第141話 戦いを告げる為に

「結界が破られるのも時間の問題……姫様が我々『ド・ワーフ』の民を結界で守ってくださるのなら! 我々もそれに応えなくてはならない!」


「「「オーッ!」」」


「敵数を確認したところによると魔族が約四千! 機械兵が約三千の総勢七千の魔王軍が! ここド・ワーフの結界を破ろうとしている……! その様な事は断じてさせるわけにはいかない!」


「「「オーッ!」」」


 既にここ『ド・ワーフ』は、魔王軍によって包囲され逃げ場が無い。

 

 戦う事から逃れることは出来ない。覚悟を決め、ド・ワーフの兵士達は気合を入れていた。


「気合入ってんな~ にしても急に七千の軍勢に対抗出るだけの戦力がここのあるのかねぇ?」


「不幸中の幸いと言えばいいのかしら……魔王軍討伐に元々ド・ワーフも参加する予定だったみたいね だから『魔王軍討伐作戦本部基地』のある『ギアズエンパイア』へ集まる為に集まってたのよ」


「へへっ! 気の毒だな魔王軍も! こっちも迎え撃つ準備は万端だったってわけだ!」


 もしここの兵が離れている間に襲われていたら、結界があるとはいえ、破られた後は為す術がなく攻め滅ぼされていたであろう。


「しかもオレ様達がいるんだぜ? 流石に負けねえだろ!」


「そいつは早計だぜチビル? 奴等の狙いが兵が集まってるとき・・・・・・・・・だとしたら?


 そう言い出したのはムロウだった。


「んあ? どういうことだぁ? そりゃ?」


「兵力を『ギアズエンパイア』に集中させないため……でござるな?」


「その通りだぜアヤカちゃん ドワーフって種族は小柄だがその分『力仕事が得意な種族』でな 特別強いわけじゃあないがそれでも油断すると痛い目にあう」


「そんな種族がギアズエンパイアの『機械技術』で強化されたとしたら……相手からしたら厄介ね」


 もしもシオンの言うように、ドワーフ達に強力な装備が、ギアズエンパイアから支給されるようなことがあれば、それこそ魔王軍からしたら避けたい事態である。


「団結して自分たちを倒そうなんて言ってる奴等がいたら当然団結させない・・・・・・ようにするのが手っ取り早いだろ? 集まる前に手を打ってきた……のかもしれない」


「そこは自信持てよオッサン」


 言ってる事は真面目なのだが、いまいち締まらないムロウに突っ込むレイ。


「まあ可能性だからさ 予想はずしてたら恥ずかしいじゃん?」


「だとしてもやる事は変わらねぇ! 片っ端からぶっ倒せばいいんだよ!」


「アナタは単純ね……」


「まあ雷迅の言うとおり考えてもわかんないならさ とりあえず暴れりゃいんだよ」


「そういう事! あと誤解すんじゃねえぞ赤髪? オレだって考えりゃわかる 難しいこと考えたくないだけで」


「一番ダメじゃねえか! あといい加減オレの名前ぐらい覚えろよ! レイってたったの二文字だろう!?」


(レイがツッコミだなんて相当よね)


 元々レイはリンがいなければ意外にまともである。


 その肝心のリンはというと、ここド・ワーフにある、新たな『賢者の石』を一人譲り受けに行ったきりでまだ帰って来ていない。


「なあなあ? リンのヤツまだ戻ってこないのかよ?」


「困ったでござるな~ そろそろ戦いが始まるというのに……」


「まあ強くなって戻ってくることなんだし心配するこたあねえよ」


「アニキ~……」


 不安を覚えるが、時間は待ってはくれない。

魔王軍との本格的な戦いが始まろうとしていた。


 リンも早く戻りたい。だが、賢者の石を先に手に入れる事が先決だった。


「こちらの部屋にて賢者の石が厳重に保管されております」


 案内されたその部屋の前、鎖で何重にも扉を塞ぎ、誰もその部屋へ入る事が出来なくなっている。


「確かに厳重ですが……いったいどうやって入るんですか?」


「来るべき時に扉は開く……つまり『聖剣使い』がその鎖から解き放つことができるとのことです さあお手を扉の中心にかざしてみて下さい」


(……こんな感じか?)


