第102話 目的地を決めて

「この度は乗客の皆様や乗務員一同を救っていただき 誠に有り難うございます」


「いえ 自分達の出来る事をしたまでですので」


 リン達の活躍により、列車は無事に目的地に到着した。


 首謀者は不明、傭兵の主犯格に聞いてみても知らないの一点張りであった。


「こちらとしましては何かお礼をしたいのですが……」


 深々と頭を下げていた駅長がそう言うと、リンはその話を断る。


「今回の一件に関しては俺を狙っての犯行です むしろご迷惑をおかけしたのは俺の……」


 自分が乗っていなければ周りに怖い思いをさせる事はなかっただろうと、リンは申し訳が立たないという思いだった。


 最後まで言いかけた時、後ろからムロウに肩を掴まれ、こう言った。


「おっと それを言い出したらヤツらを雇った魔王軍が悪いんだよ」


「ムロウ……」


「礼に関しちゃあ気にすんなって言いたいんですよコイツわ」


「ですが……」


「そうだ! ここから一番近い宿ってどのあたりにあるよ? それを教えてくれるってのが報酬って事で……どうだい?」


「一番近いのはそうですね……北の方角に行っていただければ『ギルドがい』があります 徒歩だと時間がかかりますが馬車を使えば一時間ほどで着かれるかと」


「おう! あんがとさん!」


「本当によろしいのですか? この程度の情報で……」


「先を急いでるもんでね それに野宿せずに済んだんだ 十分有益な情報だったよ」


 それだけで本当に良いのかと不安そうな駅長だったが、事情説明の為に呼ばれて渋々その場を離れていった。


「こういうのは大人に任せときな」


「……正直助かった」


「あんまり自分を虐めんなよ いつか壊れるぞ」


 手をヒラヒラさせてムロウが離れていく。


 ムロウの後ろ姿を眺めて、リンは思う。


「案外みてるんだな……」


 心を見透かされた気がした。


 散々言われた曇りの原因を、言い当てられた気がした。


「なんか癪に触る気もするが」


 普段、飄々とした態度を見せているのに、こういう時に真面目な態度だと差を感じられずにはいられなかった。


「ああ見えて今後カザネを引っ張る立場でござるからな」


「急に人の背後に立つのやめてもらえます?」


 背後から気配を消してから話しかけるアヤカ。


 当然ながらわざとである。


「いやいや失敬! 余りに後ろ姿がガラ空きだったものでつい!」


「隙を見せてすみませんでしたね」


「ん〜? これは師匠ついて来て正解だったでござるかな? かな?」


 チラチラと横目で見てくる期待の眼差し。


 これは口にしない限り、何度でも同じ問答をするぞ、という合図でもある。


「今日は助かった これから先こういうことが日常茶飯事になると思う これからも手を貸してもらうぞ」


「満点の解答でござるなリン殿? やっと拙者のすばらしさを理解したようでござるな〜」


 言葉は本心だったが、無理やり言わせておいてアヤカはご機嫌だった。


 もう諦めていたリンは気にせず『ギルド街』について聞いた。


「ところで『ギルド街』ってのは何だ?」


「ギルドって言うのは何か困ってる事を相談するところでござるな」


「相談してどうするんだ?」


「『依頼』という形でそれを解決できる人を探してもらうのでござるよ 『依頼費』を依頼人が払ってその問題を解決した『受諾者』に支払われる ギルドはその一部を『仲介手数料』として貰うといった感じでござる」


「つまり仕事を紹介してくれるところってことか」


「まあ噛み砕いて言えばそうでござるな そういう場所には当然人が集まるでござる」


 ギルドを中心に人が集まれば、当然商売がしやすくなる。食材や装備品は勿論、泊まる事の出来る宿があれば利便性は向上する。


 そうして出来たのが『ギルド街』と呼ばれる場所だった。


「だからそういったところは各地にあるのでござるよ 旅の休息所としても利用されてるでござるからな」


「一つ聞きたい カザネの次に近い……確か『アイススポット』だったか? そこに賢者の石があるって話だ ここからだとどれぐらいかかる?」


 リンの本音としては、異世界から来たという『眠り姫』のいる『ド・ワーフ』に行きたいのだが、そちらの方が近いと言われていた。


「近いと言ってもかなり距離があるでござる 列車もないでござるし 馬車で行けば約三週間といったところでござるかな」


「だいぶかかるな」


「アイススポットは山の上にある小さな集落でござる 色々な資源が獲れる場所としては有名でござるが極寒の地 あまり人が立ち寄るような場所ではないのでござるよ」


 そのせいで道も限られ、移動手段が少ないのだった。


「まあそういう街がそこかしこにあるなら安心だ 情報も集めやすいだろうし」


「急がば回れと言うでござる のんびり気楽に旅をするのでござるよ」


「アンタが楽しみたいだけだろ」


 山育ちのアヤカにとって、旅は一つの憧れでもあった。


 本人は隠してるつもりのようだったが、いつもより浮き足立っていたのに、リンは気づいていた。


「よし! 準備完了ね!」


 しばらくするとカザネから貨物列車が、馬と馬車を運んできてくれた。


 元々馬車の予定を列車にしていたので、馬は連れていくつもりであった。

だが流石に一緒には乗せられなかったので、こうして送ってもらったのだ。


「お〜よしよし 良い子にしてたのね」


「良かったな 馬車があれば一時間ぐらいで街に着くらしい」


「本当にね またお世話になるわね〜」


 シオンが馬の頭を撫でると、それに応えるように嬉しそうにしながら、顔をすり寄せ尻尾を振る。


「馬車は任せた 俺達の中で馬車を引けるのはシオンだけみたいだしな」


「任せて この子達も久しぶりで嬉しい筈だから」


「アニキ〜! ちょっと来てくれませんか〜?」


「呼ばれてるわよ 行ってあげて」


「ああ」


 リンは呼ばれたが、すぐには行こうとしなかった。


「ん? もしかして何か用事?」


「いや 大丈夫だったか?」


「え? 何が?」


「怪我とかはないんだよな」


「え? あ〜うん別に何も無いわよ」


 シオンはリンが何を言いたいのかようやく理解した。列車内での事だ。


「へ〜? 心配してくれてたんだ」


「まあ……一応」


「何よ一応って?」


 ジト目でリンを睨むと、とても照れ臭そうにするリン。


「アンタの事信じてはいたからな……大丈夫だろうなって」


「あっ……えっと……ありがとう」


 正直に言うのが恥ずかしくて、正直に言われるのが恥ずかしい二人。


「何もないなら良い 呼ばれたから行くぞ」


「いっ行ってらっしゃい……」


どこか互いにぎこちなく別れてしまう。


(なんなのよ〜もう!)


 不意打ちの優しさに耐性のないシオンだった。

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