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「……」

 スマホの画面には阿弥陀如来像から何も検出されずと表示されている。

「まッ、まァ、アテが外れることもありますよ」

「……。確かにそうだな」

 和樹に慰めの言葉を掛ける僧に、和樹は笑って礼を言う。

「音の発生源はここからで間違いないのですが……」

 僧が考えあぐねていると、ふと和樹は賽銭箱に目をやる。この賽銭箱には徳川ゆかりの寺だけあり葵の御紋がついている。

「……。坊さん、この賽銭箱っていつからあるんだ?」

「え? そういえば、大火で焼けた際にも、この賽銭箱は残っていたそうです。あと動かさないようと」

 僧が思い出したと手をポンと叩く。常楽寺は大正時代に大火に見舞われたのだが、この賽銭箱は残っていたという。

「なるほど……。厄介なものを守っているって話か」

 この寺に何かを封じているのは間違いないと和樹は踏んだ。スマートフォンの機能で解析を掛ける。

「……! ビンゴだ」

 この賽銭箱は木造と見せかけて未知の物質でできているとの結果が出た。

 そして、可動させることができるともある。

「坊さん。この賽銭箱、動かしても構わないか?」

「うむむ……」

 和樹の提案に僧は逡巡させられるのだが、騒音の原因を取り除く必要がある。

「わかりました。騒音の原因を取り除くほうが優先です。事後承諾にはなりますが……」

 近隣住民の安全には代えられないと判断した。

「OK、動かすぞ」

 葵の御紋の賽銭箱は意外にもあっさり動かすことができた。やはり何かが隠されていると思わせる。

「梯子が……」

 ぽっかりと空いた穴が二人の目に入る。梯子がかけられており、地下に通じているようだ。

「坊さんはここに残れ。地下に何がいるのか分からないからな」

 残れと僧に和樹は言うのだが、僧は首を横に振り、

「これでも、鍛えておりますゆえ」

 フッと笑って答える。確かに僧の立ち振る舞いには隙が見当たらない。

 戦えると踏んだ。

「民間人の同行自体は認められているからな。もし俺に何かあったら逃げて、ファウンデーションに連絡を」

 と、和樹は言ったところでスマートフォンから着信音が鳴る。流れたのは鬼平犯科帳の迫力あるBGMで有名なテーマだ。

「また渋いですね……」

「師匠に言われたんだ。自分の着信音をこれにしろってさ」

 僧が着信音に驚いていると、和樹は肩をすくめてそうこぼす。

 メールの内容は、増援として来るという話だ。

「師匠?」

「話すと長いんでな。それよりも下に降りよう」

 和樹は話を切ると、梯子に手をかける。


 遺跡探索の開始だ――。

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