第140話 更なる力
「あ~あ……せっかくの美形が台無しじゃないか」
《人の定めた美醜などどうでも良い 価値があるのは強さのみ》
人を捨て、魔界を統べる王としての力を得た。
《この漲る力こそ! 我が魔王と世界へ知らしめる為の力! 『黙示録の竜』を喰らい得た『サタン』の力!》
異形の姿に人は畏怖する。魔王の今の醜い姿には、それだけで価値がある。
「感じるよ……君がさっきまでと比べて……いや それどころか『まるで違う存在』に置き換わったかのようだ」
《再開だ……言ったであろう? この姿を見せるのは『敬意』であると 貴様の強さは我を凌駕する この姿でなくては通用しないと実感した》
かつて、戦争を終結させた生ける伝説。その凄まじい強さは紛う事なき『英雄』であった。
《我は神話を塗り潰す! 我は人の伝説を打ち砕く! 全てはその為の礎となる!》
奪われた憎しみを糧に、人間であった頃の
その為に、魔王はここまで築き上げてきた。己が境遇を呪い自らの『孤独』を、憤怒の化身『魔王サタン』名の得て昇華させた。
《最早人類に未来無し! 跪け! そして畏れ慄くが良い! 我こそは憤怒の王『サタン』であると!》
「知ってるかい? 今も昔も……人間は『可能性に賭ける』生き物なんだ たとえ人類の脅威であろうともね……それを打ち負かしてきたのが人間なんだよ」
聖剣を構え、魔王サタンを見据えて言い放つ。
「我名は『リン・ド・ヴルム』 人類を脅かす魔王よ……
《さあ来るがいい! 御伽話の英雄よ! 神話の力をもって貴様を殺す!》
一度救ったこの世界の為、英雄はもう一度、幸せな希望を信じている。
「聖剣二刀流……『ストームカレント』」
風と雷の二振りの聖剣が、激しい渦を纏い、魔王へ向かって放たれる。
人の姿であれば、聖剣使いのこの一撃で、決着がついていたのかもしれない。
だが、今の魔王には届かない。神速と認識していた聖剣使いの早さにも、既に魔王は克服していた。
《視えているぞ! 貴様の攻撃は!》
魔王の剛腕が聖剣使いの技を止めた。
受けるだけで掴んだ手が吹き飛んでしまいそうになる一撃であろうと、今の魔王の姿ならば受け止める事ができる。
《この程度! 人の伝説は神話には届かぬか!?》
魔王の口へと魔力が集中する。破壊の光線が聖剣使いへと向けられた。
魔王の光線をその音速を超えた速さで躱す。しかしその光線はそのまま薙ぎ払われ、広範囲へと及んだ。
(このままだとアレキサンドラの兵も巻き込まれる!)
なんとしてでもそれだけは避けなくてはならない。その為にも回避する方向を決め、雷の聖剣『ボルトラージュ』を一度賢者の石の状態に戻し、代わりに
「いくよ『アクアシュバリエ』 君の
最初に握られていた風の聖剣『ゲイルグリーフ』に加え、水の聖剣『アクアシュバリエ』が新たに握られる。
「『オーシャンドーム』」
聖剣使いは水の聖剣を地面へ突き立てると、魔王と聖剣使いを囲むように、巨大な水の膜が周りに展開される。
一対一の状況を作り出し、邪魔されない為、なにより周りに被害を出さない為の場を設けたのだ。
「聖剣二刀流……『サイクロンフォールズ』」
風で動きを封じ、滝の水の如し水撃が魔王へと墜す。
《この状況下でも他者に気を回す余裕があるとは……大したものだな》
何十倍にも強化された魔王の魔力。自身を守る障壁の強度もその分増している。
「英雄だからね」
至近距離で放ったのにもかかわらず、傷を与える事はできなかったが、それでも優勢なのは自分であると自負する聖剣使い。
技を一度叩き込んだだけで勝てるほど、簡単な相手ではないことはわかっている。だから二手三手を既に準備していた。
「聖剣二刀流……」
その手に握られていた聖剣は風ではなかった。
「『タイドエレクトリシティ』」
握られていたのは水と雷の聖剣。技を打ち込んだ後、風の聖剣を雷の聖剣へと変えていた。
《ヌウゥッ!?》
数多の修羅場を潜り抜け、洗練された英雄の技術。一瞬でも気を抜けばその瞬間首が飛んでいるのであろう。
どれだけ魔王が力を付けていたとしても、絶対に覆せない『経験』の差というものがある。
《足りぬ……足りぬぞ! この程度が『魔王サタン』の実力など嗤わせるな!》
己自身に怒りをぶつける。手にしたかった力はこんな物ではないと。
何者をも寄せ付けない、圧倒的な力。それこそが求めた力。
《人の英雄を越えられぬして何が魔王か! 何が神への叛逆か! この怒りは何のために……!?》
(様子が……?)
