こどくなシード 異世界転移者の帰還道

第142話 ド・ワーフ決戦開始

「さて……ド・ワーフには消えてもらうか？」

　作戦指揮に戻ったアイン。木の国『ド・ワーフ』の外で待機させていた魔王軍の総勢七千の部隊へと、魔王三銃士である『奇術師アイン』が命令を下す。

「殺せ 一匹残らず皆殺しだ」

　待っていたとばかりに、血に飢えた魔族部隊が先陣を切る。機械兵は後方からの支援に徹した。

「結界はアイン様が破られた！ チビのドワーフ族を殺すだけだ！」

「待ちわびていた！ この戦いが始まる瞬間を！」

「戦え！ 魔王軍なんぞにド・ワーフの地へと踏み込ませるな！」

　嬉々として乗り込む魔王軍。だが当然ただ黙ってやられる筈が無い。

「待ってたのは……オレもなんだよ！」

　ドワーフ兵達よりも先に飛び出す雷迅。迫りくる魔王軍を相手に一番槍はいただいたとばかりに戦いを始めた。

「裏切り者の登場か……魔族の恥さらしめ！」

「恥ぃ？ 魔族にプライドなんて大それたモンがあったなんてなあ！？ 知らなかったぜ！」

　たとえ同族相手であってあったとしても、容赦なく得意の雷撃を浴びせる。

「こいよ阿呆ども！ この雷迅様を退屈させるなよ！」

「調子に乗るな！」

　大勢で囲み、数で押し通す魔王軍。

　多勢に無勢。だが雷迅一人に集中しすぎていた。

「おいおいこのレイ様に対して……アウト・オブ・眼中てか？ 随分舐められたもんだなぁ！？」

　レイに背を向けるという事は、全身に風穴を開けられるに等しい行為である。

　銃弾は魔族の身体に大量に撃ち込まれ、その全てが致命傷となり、敵を殺す。

「こうなんとも……的が多いと狙わなくても当たっちまって面白くねえな」

「このアマァ！ 人間の分際で調子に乗るなよ！」

「バーカ 人間とか魔族とか関係ねえんだよ なんてってた……『オレ』が強いんだからよ！」

　的確に狙い撃つレイ。弾幕は味方を誤射することなく、隙間を射抜くようにして放たれた。

「弾なら幾らでもあるぜ！ もっとも……テメエらの命（タマ）は一つしかねえけどなぁ！」

　圧倒的数を物ともせず、威勢良く啖呵を切るレイ。

　それも全てレイ自身に狙いを付けさせ、一人でもド・ワーフの兵士たちへ向かわせない為である。

(アニキだったらこうする……アニキが戻ってきたらウンとほめてもらうために！)

