第44話 不穏
「ホラホラどうした! オレを倒してみろよ!」
「くっ!」
「このアマァ!」
リンたちが暴れている所と別の場所では、レイが人質を守るために一人で海賊達に立ち向かう。
本来であればそれは無謀なのだろう。
しかしレイの顔に焦りや不安などはない。むしろ余裕の表情をしていた。
「思ってた以上にてんでダメだなぁ? こんなんじゃ恥ずかしくてアニキに言えねえぜ!」
「調子にのりやがってぇ!」
「これでも喰らいやがれ!」
(ん? あれは確か……)
そう言って海賊が投げつけてきたのは瓶に入った赤い液状の物。
それにレイは見覚えがあった。
「なるほどそういうことかい!」
自分の元へ来る前に海賊の近くでその瓶を撃ち抜く。するとその瓶の中の液体はすぐに爆発した。
「ぎゃあああ!」
「やっぱり……そういうことね」
「いっ一旦退避!」
「させるかよ!」
レイはすぐに距離を詰めて落ちていたナイフを拾い、そのまま斬りつける。その拍子に相手は銃を落とし、それもまたすぐ拾い上げた。
「弾ならいくらでもあるぜ! なんせお前らが腐るほど落としてくれるからよ!」
「ちっちくしょう……」
「何でこんな奴がこの船に……」
「おいおい随分大人しくなったなぁ? 何なら降参するかい?」
「みっ見逃してくれるのか!?」
「見逃すかどうかはアニキ次第だけど……まあいいんじゃね? とりあえず動けなくはするけど」
「頼むそうしてくれ!」
「そ」
レイは何の迷いもなく海賊の足を撃ち抜く。撃たれた海賊は当然悲鳴をあげた。
「なっ何しやがる!?」
「あぁ? 動けなくしてんだろが ロープで縛るのもこの数じゃめんどいし」
「ひっ酷ぇ……」
「お前らに言われたくねえんだよ」
次々に撃ち抜き動けなくする姿は悪魔だったと、宣言通り武勇伝を無理やり語らせるために一人だけ残された海賊はそう語った。
「それで? こいつら何者だ」
船に乗り込んだ海賊達を全て海賊達はホールに集められる。
確認したところ(海賊以外は)皆無事であった。
「よく見ると服装が違うね? 全部で3種類かな?」
「『ゴースト』『ゴブリン』『ガーゴイル』っで間違いねえよなお前らぁ?」
「けっ! そうだよ」
「答え方が違うだろ?」
「はい! その通りでございます!」
レイに銃を突きつけられると態度がガラリと変わり正体を明かす。どうやら三つの海賊が集まってできた同盟海賊団だったようだ。
「確かお前ら『グール』の金魚の糞だよな? エドが捕まってグールがなくなったのに何でお前ら暴れてんだ?」
「何だお前ら知らねえのか?」
「エドさんなら逃げ出してるよう」
「……何だと?」
引き渡したはずなエドが逃げたのだと言う。あれほどのダメージを与えておいたのに投げ出すことなど可能なのかと、疑問に思うリン。
「脱獄か?」
「いや……船の上で姿を消したんだよ」
「乗組員の奴らは皆殺しでな!」
「さすがエドさんだぜ!」
「エドの野郎……!」
「アニキに倒されて大人しくなるかと思ったのによ!」
「……」
何か違和感がある。本当にエドがやったことなのだろうかと。
「確証はあるのか?」
「まあ見たやつはいねえけどよ」
「エドさん以外は皆殺しだし 爆発の後もあったて聞いたから間違いねえよ」
違和感しかなかった。あまりにも犯人はエドだと言っているようなものだったからだ。
隠す必要がないとはいえ、これから逃げるというやつがこうも足がつくようなやり方をするのは、おかしく思う。
「エドがいそうなところに心当たりはないか?」
「あぁ? 知るわけねえだろ」
「知ってても教えるか……グム!?」
「答えろ」
顔を握りつぶす勢いで顔を掴む。ミシミシと音を立て、握力だけで本当に潰せてしまえそうだ。
「ちょっとちょっとちょっとちょっとアイアンクローはやめてあげて」
「しっ知らねえって言ってんだろ!? 知ってたらとっくに合流してるよ!」
「……それもそうか」
少し考えれば分かることだったのだが、いつの間にかリンは冷静さを少しだけ失っていた。
エドの事は他人事ではない。もし本当に生きているのなら、また出会ってしまうことがあるかもしれないからだ。
「大丈夫ですよアニキ あんな奴今のアニキなら楽勝ですよ!」
「できれば会いたくないがな」
「その時はその時で考えましょ エドってやつも気になるけど手掛かりがなさすぎるでしょ」
「オレ様もそれに賛成だぜ ハッキリ言って関わりたくはないしな」
チビルの意見には自分も賛成だった。次会うときは以前にあったエドとも限らない。前のように上手く事が運ぶとはかぎらないからだ。
「聖剣使い様 この度はこの船を救っていただきたき有難うございました!」
海賊達を捕らえた事で、船内全体に安堵の雰囲気が溢れる。
そしてそう言って現れたのはこの船の船長が、今回の事を代表として深々と頭を下げる。
「別に……こっちにも被害がでるから弊害を排除しただけですよ」
「アナタ素直じゃないわね」
「お礼金貰えるかもしれないのにな」
「アニキのそういうところ好きですよ!」
「そんな事よりいつ着きますか?」
周りの声など無視して話を進める。これでは話が進まないとリンは判断したからだ。
断じて、素直じゃないからとか、そういうものではないと、心の中で念を押して。
「この調子であれば明日の朝には無事につけるかと 本当に感謝してもしきれません」
「着くのであればそれでいい 疲れたから休ませてもらう」
「そうですね! お礼の品でももらえればそれで十分ですよ!」
「黙って部屋に行くぞ」
レイの首根っこを掴んで引きずって部屋に向かう。何でこんなにガツガツしているのが多いのかと呆れる。
(怪我人もなくてよかった それ以外本当に何もいらない)
そのリンの優しさの感情は本当のものだ。
だが、それは何処か歪な感情でもあった事を、誰も知らない。
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