第43話 暴れる

「ほらどうしたの? その程度じゃかすりもしないよ」


「くっ!」


「何だあの女!?」


 銃弾が縦横無尽に放たれる。だがその中をギリギリでかわし続けながら、海賊達を切り裂いていった。


「ほらまた一人……捕まえられるもんなら捕まえて見なさい?」


「バカにしやがって!」


「バカにはしてないよ? 事実を言ってるだけだからね」


 誰も捉えられなかった。


 その剣戟は、その華麗な動きはまるで踊っているかのように美しく行われる。


「いくら避けられても囲んじまえばこっちのもんよ!」


「あら? これって誘導されたのかしら?」


 一見有利そうに見えて実は誘い込んでいたようだ。その証拠に前後左右に逃げ場はなかった。


「全方位塞いだ! これで逃げ場はねえ!」


「……雑魚のようだけど多少は頭が回るのね?」


「うるせえ! 全員撃てぇ!」


 一斉にシオンに向けられた銃口から、弾丸が放たれる。


 それでもシオンは涼しい顔を崩さない。何故なら負ける事など頭にはないのだ。


「塞ぐなら……上も・・塞ぎなさいな」


 凄まじい脚力だった。


 相手が引き金を引くと同時に、シオンは真上へと飛び上がったのだ。


 目標を失った弾丸は、代わりに囲うようにしていた海賊同士に当てられる。


「ひっ怯むな! 今のうちに撃てる奴は上を狙え!」


「『剣だけの女』とは思わないことね」


 飛んでいただけではない。飛び上がると同時に魔法をの準備は整っていたのだ。


「水の力よ 今ここに……『アクアフォース』!」


 勢い良くは水の剣が放たれた。剣戟だけではない、魔法すら美しく舞う。


 だがその姿は、敵からすれば恐怖以外のなにものでもないだろう。


「ふふ 雑魚ばかり大量じゃ釣がいもないわね?」


 全力など微塵も出してはいない。これでは冗談でも不合格など言えないなと、リンはシオンを眺めていた。


「よそ見してんじゃねえぞ黒いの! 仲間が強いからってお前が強いわけじゃねえんだからよ!」


「全くもってその通りだ 俺も見習わないとな」


「なるべく近づくなよ! 何を隠し持ってるかわかんねえからよ!」


「あいにくだが今回は素手で戦わせてもらおうと思う 実験も兼ねて好きなだけ撃ってこい」


「はぁ!? こいつ頭おかしいぜ!」


「お望み通りこのバカを蜂の巣にするぞ!」


「これで死んだら本当に馬鹿だがな」


 拳を握る。その手の中には土の賢者の石が握られていた。


 雷迅の時と同様に体が硬化しているはず。それがどれだけの強度なのか確かめなくてはならない。


(もっとも痛みはあったからな……どれだけ我慢できるものか)


「撃ててめえら! 全弾撃ち尽くせ!」


 一斉にリン目掛けて銃弾が発射される。躱す事もできずに弾丸の殆ど全てが命中する。


 目の前で腕を交差させて守りの態勢に入るリンを見て、海賊は嗤った。


「こいつ本物の馬鹿だぜ! あんなので守れるわけねえだろが!」


「まずは一人! 残りの二人も倒しに行くぞ!」


 あれだけの弾幕を放ったのだ。生きているはずがない。


「なあ待てよ……おかしくねえか?」


「あぁ? 何がよ?」


「だってあいつ……」


 一人の海賊が指を指す。立ち尽くすリンを見てみるとおかしなことがあった。


「なんで……アイツ血が出てない・・・・・んだ!?」


「あれだけ撃ったのにか!?」


「じゃあアイツまだ!?」


「ご名答」


 交差させた腕を下ろし、リンはそう答えた。


「まあ予想通りか それにしてもこの身体もそうだがこの服もすごいな 傷ひとつない」


 パラパラとリンの身体に撃たれた弾が落ちてくる。弾は貫通することなく役目を終えていた。


「……今度はこっちの番だ 痛かった分は返してやる」


「ふん! 大方その服防弾チョッキにでもなってるんだろうが剣ならどうだ!」


 一人の海賊がカットラスを持ち出して斬りかかる。


 狙いは首だ。そこであれば服の恩恵を受けていないと考えたのだろ。


「死ね!」


 まるで岩を切りつけたなのような音を立て、カットラスは見るも無残に折れてしまった。


 そして思いっきり切り掛かった海賊の腕はビリビリと痺れてしまう。


「かっ硬え……」


「今殺す気だったな?」


「……へ?」


「今俺を殺す気・・・・・だったんだな?」


「だっだったらどうなんだよ!?」


「だったら……遠慮なく俺もお前を殺す気でぶっ潰す」


 

 海賊の顔を掴みそのまま床に叩きつける。


 床にはヒビが入る。それほどまでに強く叩きつけたのだ。


「アッ……グゥア……!?」


「まずは一人」


「テメェやりやがったな!」


 リンの頭に弾丸が放たれ命中する。本来であれば即死だろう、それは当たり前のことだ。


 だがそんな当たり前は、粉々に消え失せる。


「次は……お前だ」


 リンは狙いを定め歩み寄る。それに対して再び弾幕が貼られるがそんなもの関係なかった。


(痛みは感じるが怪我はしてない……この程度だと死ねないってことか)


「たっ助け……」


 近くにあったテーブルを鷲掴みにすると、片手で持ち上げる。思っていた以上にリンの身体は『普通』ではなくなっていた。


 鷲掴みにされたテーブルを狙い定めた海賊に頭から叩きつける。手加減などする気は無かった。


「お前らが殺す気で来るなら俺も殺す気で相手してやる……容赦すると思うなよ?」


「化け物かよ……」


「ひっ怯むな! 数はまだ上なんだ!」


「一つ聞くが弾の方は大丈夫か?」


「あっ!?」


 すでに何度も乱射した銃の弾倉には再装填しなくては撃つことができなくなっていた。


「リロードだ! 早くしろ!」


「その間に何人潰せるかな?」


 再びテーブルを持ち上げる。そのテーブルはさっきよりも大きなものだ。


「はっ早く……」


「潰れろ」


 思いっきりテーブルを、まるでフリスビーを投げるかのように海賊達に投げつける。


 逃げ遅れた海賊は壁にめり込むように埋まった。


「四人か 思ったよりも少ないな」


 この状況では、もはやどちらが暴れているのかわからなくなっていた。

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