薬であり万能物質らしいんだが……。仮にそんなもんが悪用されたら、まずいことになる」

「……まさか、この寺にそのようなものが?」

 和樹の話を聞き僧は身震いさせられる。恐るべき古代文明の遺産が眠っている可能性があるのではと。

「いや、さすがにそれはないとは思う。家康公ゆかりの寺を危険な目に合わせたくないだろうし」

 ないと和樹は断じた。徳川家康を匿ったゆかりの寺というのは周知の事実だ。わざわざ危険な目に合わせるとは考えにくい。

「もしかしたら埋蔵金かもしれないけどな」

「それも眉唾物でしょうに」

 徳川埋蔵金――徳川家が残したとされる埋蔵金のことだ。数多のトレジャーハンターが探したが現代においても見つからなかった伝説の財宝である。

 僧もこれには苦笑させられた。

「まァ、奥に行けば分かる。地下室だけあって、遺跡の規模は小さいみたいだからな」

 和樹がスマートフォンの画面を確認する。スマートフォンが遺跡の規模を算出してくれていた。

 このスマートフォンは最新鋭のてテクノロジーを組み込まれた特別製であり、フィッシャーマンたちの活動を多方面に支援してくれる優れモノである。


 ――厄介な連中に見つかる前にこの件を片付けないとな。


 和樹のこの言葉は古代文明を狙う組織がいることを示唆していた。

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