第101話 作戦

 列車の中での戦いは、非常にやりにくい。


 空間が縦に長く狭い為、広範囲に及ぶ攻撃手段は限られてしまう。


「お邪魔しますよっと」


「あぁ!? 何勝手に動いてや……ガッ!?」


 リンは顔を掴んでそのまま地面へ叩きつける。


「ここも七人……いや一人減ったから六人か」


 聖剣による攻撃は悪手である。周りに巻き込む人がいないのであればともかく、人質となった他の乗客に当たってしまうかもしれないからだ。


「その顔は聖剣使いだな!」


「目的は俺なんだろ? だったら早く縛っといた方がいいんじゃないか?」


「コイツゥ!」


「撃たせるわけにはいかないな」


 銃身を掴むとリンは力を込めると、握られた銃身はその握力で潰されてしまった。


「ウッソ!?」


「これで五人」


 掴んだ銃を取り上げ、それを頭へ叩きつける。


 接近戦へ持ち込んでの体術が、この場において最も安全かつ無難な戦法だとリンは判断した。


(偶然か作戦か知らんが……ここじゃあ確かに戦いにくいか)


「もういい撃て! 撃たなきゃ殺られる!」


「撃たせるかっての」


 先程殴って気絶させて男を、残党へとぶつける。


「オワッ!?」


「こんなところで撃ったら危ないだろ?」


 この場所での戦いがやりづらいのは相手も同じ事。むしろ相手が集団であるのなら、横に並びにくいこの場での戦闘は不利になる。


「わざわざ一列に倒されにくるなんて……行儀はいいじゃあないか」


 気絶させ、動けないように縛っておく。


 早々に片付けたおかげで乗客に被害を出さずに済んだ。


「これでここの制圧は完了だな!」


「チビルはここの人たちを前の車両に移してくれ」


「そりゃあイイけどこの先はどうすんだよ? あと二両あるんだぞ?」


「考えてはいるさ」


 そう言ってある程度前の両に乗客が移ったのを見計らって、次の車両へ移る。


「よう」


「なんだお前……グェ!?」


(こっちは今の含めて四人……よしよし)


「このヤロウふざけやがって!」


「撃てよ 当てられるならな」


 今度はうって変わって、相手に撃たせる・・・・事を強制する。


「なめんじゃねぇ!」


 当然撃つのを躊躇うような、そんな連中では無い事は百も承知だった。


 だからこそあえてリンは撃たせたのだ。


「ちゃんと顔を狙ってきたな 腕は確かか」


「避けやがった!?」


 銃弾を躱したというよりは、引き金を引く瞬間を狙って、リンが動いたのである。


「避けんじゃねえよ!」


「いいぞ 動かないでやる」


「なんだと!?」


 ここ狙えと言わんばかりに、自身の眉間に指を当てて挑発するリン。


「バカかテメェ!」


 躊躇いなく撃たれた銃弾はリンに直撃する。


「……痛えよ」


 確かに銃弾は狙い通りに放たれた。


「な!?」


 身体を硬化さてたリンの身体を、銃弾では貫けない。


「調査不足だったな……いやむしろ実はしてなかっただろ」


「ヒッ!?」


 蹴りが綺麗に腹部へと決まると、三人纏めて派手に吹き飛ばした。


 そして大きな音と共に、銃声がした・・・・・のであれば当然、次の車両から現れるのは決まっている。


「おい今の音はなんだ!」


 リンは無言で様子を見にきた男に対し、まるでボールでもぶつけるかのように、転がっていた銃を敵目掛けて、頭に向けてぶつける。


「予想通りだな」


 本来であれば別の車両からの増援が来るのを避ける為に、なるべく物音を立てずに戦うべきである。


 だが、次の車両が最後となれば話が別だ。


 やってくる人数は当然少なく、人質に回す人員は最小限となる。相手に考える時間を与える暇もなくなると踏んだのだ。


(早々に決めるとしよう)


 だがそれでも全員を誘い込めるかは賭けとなる。


 挑発して攻撃を自身に集中させる必要は無い。有無も言わせず叩き潰すだけだった。


「貴方達は前の車両に 小悪魔のチビルってヤツが案内してくれる筈です」


「はっはい!」


「ありがとうございます!」


 危険が及ばないよう、今の車両の乗客にはチビルのもとへ行かせた。


(まず一人!)


 最後の車両にいる敵は残り五人。


 的確に相手の顎などの急所を、蹴りと拳で叩く。


「来るな! コイツがどうなっても良いのかぁ!?」


 後一人だった。


「随分暴れてくれたなえぇ? だがこれで形勢逆転だな」


「たっ助けてください……」


「……それで? 俺はどうすれば良い?」


「手を上げて膝を着きな じゃなきゃこの女を殺す」


 そう言って銃口を人質の女の頭に押し付ける。


 リンは言われるがままに膝をついて手を上げた。


「手こずらせやがって! 言う通りにしとけば良かったのによぉ」


「俺が目的のようだったが……誰に頼まれた?」


「誰が喋ってイイッつたよぉ!?」


「キャッ!」


 声を荒げて、天井に向けて銃を乱射する。


「へっ! まあいい教えてやるよ オレらは金で雇われた傭兵さ」


「傭兵?」


「おうさ! 依頼主はまあ多分予想はついてんだろうが『魔王軍』のヤツさ」


「お前らにはプライドがないんだな 今魔王軍と戦争中だってのに」


「それでメシが食えるのかぁ? そんなもん大事にするぐらいなら質屋に入れて金にした方がよっぽどイイぜ」


 下品に笑う傭兵の男は続けてこう言った。


「まあ戦争万歳だよホント そのおかげでオレらみたいなのは食っていけるんだからなぁ」


「その腕を世界を守るためにでも役立てれば良かったろ」


「ダメダメダメェ……オレらみたいなのはヤツらを何処の国が雇うってんだ? 拾ってくれるのはなりふり構わず利用する魔王軍のヤツらぐらいさ」


 銃口がリンに向けられた。


「オレ達の勝ちだな聖剣使い様 オレらを救うと思ってここで死ねや もしオレが撃ってても生きてたら……先にこの女から殺してやる」


「だったら誓え 俺が死んだら手を出さないと」


「安心しな! この女の面倒はちゃんとみてやるからよぉ!」


 勝利を確信した傭兵は、高笑いをしながらそう告げた。


「聞いたか人質さん? アンタ一世一代のプロポーズ受けてるみたいだ」


 既に勝敗は決していた。


「……残念だけど お断りよ」


「なんだと……グェ!?」


「この様子だと本当に金で雇われただけみたいね リン以外の事を知らないんだもん」


 一芝居打った、リンとシオン・・・の勝利だ。


「案外女優になれるかもな」


「ありがと」


 人質をとる事は名案であったのだろう。


「お前の敗因はそうだな……作戦センスがなかった事だ」


 だが、選んでしまった人質に関してはそれは、愚策だったと言わざるおえなかった。

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