第37話 観光?

「ん? リンじゃないか」


「シオン 今いいか?」


 退院から二日目がたった。今日も文字の練習をと思っていたが練習に付き合ったチビルと、何故か一緒におきていたレイは徹夜したため、今はダウンしていた。


 すでにこの世界で何度も寝ていたためか、リンは大して眠くなかった。


 なのでリフレッシュを兼ねて、アクアガーデンの文化がどういうものかをシオンに案内してもらいに、城の中にあるシオンの部屋まで会いに来たのだ。


「どうしたんだい? こっちも仕事にそろそろ復帰しようと思ってトレーニングでもしようと思ってたんだけどね」


 机には手入れが終わったであろう剣が置かれ、今は拳銃をを手入れをしながらそう言う。そういえばシオンはこの国の警備団長だったことを忘れていた。


「そうか なら他を当たる」


「いいよ話ぐらい それに他を当たるって言っても行くあてないでしょ?」


「まあそうだな」


 シオンは見た目は何だかんだタレ目気味で髪が長く、癖っ毛のためか何となくだらしない印象を受けるが、比較的サッパリしていて面倒見が良い。


 話していればすぐにわかる事だが、改めてシオンと話すととても話しやすい。そういうところが周りに評価され警備団長にもなれたのだろう。


「それで要件は何だい?」


「ああ 実は頼みがあってな」


「頼み? それはそれはこの国の英雄様に頼まれては断れないじゃないか」


「からかわないでくれ 俺はただ一緒に町に行かないかと思っただけだ」


「……へ?」


「いやだから一緒に……」


「ハアアアァァァ!?」


 突然素っ頓狂な声をあげたシオンは、勢いよくリンからはなれた。


 あまりにも突然だったため、呆気にとられて唖然とする。


「どっどうした? シオン」


「いやいや待て待て待て! からかってるのはそっちだろ!?」


「何だ何の話だ?」


「いいか!? 年頃の男女が二人で町にでかけるのはそれはデッデデデ……!」


「? そもそもシオンは何歳だ?」


「こっ今年で22だけど」


「年頃ではないんじゃないか?」


 さっきまで手入れされていた拳銃を頭目掛けて投げつけられた。


 回避することが出来たのは、今までの先頭の経験の賜物だろう。初めてそのことに感謝した。


「暴発したらどうする!?」


「手入れしてたんだから弾は抜いてるよ!」


「そもそも投げるな! 危ないだろうが!」


「その失礼な口を閉じるためだよ!」


 どうやら触れてはいけない事だったらしい。女性はデリケートだ、今度から慎重になろう。


「何が気に入らんのかは知らんが……付き合ってもらうぞ」


「つっ付き合う!? 何で私がそんな事を!?」


「お前が言ったろ『断れない』って」


「くっ!?」


 よほど不服だったのだろうギリッと噛み締め、キリッと睨みつけられた。


 だがもう知ったことではない。こうなれば意地でも連れて行こうと決意したのだから。


「それで? どこ行きたいの?」


 とりあえずプランを聞いてくるシオン。尋ねられるが返答に困る。


「まあ……適当にブラブラと」


「こういう時は男がプランを立てていると雑誌に書いていたんだが……間違いだったのかな?」


「何の本か知らんが見るのやめたらどうだ?」


 やっとシオンが観念したのはいいが、どこも行くところがない。そもそもインドア派のリンからすればこういう時どうするのか知らないのだ。


「シオンはどこか行きたいとことかないのか?」


「自分から誘っておいて……ハッ!? 私に合わせてあえてプランを立てなかったのか! そうだろ!?」


「すごいな 全然違う」


 シオンの調子はずっとこうだ。城を出る前にまず部屋を追い出され、しばらくすると身なりを整えて現れた。


 服装もいつもの警備団の服装でわなく、随分とまあ女の子といった服装でやって来た。


「服屋だ! 服屋に行ってみよう! リンもいつも同じコートってわけにも行かないだろ!?」


「一応洗濯はしてたんだが」


「あ してたの?」


「まあ替えがないしな これを着回すしかないだろう」


「だったら丁度いいじゃない? 行きましょ」


「まあ行くとこないしな」


「それよりさ ほら男はこう言う時なんか言うじゃないの?」


「ん?」


 そう言うと長めのスカートをフワフワさせる。ああなるほど、そう言うことかとリンは理解した。


「シオンその服」


「そうそう!」


「随分子供っぽいな」


「くたばれ唐変木」


 指摘したことはお気に召さなかったようだ。


「いやっそのう……ごめん」


「いいんだ これでシオンの気がすむなら……」


 忘れてはいけない事を忘れていた。ここアクアガーデンの地上に男がいない・・・・・事を。


「いやそうじゃないの すごい気まずい思いしてるとは思うけどそうじゃないの」


「じゃあ早くここを立ち去ろうか」


「いやこの下着可愛くて…….」


「知らん」


 男物の服などなかった。当たり前だ、需要がないのだから売るわけない。


 そんなところにずっといるのは男にとって拷問に近い。


「……着てみる?」


「少し前に言われた言葉で返してやる くたばれ」


「ほら外で待ってていいからさ」


「ここに残ることは譲らねえのか」


「そうだ! ここ終わったらカフェ行こう! 美味しいところがあるから!」


「だったらここに残らないように早く譲れ」


「あと三着ほど着てみたいから……」


 なんて女だ、讓る気がない。まるで無い。


 自分から誘っておいて何だが、こうなるとは思っていなかった。


「もういい 三着着てる間に質問に答えろ」


「え? いいの?」


「誘ったのは俺だ 最後まで責任はもつ」


「……へ〜?」


「何だ?」


「結構薄情なタイプかと思ってたんだけどそうでもないだね」


「じゃあな」


「はいはい答えますよ で? 何が聞きたいわけ?」


 シオンは試着室に入りながらそう答えるとリンは話を進める。


「俺が聞きたいのはこの国のことだ 何で男達を地下労働施設になんか送るんだ?」


「ああそんな事か」


 ガサガサと試着室から音がしだす。なんとも気まずい。


「決して差別しているわけじゃない 簡単に言えば女達が強い男を選ぶための施設とでも言おうか……それが『地下労働施設』 強い男を作り出すための昔からの伝統さ」


 試着室のカーテンから顔を出したシオンは、笑顔でそう答える。


 だが、リンにはそれが不気味に聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る