奪い奪われ壊されて

第116話 凍てつく世界

「みんな準備しててね そろそろ着く頃合いだから」


「ついに『アイススポット』間近まで来たのでござるな」


「意外に早かったな〜 二週間ぐらいか?」


 カザネから約三週間程かかると言われていたが、余り寄り道をせずに進んでいた為、予定よりも早く来る事が出来た。


 極寒の地『アイススポット』、そこにある賢者の石を求めて、リン達は準備を始める。


「山の麓からは徒歩だ 馬車じゃあ山を登れねえからよ」


「オレ様凍えちまうぜ」


「アニキ〜 寒いのイヤです〜」


「じゃあここで留守番だな」


「えぇ〜!?」


 これまで二ヶ所の賢者の石が納められていた場所には、謎の泥棒の仕業により、『アクアシュバリエ』と『ゲイルグリーフ』を入手する事ができなかった。


 今回こそはと、三つ目の賢者の石を手に入れたいと、リンは強く願う。


「さあさあ降りて! この山を登った先が『アイススポット』よ」


「ほほー? 山頂が白くなっているでござるな!」


「わーいだー!」


 年中雪が降り積もるアイススポットは、常に防寒を怠ってはならない。


 何故なら気温は平均でマイナス三十五度。 夜になれば更に下がりマイナス五十度程になってしまうと、近くの街に寄った時に聞かされていた。


「まだお昼だけど山に着く頃には夕方になってるかもしれないわ みんなしっかり暖かくしとくのよ」


「アニキ雪ですよ雪! 雪合戦しましょうね!」


「……そうだな」


「ほら! 遊ぶにしても登らないとでしょ?」


 準備は万端のとなった聖剣使い一行は、山を登り始めた。


 そして山を登り始めて早々、不満が溢れ出る。


「サムゥ!?」


 当然である。


「アアアァアニキィ……寒いですぅ……」


「そうだろうな」


「これはまた想像以上の寒さでござる……」


「うぅ……おじさんもう駄目かも」


「オレ様も……」


 全員山を登るにつれて、歩きにくい斜面と雪、そして凍えるような寒さでまともに動けない。


「最初から言ってたじゃない! それに寒いて思うから寒いのよ!」


「寒いもんは寒いだろう」


「アニキは随分と平気そうに見えますけど……」


 一人で平然とするリンを見て、レイは疑問を投げかける。


「このコートのおかげかもな」


 身に纏うそのコートは旅を始めてから世話になっている黒コート。


 防刃防弾に加え、防寒の機能もついた優れものだったのだ。


「ズッズルイ!」


「良いだろ俺のなんだから」


「アニキには女の子にもっと優しくするべきです! 具体的にはコートを優しくソッとかけてあげるとか……」


(清々しいまで欲望だだ漏れね)


「貸してやるから文句言うなよ」


「え!?」


そう言ってリンはコートを投げ渡す。


「でっでもそれじゃあアニキが……!」


「別に寒くないしな」


 リンが寒さを感じなかったのはコートのおかげだけでは無い。


 火の賢者の石『フレアディスペア』が、リンの体を暖め、寒さを軽減していたのだ。


「便利な力だことで……」


「えへえへぇ〜 アニキのコートだぁ〜」


「あー! 私も寒いわねー! こんな時暖かいコートがあればなー!?」


「あっ……すまん 予備のコート持ってくれば良かったな」


「……とっとと登ってとっとと下山するわよ」


「拙者はそうでござるな〜? 体が冷えた時はやはり人肌で暖め合うのが定石であると思うのでござるよ?」


「多分宿に暖があると思うが」


「師匠の言う事は絶対でござる」


「強制かよ!」


「なあアレじゃあねえか?」


 寒さを紛らわせる為の会話をしながら山を登り、遂に村の入り口と思われる場所に到着する。


 が、吹雪が吹き荒れ、外に人の気配を感じられない。


「チッ! さっきより冷えてきやがったな」


「風が強くなってるからね ここがアイススポットってことだと思うんだけど……」


「妙でござるな」


 アヤカかが妙だと思ったのは外に人の気配が無いからではない。


 家からも感じられない・・・・・・・・・のだ。


「……明かりがついていないな」


「火を焚いてる様子がないねぇ いくら現地の奴らでもそりゃあおかしいだろう」


「んじゃ村の様子みようぜ? 誰かいるかもしれないし」


 ここは村というよりはどちらかといえば集落である。それ程探すのにも苦労はしない。


「一旦別れよう 現地の人が今いるのかだけでも確認したい」


「了解アニキ!」


「早いとこ暖まりたいぜちくしょう」


「何かわかったら知らせるわね」


 散り散りとなって散策を始める。リンはチビルには残ってもらって頼み事をした。


「チビル 少し高めの位置から村を見渡してくれ 明かりがあれば知らせてほしい」


「任せな! ちと吹雪が強いけどやってやらぁ!」


 そう言って小さい翼を羽ばたかせ、空へ上昇するチビル。何らかの理由で全員どこかに移動しているのかもしれない、そうであれば目印がある筈と踏んでリンは期待した。


「……ダメだ明かりはねぇ 視界も悪いけど近くには明かりがねえのは確かだ」


「そうか……」


「リン? 聞こえる?」


「どうしたシオン」


 期待叶わず、チビルはリンの元へ舞い戻る。


 先ほど離れたばかりのシオンから、魔力での連絡が入る。


「人は見当たらないけど……『氷像』があるのよね それに妙に精巧な奴が」


「『氷像』?」


「ええ それもいくつもあるのよ……全部『人型』でね」


 その発言で嫌な予感が浮かび上がってくる。リンはその予感が外れて欲しいと切に願ったが、叶わぬ願いであった。


「残念ながら 思ってる通りなんだなこれがまた」


 背後からの声に、リンは聖剣を構えてその声の主と相対する。


「誰だ」


「どうも聖剣 初めましてだなぁ?」


「魔王軍か?」


「そうだとも 魔王三銃士『アイン』様より命令を受けてここに来た」


 よりにもよって一番リンが嫌う『アイン』からの手先が、目の前に現れる。


「自己紹介だ 名前は『ルドー』ってんだ ここにあるって聴いてた賢者の石の確認 聖剣使い様の待ち伏せでここに来たのさ」


「ご丁寧にどうも 早速で悪いが実技といこうか」


「御託はいいってか? 良いな! そう来ないとなあ!」


「シオン聞こえるか? 村に人がいるかどうかは継続して探してくれ 見つけたら避難を頼む アヤカとムロウにも合流したら知らせてくれ」


「わかったわ!」


「チビルも頼んだ」


「パパッと頼むぜ!」


 これで心置きなく戦える。そう思っていると、ルドーは笑い出す。


「ハッハッハ! 良い判断だな! ここ・・でまともに戦えるのはお前だけだもんなぁ!」


 この地での戦いで最も苦戦を強いられるのは『寒さ』だ。リンを除けば、この寒さに適応できる者はいなかった。


「ここにあった『氷像』……この村の住人か?」


「正解! お前ら待つのに退屈でなー? 暇つぶしに氷像造りに熱中してたわけよ」


 人の気配がしない理由は、この男『ルドー』の仕業だと簡単に白状する。


「お前を倒せば氷は『解ける』って事で良いのか?」


「さあて? そう簡単にいくと思ってるんならベリーバードだぜ?」


 凍てつく世界での戦いが、始まった。

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