 言われたとおりにリンは扉に手をかざす。

すると繋がれていた鎖が光を放ち、音を立てて崩れ、扉が開かれた。


「さあどうぞ中へ 一刻の猶予もありません」


「わかってます」


 薄暗い部屋の中、唯一輝いていたのは最奥に置かれた賢者の石。


「これで四つ……まだまだ先は長そうだな」


「いいえ……それ程遠くはありませんよ」


 ドワーフの男がそう言うと、突然扉が閉まる。


 リンは閉まった扉を開けようとするがびくともしない。その状況にリンが困惑していると、薄暗い部屋の中でドワーフの眼光が光っていた。


「……何者だ? お前は?」


「イヤダナ~……知らない仲でもないだロ~?」


 グチュグチュと音を立て、偽りの衣を脱ぎ捨てる。


「良かったじゃないカ聖剣使い……これで前よりももっと強くなるネ」


「アイン……ッ!」


 魔王三銃士の一人『アイン』が姿を見せる。


 以前にも海賊ナイトメアの『キャプテン エド』の姿に化けていたこともあった。そのときアインはエドを殺し・・、姿と能力を得たという。


「前にも一度見せたよネ? この国に侵入するのに必要な犠牲だったんダァ そんな怖い顔しないでくれたまエ」


「何が必要な犠牲だふざけるなよ……何故お前はそうやって何の躊躇いも無く命を奪える」


「お互い様じゃあないかナ? 同胞たちを何度も何度も倒されてアイン悲し……オット?」


 無言でリンは抜刀して斬りかかる。


 声を聞いているだけで虫唾が走る。リンにとって存在自体が到底受け入れられる存在ではなかった。


「そんなに嫌わないでくれタマエ キミの事はとても気に入っているんだかラ」


「だったら気に入られる努力をしろ そこまで嫌われるのはある意味才能だがな」


「羨ましいカイ? もしよければ伝授してあげるヨ」


「お前に教えてもらうことなど無い!」


 斬りかかるリンに対して、アインは悠々と躱す。


 暗い部屋に加えて、自からの身体を影に変えられるアインにとって造作も無い事だった。


「忘れたのカイ? この世界の事や言葉を与えたのは誰カ? キミが欲しい情報を何度も教えたのは誰だっタ?」


「それ以上にお前が奪った事を忘れるな! 奪われた人達のことを考えた事がお前にはあるか!?」


「あるわけ無いだろ?」


 そう言い放つアイン。その言葉を聞いたリンは怒りに任せて刀を振るう。


 影に身を隠すアインには届かないと知りながらも、今の目の前の存在は、決して許す訳にはいかない『敵』である。


「そうだ……怒れお前の怒りは正しい『怒り』だ 存分に身を委ねろ」


お前・・の目的は何だ……魔王軍じゃない 『お前自身の目的』を聞かせろ」


 魔王軍の目的は世界征服であるが、アインの目的は他にある。そう感じたリンはアインに問う。


「『蠱毒こどく』……という呪術をしているか?」


 一つの器の中で数多の毒虫に共食いをさせ、最後に残った最強の存在、またはこの方法の事を『蠱毒』と呼ぶ。


「弱き者に興味は無い この世界に興味は無い 欲するのは『蠱毒こどくなる者』のみ この蠱毒なる戦いの勝利者にのみ価値がある!」


 初めてアインの言葉から力を感じさせた。


 いつも薄っぺらな言葉で人を馬鹿にした態度。自らが憎悪の対象になる事を望むか道化師から、初めて感情がこめられていた。


「『シード』よ……『蠱毒こどくなシード』よ お前が先に芽吹くか それとも先に『魔王』が芽吹くのか……楽しみにしていよう」


「待て!」


「扉は開く 新しい賢者の石の力は外で早速お披露目してもらおうか」


 そう言い残して影へと消えていくアイン。


 アインの言葉通り、先程まで閉まっていた扉が開いている。


「あの野郎……!」


 部屋から出た直後、外から戦いの始まりを意味する轟音が鳴り響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る