第38話 真実

「なんだ……それは?」


「地下労働施設に男達を集めて働かせる その中から優秀な人材は外に出て結婚 子供が産まれたら出稼ぎに行く それがここアクアガーデンの昔からのやり方ってわけ」


 シオンに当たり前のように答えられるがとても気持ちのいいものではなかった。

それはまるで、男達が都合の良い家畜や奴隷のような・・・・・・・・・扱いを受けていると感じたからだ。


「……どうしたの?」


「いや お前らにとってはそれが普通だからな 仕方ない」


 心配そうにしながらシオンは試着に戻るため頭を引っ込める。


 文化の違いだ、そういうのがあってもおかしくはない。現に元の世界でも昔はよくある事だった。


 そもそもの世界が違うのだから価値観の違いだってあるはずだ。


「……お前らはそれでいいのか?」


 それでも聞かずにはいられなかった。その扱いで本当にいいのかと、他にやり方はないのかと。


「怖いのさ」


「なに?」


 その声は少し暗いものだった。


「そのやり方が他の国から見れば異端な事だなんてみんなわかってるよ」


「だったら……」


「けど 変わる事には必ず勇気がいる 今更変える事でこれから先どうなるか もしかしたら最悪なことが起きるかもしれない だから怖いんだ」


 理解していた。わざわざ言われなくても理解していたのだ。


 ただ変わるきっかけを、一歩踏み出す事が出来ないでいるだけなのだ。


「……悪かった 無責任な事言った」


「気にしない気にしない 本当のことだし そのせいでこの国のほとんどの人が男慣れしてないしね」


 試着室からいつもの声で返ってくる。まだ時間が掛かりそうだがとりあえず待つことにした。


「ねえ? この三着だったらどれがいいと思う?」


「その白の服でいいんじゃないのか」


「適当に選んでない?」


「選んでない」


「じゃあ選んだ理由は?」


「青い服はシオンの髪の色と同じで統一感があるが色合いが少しくどいせめて水色のほうが良い あと一つの赤い服はよく目立つが逆に言えば目立ちすぎる それなら白が一番無難だろ」


 しっかり考えて答えた。


「おっ思ってた以上に考えてた……すごく以外」


「姉に無理矢理付き合わされたから多少はな」


「へ〜姉がいるんだ? 他にはいないの?」


「あと一人妹がいる」


「妹さんは?」


「……ウザイな」


「え」


「ちっこくて人の部屋に勝手に入ってくるわりに何故かいつも俺が怒られてるな 似てるわけじゃないがなんというかあの王妃を見てると思い出す」


(もしかして王妃に当たりが強いのってそれのせいじゃ……)


 シオンはひょんなことから真実がわかってしまい、すごい理不尽な扱いを受ける王妃に同情する。


「今どうしてるだろうな……」


「やっぱり帰りたい? 元の世界に」


「この世界の住人でない以上 俺がここにいること自体が間違ってるだろ」


「それは答えとしてはズレてるよ」


「何?」


自分がどうしたいか・・・・・・・・・だよ 常識よりもこういうのは自分優先に考えた方が楽ってこと」


 楽になる。その選択肢でいいのかリンにはわからない。


 ただ一応考えてみることにした。


「……せめて一言言えたらな」


「一言『異世界に行って来ます』って?」


「頭おかしくなったと思われるな」


「違いないね」


 そう言ってシオンはクスクス笑った。そして試着室から現れたシオンの服装はリンの選んだものだった。


「どう?」


「少し子供っぽいがいいんじゃないか」


「自分で選んでおきながら?」


自分がどうしたいか・・・・・・・・・ なんだろ?」


「ハハハッ! そうだったね」


「それに……」


リンはシオンに近づきこう言う。


「好きなんだろ?」


「え?」


「最初に着てた服も選んだ服もフリフリがついてて子供っぽいが……それを選んだってことはそういうのが好きなんだろ? だったら自分の好きな服を着るのが一番じゃないのか?」


「……ふ〜ん?」


「何だ? 俺はまた間違った返しをしたのか?」


「別に〜 さあさあ次行こう! あっ店員さんこの服ください このまま着て行きますから」


「引っ張らなくてもちゃんとついてく」


「自分がこうしたいからしてるのよ」


 リンの手を引っ張り次の店へと向かう。

そのシオン足取りはとても軽やかなものだった。


 穏やかな一日を過ごした。疲れはしたが、気分転換にはなったかもしれない。


「お帰りアニキ! オレ置いてどこいってたんですか〜?」


 そして帰りを出迎えるレイ。今の今まで寝てたらしい。


「別にいつも一緒にいなきゃダメなわけじゃないだろう」


「だってだって!? オレとのデート約束は!? 昨日約束してたじゃないですか〜!」


「コイツどうにかしてくれよ……起きてからずっとアニキアニキってうるせえんだよ」


「悪かったなチビル」


 いつもチビルにはレイを押し付けてしまっているというか、面倒見てもらっているというか、チビルの面倒見がよくて本当に助かる。


「う〜! チビルばっかり……」


「次だ次 今度暇なときにでもすればいいだろう」


「約束ですよ!」


(そもそも寝なきゃ済んだ話なんじゃないのかってのは黙ってたほうがよさそうだな リンのためにも それにメンドイし)


「いや〜悪いね 今日は私がリンを借りたみたいになっちゃって」


「どういうことですかアニキ?」


「銃口を向けるのはやめてくれないか」


 このタイミングで余計な爆弾を投下してきたシオンのせいで、今この場に戦いの場で感じるような殺気を銃口と共にレイから向けられる。

その眼光はいくつもの死線をくぐり抜けてきた猛者のものだ。


「そっそうだレイ! 王妃がリンを呼んでたこと伝えなくちゃな! そうだろ!?」


 何というファインプレー、この場を切り抜く起死回生の切り札をチビルが出してくれた。


「そうでした 王妃が電気泥棒事件の褒美を出すとかで話があるそうです さあこの話は以上です 話の続きを聞かせてください」


「急いで王妃のもとに迎え! 絶対に待たせるな!」


 急いで王妃のもとに迎う。この場から逃げ出すために。


「あ〜! 終わったら絶対聞きますからねぇ!?」


 急いで王妃のもとへ向かう。


 この状況を切り抜けるために。


「よくぞ戻られた優月輪ゆうづきりん 待っていたぞ」


 この時ほど、この王妃に呼ばれたことを嬉しく思ったことはない。


「王妃を待たせるわけにはいきませんから」


((嘘つけ))


 シオンとチビルの心がシンクロした。この場に急いできたのは王妃のためではないからだ。


「ほう! いい心がけじゃのう やっと余の威光がわかったようじゃな」


「そういうわけで早く賢者の石を渡せ」


「わかっとらんではないか!」


「申し訳ございません王妃 リンにも事情があるのです」


「どういう事情じゃ!?」


「早く渡せよ」


 相変わらずリンの雑な態度に憤慨するが、意外にもすぐに落ち着いた。


「ふん! いいもん! お前たちとはこれで見納めじゃからな」


「これで三つ目の賢者の石か」


「やりましたねアニキ!」


「まだ問題ガイアの事もあるけどよかったなリン!」


 これで三つ目の賢者の石だ。これでまた問題も増えるが何とかするしかない。選択肢があるだけ良しとしよう。


「あ〜そのことなんじゃがな……」


 言いにくそうにしながら、王妃の口からとんでもない真実を言われた。


「騙してて悪いが……今ここに賢者の石アクアシュバリエはないんじゃ」


「「「……は?」」」


 聖剣使い御一行の心が一つになった。

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