魔王の動きが止まる。だが決して好機ではない。
(魔力が……膨れ上がっている!?)
魔王の怒りが、限界の壁を越えようとしていた。
己が怒りを糧にし、新たな……いや、『本来の姿』へと到ろうとしている。
《フッ……フハハハハハッ! そうだ……やればできるではないか!》
魔王の身体に『罅』が入る。
その罅はまるで卵から雛が孵るかのように。
《我怒りに限界など有りはしない! この力を最初に拝むのはお前であったか……! 初代聖剣使い!》
(嫌な雰囲気……
仕方がないと、最後の切り札である『最後の聖剣』の準備をする。
だが、以外にもこの戦いは第三者によって止められた。
「魔王様 ご報告です」
《……後にしろドライ 我はこの男を殺す》
「アレキサンドラ殲滅部隊……機械兵達の全滅を確認 作戦は失敗です」
初代聖剣使いが約半数を倒していたおかげで、戦力差でアレキサンドラが完全に有利になっていたこともあり、二人が戦っている間に機械兵達は全て討ち取られた。
《それがどうした? アレキサンドラなんぞ我一人で充分だ この男を倒すのに不要な情報だ 下がれ》
「いけません魔王様 我々は『魔王軍』……軍である以上 作戦が失敗したのであれば速やかな撤退を……」
《ドライ……いつからお前は我に命令出来る立場となった?》
たとえ魔王三銃士の立場であったとしても、その主である魔王への命令など、到底許されるものではない。
「……最終判断は魔王様にお任せします ですがこの戦は魔王様一人の勝利では意味がありません 魔王様の手を下すことなく『魔王軍』が魔王様に完全勝利を収めなくてはならないのです……それを望まれていたのは魔王様です」
跪き、傅き、判断を委ねる魔王三銃士ドライ。
決して自らの意思ではなく、『魔王への忠義』を示すその姿を見て、魔王は人の姿へと戻った。
「……軍の指揮は全てお前に任せていたのだったな『軍士ドライ』」
「ありがとうございます 魔王様」
「礼を言うぞ初代聖剣使い お前のおかげで更なる高みへと到ることができたのだからな」
そう言い残し、二人は消えた。アレキサンドラは無事、魔王軍の侵攻を食い止めたのだ。
「……ふう~」
緊張が抜け、その場に座り込でしまう。
「老体に鞭打って戦ってみたものの……最近の若者の人間離れってやつは深刻だなぁ」
もしもあのまま戦っていればどうなっていたかのど、想像したくなった。
「まあとりあえずは『ピヴワ』ちゃんのお願いも聞いてあげれたことだし……良しとしましょう!」
この場にはいない、
ド・ワーフヘはもう
(楽しみにしてるよ……二代目君 一足先に『ギアズエンパイア』で待ってるからね)
立ち上がり、次の行き先へと歩み始める初代聖剣使い。二人が交わる日も近かった。
たとえそれが、
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