次を目指して

第100話 列車上

「驚いたな……まさかこの世界に列車があるとは」


 ついにカザネを出る事となったリン達。


 移動手段を馬車にするかどうするかと悩んでいたところ、汽車を使う事を勧められたのだ。


「あら? リンの世界にもあるのね」


「もっといえばこれは旧式になるな 俺の世界だと電車っていう電気を使ったのが主流だ」


「そりゃあスゲェや! こっちじゃあやっと普及するかもしれない程度だってのに」


「……で? 何でアンタがここにいるんだ?」


 当然のように混ざっているムロウに対して、当然の疑問を投げかける。


「まあいいじゃあねえか二代目? 旅は道連れって事で」


「ただでさえアヤカっていうこれでもかってぐらい面倒なのが加わったってのに」


 刹那の一撃がリンに放たれた。


「まったくリン殿は照れ屋さんでござるな〜」


「いや……違う」


「まったくリン殿は照れ屋さんでござるな〜」


「アッハイ」


 全く同じ言葉だというのに、言葉の威圧感がちがう。


 首を縦に振らねば、今度は首の骨が折れていたかもしれないとリンは察した。


「リン殿に突然『俺の物になれ』って言われた時は拙者どうしようかと」


「断じて言ってないぞ」


 リンは一言『一緒に来ないか?』と提案しただけであった。


 それに一言『良いでござるよ』と迷い無く応じたのはアヤカであり、決して上記のような発言は無い。


「まあ師匠を落とそうだなんて百年早いでござるからな! 日々精進するでござる」


「つまり俺が生きてるうちには無理そうだな 良かった」


 刹那の一撃は二度放たれる。


「ホラ! 遊んでないで早く乗る! 他の人たちのご迷惑でしょ!」


「どう見ても俺被害者なんですけど」


「細えヤツだなぁ! ホラホラいざ行かん!」


「にぎやかになったもんだなリン?」


「……本当にな」


 最初に旅立った時にはチビルだけだった。


 それからレイが加わり、シオンが仲間になっていった


「これからまた増えるのかもな?」


「もし加わるなら大人しい奴を頼みたいな」


「オジサン女の子が良いなぁ」


「早く乗れって言ってんでしょ!」


 男衆がシオンに怒られ、急いで列車に乗り込む。


「もう! 貸切ってわけじゃあないんだからね!」


「シオンってば真面目ちゃんかよ〜」


「あれだろう? 本当は列車乗るのが楽しみだからそんな急かすんだろう?」


「そんなんじゃありません!」


 そう言いつつも窓際を確保し、手にはパンフレットを持つ姿では説得力は皆無である。


「まあ今はともかく少ししてから別の車両でも見てくれば良いさ」


「あらリンってば名案 こういうの乗る機会なんてそうそうないし」


「やっぱ楽しみなんじゃん」


 そして列車は走り出す。


 車窓からの風がとても心地良い。


 今、心休まる旅が今始まろうとしていた。


 始まって欲しかった。


「動くんじゃあねぇ! この列車は我々が占拠したぁ!」


「知ってた」


 始めさせてはもらえなかった。


「三度目だ……船の上で二回海賊に襲われ今度は列車……」


「お前さん本なくても呪われてない?」


 事実を受け止められずにいると、銃を持った男がリン達のところに近づいてきた。


「おっいたいた……お前達が聖剣使いとその仲間だなぁ?」


「だったらどうする?」


「へっ! 決まってんだろ? お前達が抵抗しないのであればそれでいい だがもし抵抗するってんなら他の乗客にご迷惑おかけしなくちゃあな?」


「安心しろ もう迷惑だ」


「口の利き方に気を付けろよ聖剣使い様?」


 そう言って銃を突きつけられる。


「テメェアニキに何しやがる!」


「やめろレイ」


「おうおうそれで良いんだよ聖剣使い様ぁ? 俺たちもやりたくてやってるわけじゃあないからよ」


 男は仲間に呼ばれてその場を離れていった。その隙にリン達は作戦会議を始める。


「随分無用心だな オレ様達から目を離すなんてよ」


「人質がいるから手を出せないって判断だろうよ」


「どうする二代目?」


「大人しく言う通りするでござるか?」


「冗談だろ?」


 奴らが言う通りに人質を解放するとは思えない。


 ならばこちらから動く事が最善だろうとリンは考えた。


「人質に危害を加えないようにしなくちゃならない」


「具体的には?」


「無い」


「無いんかい」


「当たり前だろ」


 ただでさえ車両を隔てているうえ、相手の人数がどれほどかわからない。


「狭くて戦いにくい だが奴らの主武装は銃だ」


「こんな室内でぶっ放すにはちと厳しいだろうぜ」


 下手に撃てば弾が跳弾して自分に当たってしまうかもしれない。迂闊に撃つような事はしないと踏んだ。


「人質は無事だからこそ意味がある それに目の前のやつが襲ってくるんだ 嫌でもこっちに注意を逸らさせれば良い」


「リン殿は結構脳筋でござるな」


「でも多少のリスクは背負わなくちゃな 何もしない方がどうなるかわかりゃしねえ」


「奴らに銃を撃たせないことだ 銃声が聞こえれば仲間にすぐバレる」


 一両ずつ、なるべく安全に制圧していく。狭い空間での乱戦を避けるべきだと判断したからだ。


「えぇ!? てことはオレの出番は!?」


「バッカ! 声抑えろ!」


「お前ら何を騒いでる!?」


「ハァ……作戦開始」


 作戦と呼べるほどでも無いが、その一言でその場にいる全員が行動に移る。


 近づいてきた男をリンが締め落とす。


 それに気づいた仲間が一斉にこちらに銃を向ける。


「お前ら反抗する……ッ!?」


「口より先ずは撃つことを優先するんだったな」


 一番槍はいただいたとばかりに、ムロウが機関銃を真っ二つに斬り落とす。


「ナッ!?」


「いっちょ上がりでござるな」


 いつのまにか回り込んでいたアヤカが手刀が首に当たると、意識を失った。


「ここにいたのは七人か…5…他のところもこれぐらいるはずだ」


「んじゃあ二手に分かれるか? その方がこっちも動きやすいだろう?」


「なら前の車両に行ってくれ 後ろの三両は俺一人でいい」


「前の六両は拙者達でござるか……一人で大丈夫でござるか?」


「弟子を信じろ」


「だったらオレ様はついてくぜ! 人質助けるのぐらいには役立つさ!」


「わかった」


「って事はレイの嬢ちゃんは前組だな」


「じゃあオレはアニキについてくから……」


「言う通りにするでござるよ」


「ヤダァ! ハナセェー!」


「って事でそっちは任せた」


 無理やり引っ張られながらレイ達は前の車両にへ進む。


「……さてと」


「へへっ! 今のお前ならパパパッて片付けられるだろうぜ」


「そうだと良いな」


 列車の中の制圧戦が始まった。

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