第9話 追手

 動かなくなったスズを前に、警備員は高笑いする。

「目的達成ダ。シカシ、魔法ノ目撃者ハ始末シナケレバ」

 警備が後ろを振り返ったが、そこに真城の姿はなかった。

「逃ゲテモ無駄ダ……」

 警備は氷塊と化したスズに背を向け、部屋を出た。




 真城は当てもなく廊下を疾走する。

 目の前で起きた光景を、まだ信じることが出来なかった。

 まさか本当に、あの人は異世界からやって来たのか……?

 落ち着いてはいられなかった。

 ただ、あの警備員。「目撃者は始末する」というあの言葉。彼を、どうにかしなければならない。それだけは確かだった。

 しかし、どうにかするといっても、頼りの転生者は氷漬けにされてしまった。どうすればいいんだ。

「……そういえば」

 机に放り込んだあの本に、治癒魔法が記されていたことを思い出した。あれを使えれば、スズの氷を融かすことができるかもしれない。

「……何で魔法を使える前提で考えてるんだ僕は」

 走りながら、思わず呟いた。バカな事を考えてないで、大人に助けを呼ぶべきだ。

 でも、先生たちに助けを求めたところで、どうやってあいつを倒すというんだ?

 魔法が使えるかなんてわからない。でも、さっき目の前で、魔法陣に包まれたスズの全身は凍らされた。この世界にも、魔法は存在する。それは間違いない。

 だったら、やるしかないだろう。




 一方、警備員は真城を見失い、廊下を彷徨っていた。

「ソコノ女。チョット聞キタインダガ」

 彼の前を歩いていた眼鏡の教師を呼び留める。不機嫌そうな表情で彼女は振り向いた。

「何か」

 眼鏡を光らせる女に、警備は距離を詰めていく。

「真城トイウ生徒ヲ見ナカッタカ」

 女は憮然として警備員を睨む。

「あなた警備の方でしょう。こんなところで油を売っている暇があるんですか」

「……生意気ナ口ヲ利ク奴ダ」




 階段を駆け上がって3階。教室のドアを開ける。

「鈴木、どうしたんだそんなに慌てて」

 古典教師が目を丸くする。教室中の視線が集まるが気にしない。自分の机まで歩いていき、中から魔法書を取り出す。よし、スズのもとへ行こう。

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