第3話


 その夜、行彦ゆきひこみなとと二人で近所のファミレスにいた。昼頃に外で食べようという誘いのメッセージが彼女から来ていたのだ。


 「行彦、最近変わったよね。前は出掛けるのあんまり好きじゃなかったのに」


 注文を聞き終え去って行くウェイトレスを眺めて、湊がそう言った。


 「学校とバイトで忙しくて、一年の時はちょっと余裕がなかっただけさ。大学に入って同棲も始めたのに、全然時間が取れなかったから。今は反省してるんだよ」

 「ふ~ん、そっか……だったら嬉しい。ありがとね」


 湊は笑みを浮かべていたが、行彦はまともにその顔を見られなかった。


 確かに出掛けるのは嫌いじゃない。だが大学生になってからデートの回数が極端に減ったのは、忙しいだけが理由ではなかった。嫉妬と自己嫌悪だ。特に夢も目標もなく大学を受験した自分と違って、湊は懸命に日々を走っていた。その輝きに満ちた眼差しに当てられ、行彦はいろいろと嫌気が差したのだ。言い訳にもならないことだと重々理解していたが、それでも彼女を見ていると自分が惨めに思えてならなかった。


 そんな時に現れたのがみやこだ。彼女の存在は行彦にとって非常に大きかった。

 湊が変わったと感じるのなら、それはきっと京のおかげだと行彦は思う。


 不意に湊が声を漏らした。行彦は彼女の視線を追って振り向くと、店の出入り口で京の姿を見つけた。連れがいる。若い男だ。行彦はあれがみーくんだと思った。背高で手脚が長く、なるほど演劇に興味を持つのも頷ける整った顔立ちだ。


 向こうもこちらに気付き軽く手を振って挨拶すると、離れたテーブル席に腰を降ろした。


 「そうだ。今日、みやちゃんからお菓子をもらったの」


 湊が思いだしたように隣に掛けていた荷物を見た。見覚えのある紙袋だ。


 「生菓子だって。帰ったら二人で食べましょ」


 そこでウェイトレスが料理を手に戻ってきた。行彦は湊に曖昧に頷くと、眼の前のボンゴレに視線を落とした。食欲は心なしか落ちていた。



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