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 二人が梯子で降りた先には、地下にあるとはとは思えないほど作りのしっかりした木造の壁に囲まれた部屋に出た。

 寺社らしく仁王像や如来像が置かれている。

「……地下室とは思えないほどしっかりしているな」

 地下にあったことで焼失を免れたとはいえ、それでも建築技術が違うと感じさせる。

「本堂の地下にこんな空間があったとは……」

 僧は本堂と同じぐらいの規模の建築物が地下にあったことに驚かされている。

「さて、家康公は何をこの地下に隠したのか……っと」

 和樹はそう独りごちながらサバイバルベストから銃らしきを二挺取り出すと、それを見た僧の目が見開く。

「銃!?」

 禁止されているのではなかったかと僧が驚きの声を上げたのだが、

「いや、こいつは非稼働銃だって……」

 観賞用に持ち込まれた銃なのだと苦笑した。観賞用の銃は実在し、和樹の実家が古物商であり手にする機会は多かった。その非稼働銃にブレードを付けたものだ。

「まァ、武器だからブレードは付けてるんだが……」

「理由が気になるところですが」

 気になるのはその武器としては使えないはずの非稼働銃を持ち歩いている理由だ。

「まァ、銃を使う許可はまだ下りていないし。実は俺は功夫遣いでな。しかし、銃や弓の形をした武器でないとどうにも《氣》を乗せることができない体質なんだよ。だからだ」

「氣……まさか」

 僧も氣の概念は知っているが、《氣》を攻撃手段として使う者を実際みたのは初めてのようだ。


「その名も銃功夫ガンクンフーだ!」


 二挺の銃を構え、大仰な決めポーズを取るのだが、僧はポカンとした顔をしていた。

「……本当に大丈夫だろうか」

 それを見た僧は一気に不安が増してきたようで、頭に手を当てて項垂れる。

「……。っと、石碑だな」

 気を取り直し置かれている石碑を読むことにする。石に文字を記すのは劣化を防ぐためであり、仕掛けの解除のヒントが記されていることが多い。

「なになに……、この敗走を我が生涯の自戒とす――」

 その先には家康と信玄をかたどった石像だけでなく、武士の石像がいくつか置かれている。

「敗走と武将の像か……。で、家康公と」

 和樹は思考をめぐらす。家康の大きな敗走といえば思い当たる戦いがあった。

「もしかして、三方ヶ原の戦いですか? 武田信玄に挑み負けたという……。確かに常楽寺は家康公を匿いましたから……」

「御名答。さすが常楽寺の坊さんだけあるな」

 グッと親指を立てて和樹は正解だと伝えた。

「で、動かせるいくつかの武士像と。たぶん、三方ヶ原での敗走の際に家康が身代わりにした武将像を信玄のほうに動かすんだろう」

 見当をつけ、家康が身代わりにした夏目吉信と鈴木久三郎を信玄の像へと動かすと――。

「像が消えた……!?」

 僧が像が消失したことに驚く。そしてカチリと音がしたのだが――。

「まァ、謎を解いたからって素直に通してくれるわけがないよなァ」

 残りの武士像が勝手に動きだし、和樹と僧に向けて剣を構える。

「なッ、像が勝手に……」

 僧が驚くのだが、


「ただの像じゃなかったってことだ。いくぜ、俺の銃功夫を見せてやる!」

  

 二挺の拳銃を構える和樹は己を奮い立たせるように喝破した。

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