第45話 再会

「馬車?」


「はい! 港からカザネに着くのに徒歩では少々時間がかかってしまいます ですので助けていただいたせめてもの御礼ということでご用意させてはくれませんか?」


 船の中の海賊を倒したことで、無事に港までつくことができるそうだ。


 お礼はいらないと言ったのだが、せめて何かしたいということで船長が部屋へとやって来たのだ。


「いいんじゃない? 実際歩くとなると距離あるよ」


「まあそういうことなら有り難く頂くとするか」


「有難うございます! 是非ともそうさせてください!」


 それにここで断ると、おそらくまた別の方法で恩を返そうとしてくるだろう。


 それならここで受け取ってしまったほうが面倒じゃあない、そう判断して行為を受け取ることにした。


「それでは港に着いたらすぐ出発できるように連絡しておきます!」


「ありがとうございます」


 船長は部屋を出て行く。これでやっと休める。戦いの疲れを早く癒したかった。


「俺は寝る 何かあったら起こしてくれ」


「ん? アナタはいかないの?」


「どこにだ?」


「パーティーホールですよ オレ達のためにいつも以上に豪華にするそうです!」


「あ〜……パスだ そういうのは苦手だ」


 悪い話ではないのだが、そういうのは苦手だ。特に金持ちへの社交辞令なんて心得ていない。


 そんなところではかえって疲れるだけだ。


「まっそれなら休んでなさいな 私たちは楽しんでくるよ」


「オレ様は行くぜ! 美味いもんいっぱいあるだろうしな!」


「いつでも来てくださいね〜!」


 そう言うとレイ達は部屋を出て行く。そうは言われても行く気にはになりそうにない。


「……やっぱり一人の方が落ち着くな」


 ベッドの上に横たわり、目をつぶる。戦いの後、何事もなく無事だったのはこれが初めてだ。いつもはならば満身創痍の状態でなんとか戦っていた。


(いつもこう上手くいくとは思わないが……たまにはいいもんだな)


 今回の勝利に満足する。実際、今回の勝利はとても有意義なものだった。


(ガイアの力で俺の身体は下手な防弾チョッキより硬いことがわかった それに筋力も普通じゃ考えられない力だ あれはもしかしてフレアか?)


 身体を硬化させる土の賢者の石『ガイアペイン』と、闘争本能を高めることがでたのが火の賢者の石『フレアディスペア』の力。


 それだけでなく、おそらくだが筋力強化も含まれていたのだろう。


(まあ今までうまくやれてたのも不思議じゃないしそれが妥当か はじめにこの二つが手に入ってよかった)


 単純ながら闘争本能と筋力、そして耐久性を高められたのはこの旅において、そして何より戦いには必要不可欠だ。


(他の石は何があるのかわからないがそこは手に入れてからか……だが良いことばかりじゃないのわかってる そこは覚悟しておかなくちゃな)


 実際にただ強くなれていたわけじゃなく、最初はまるで自分ではないかのように感じたフレアディスペアと、二つ目のガイアペインは重過ぎて未だに剣を思うように振り回せず、使い物にならない。


(……最初から強ければ楽なんだがな)


 そんなうまい話はないのは理解しているがそう思わずにはいられない。これから先もっと敵は強くなっていくはずだ。


 そしてそのこと以上に、考えなくてはならないことがある。


(今理解できる範囲は何だ? こっちに来てからはわからないことだらけだ)


 理解すること。それはこの世界のことなのだが、あまりにもわからないことだらけすぎる。


 今だに自分がこの世界に迷い込んでしまった理由も、帰る方法もはっきりしていないのだから。


(理解しようとしても上手くまとまらない……何か意味があるのかそれともただの偶然で選ばれた……? だとすれば誰に? それとも本当に偶然か?)


 全く足りない情報で整理しようとしてみるが、検討もつかない。唯一手がかりになりそうなのが


「あの黒フードか……」


 この世界に来て初めて出会った人物。


 初めて会った時からそれはもう、うさんくささが凄かった黒フードだ。


「この世界で聖剣使いになって流されるままここまで来たが……何の情報もないならあいつに会うしかないのか」


 頭を抱える。会いたくはないがそれしか手がかりがないのだからしょうがない。


 だがそれも叶いそうにない。


「居場所どころか名前もわからないだから探しようがないな……」


 残念なようなホッとするような、複雑な気持ちでベッドの上で一人唸る。


「……外の空気でも吸いにいくか」


 無駄に広い部屋だと逆に落ち着かない。豪華な部屋なのはわかるが、庶民とっては心がくつろげないこの部屋を出ていく。


 廊下がある。何の変哲も無い部屋だが、それでもこの世界を知る判断材料にするしかなかった。


(見た感じ変わったとこは無い 元の世界でもこんな感じの船もあるだろう)


 見た目や材質を調べ元の世界との違いを探すが特に違いは感じられなかった。


(つまり技術力は一緒……いや 通信機の機能は少なくともこっちの方が上か なのに科学よりも魔法が発展してるのか?)


 この世界と元の世界との大きな違いは『魔法』の有無だろう。元の世界で魔法はおとぎ話の力だ、決して実在する力では無い。


(この世界の誰もが魔法を使えるのだろうか? 今度聞いてみるか……)


 色々と調べたり考え事をしながら歩いていると、いつの間にか外への道を歩いていたようだ。


「頭を冷やすか……」


 とうに日が暮れ、周りは夜の景色へと変わっていた。


 海独特の風を感じ、外の新鮮な空気を味わってみると気分は少し楽になる。


(元の世界はどうなってるんだろうな……同じ時間が流れてるのか? それとも浦島太郎見たいにもう何年も経ってるのか……)


 柵にもたれかかり再び考え事を始めるが、やはりまとめられない。


 星空を見上げてみる。


 諦めた方がいいのか? それとも帰る方がいいのか? 答えが出ない自分に苛立ちを感じ始めた自分を落ち着かせるにはちょうどよかった。


「星座のこと……調べるんだったな そうすれば元の世界と一緒の星空かわかったのに」


「一緒だと思うヨ 十二星座も有るぐらいだシ」


「!?」


 聞き覚えのある声、今一番会いたかった人物に再会した。


「お前は……」


「お久しぶりだネ 異世界からの迷い子 リ〜ンチャン?」


 不快で胸糞悪い、最低な再会だ。

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