　私欲にまみれているが、その行動は間違いなくド・ワーフ側が有利になる行動であった。

「二人ともちょっとはペース配分考えなさいよね！」

「なんだよシオン！ これはオレなりの作戦でだなぁ……」

「ペースだなんだって言われてもな……全員ぶちのめすんだからどうでもいいだろ？」

「アナタ達ねぇ……」

「戦場で無駄口叩いてんじゃあ……ゴワァ！？」

　そういってシオンの背後から魔王軍が襲いかかったのだが、地面から噴きあがった水柱によって阻まれる。

「悪いけど作戦会議中よ 邪魔しないでよね」

「お～やるな蒼髪 その水使わせてもらうぜ！」

　シオンの水の魔法で電気が通りやすくなる。それを利用し、一気に魔王軍を倒す。

「ダッハッハッハーッ！ 爽快爽快！」

「お前らはいいよな……お前らは銃とか魔法があるけどおりゃあ刀だからよ 一対多ってのはどうもな」

「戦場なぞ味わえる機会など早々無し 何とかなると楽しんでみるべきでござるよ」

「いやその理屈はおかしい」

　苦手といいながらも、刀で魔王軍を斬り伏せながら、ムロウとアヤカは雷迅達の集まる場所へと駆けつけてきた。

「存外機械兵達の援護射撃がやっかいだぜ ただでさえ魔族の奴らは戦い慣れしてやがんのに……ド・ワーフで集められたのは四千だけだったからな」

「そのために拙者達が助太刀しているのでござる 口を動かす余裕があるのなら大丈夫でござろう？」

「でもアヤカさあ？ オッサンの言うとおり集団戦に向いてないのは事実だろう？ なんか手はあるのかよ？」

「簡単でござる」

　魔王軍が多く蔓延る真っ只中へ、アヤカは一人その身を投じた。

「おいおい？ コイツ態々一人でお出迎えとはたいした根性だぜ」

「それとも血の臭いを嗅ぎ過ぎておかしくなっちまったかよ？ ハハハハハッ！」

「……参る」

　その刹那、アヤカを囲んでいた筈の魔王軍の身体は瞬く間に斬り伏せられる。

　誰にも捉える事が出来ず、斬られた事にすら気づかずに、魔王軍は死に失せた。

「一秒につき一体倒せば……一分でなんと六十でござるよ」

「なんだこの脳筋！？」

「おいおい雷仁に言われてんぜ？ 終わってんな～」

「いやレイもでしょ」

「なんで脳筋が三人も集まったのかねえ……」

　やれやれと深い溜め息を吐くムロウ。その背後を狙って魔王軍が襲い掛かる。

「先ずは一人！ 潰せるヤツから潰せぇ！」

「一人減らせばそれだけで戦いやすくなるってもんよ！」

「……成る程 おじさん弱く見られたって訳ですかい 見くびられたもんだねぇ」

　魔王軍は間合いに入ったはずだったのだが、何か（・・）に阻まれる。何が起きたのかと理解できないまま、真っ二つに切り裂かれる。

「おじさんヤル気が無いだけで滅茶苦茶強いのよ？ 元々風の吹くまま気の向くままの根っからの風来坊気質だからさ あんまし本気だしたくないの」

　行く手を阻む風の魔法。それを破らぬ限り、ムロウに傷を付けることは不可能である。

「まあ……ここが腕の見せ所ってことさ」

　リンと救護にまわっているチビルを除き、聖剣使い一行が集結する。各々が実力者であり、誰一人としてこの状況を恐れている者はいなかった。

(何なんだコイツら！？ 全員聖剣使いの一味かよ！？)

　強さには自信があった。何故なら魔族自体が戦闘に長けた種族であり、今までその力で倒してきた。

　だというのに、ここまで劣勢にさせられた。一人は魔族だが、それ以外は人間である。

「コイツらを包囲しろ！ 数はこっちが上なんだ！ 聖剣使いがいない今が絶好のチャンスなんだ！」

「悪あがきってな！ 何匹群れたって同じなんだよ！」

「いや流石にここまで多量に囲まれるとちょっと……」

「何急に弱気になってんだよシオン！ さっさと片付けようぜ！」

「同感だね 敵に囲まれるより女の子囲うほうがおじさん好きなんだわ」

「今の発言はどうかと思うでござるよ」

　たとえ敵に囲まれたとしても、余裕な態度を崩さない聖剣使い一向。

「ふざけやがって！ 全員八つ裂きにしてやれ！」

　何故なら、｜信じているからだ。

「……なんだ？ 足に何か絡んで……？」

　ふと足元を見やると、突如現れた『蔦（ツタ）』が、魔王軍達の足元へ絡み付いていた。

「なっ！？ なんだこりゃ！？」

「とれねぇ！ー」

「……手向けだ 受け取りやがれ」

　動きを封じられた魔王軍へ向けて、地面から生えてきた木の槍が貫かれる。

　貫かれた魔王軍達の生命力を吸い上げ、最後には花を咲かせた。

「おっと……おまえらを手向けにしちまったな？」

「アニキ！」

　賢者の石を手に入れるために離れていたリンが、ようやく戦場へとたどり着く。

「リン！ その手に持ってるのが……！」

　木の聖剣『ローズロード』。ド・ワーフで手に入れた四本目の聖剣である。

「役者はそろったでござるなリン殿？ 少々遅かったように思えるでござるが？」

「色々あったんだよ……相手してもらおうか！ 『アイン』」

　その呼びかけを待っていたかのように、姿を見せるアイン。

「ああ……待っていたぞ聖剣使い」

「アイン……ここでお前を殺す！」

　絶対に許す事の出来ない『敵』を倒す為、リンは新たな力を手に戦った。