第39話 提案

「おいあの王妃吊るすか?」


「公開処刑ですねこれは……」


「これはフォローできねぇなおい?」


「待て待て待て!? 謝る! 謝るからまず話を聞くのじゃ!」


 こちらの怒りを察して、あたふたとしながら許しをこう王妃。


 いくらなんでも悪い冗談だ。一体何のために戦ったのかわからなくなってしまう。


「ここに水の賢者の石にして聖剣『アクアシュバリエ』は確かにあった! じゃがなそのうえっと……盗まれたのじゃ」


「盗まれただと?」


 何とも歯切れの悪い言い方をする王妃を睨みつける。


 ビクッと王妃は怯んでしまうがすぐに話し出した。


「お前たちが来るニ週間くらい前のこことだ! その時からもうここにはアクアシュバリエは無くなってしまった……ホントだぞ!?」


「シオンも知ってたのか?」


「え〜と……はい 知ってました」


「そうか……だからか」


「だから?」


「どういうことですかアニキ?」


「あっさりすぎたって話だよ」


 この国に来た時最初は不審人物として、警備団に見つかった。その時自分たちが聖剣使いだと話すとすぐに王妃のもとへ連れられた。


 だが、いくらなんでも簡単に通し過ぎである。顔が似てるからといって本物とは限らない。それこそ賢者の石を狙う『偽物』の可能性だってあるのだから。


 なのに通したのはすでに『賢者の石が無い』にもかかわらず、聖剣使いを名乗る人物が現れたという事は賢者の石を盗まれた事を知らない、本物だと判断されたというわけだ。


「お見事 盗んだらなさっさとこの国を出ればいいんだから残ってる意味なんてないしね だから本物だって思ったわけさ」


「だったら何で言わなかったんだよ! 『ここにアクアシュバリエはない』って」


「電気泥棒に我々も困っていた だから利用させてもらったたわけ」


「余も騙すべきかどうか迷っていたのだがなぁ……お主らを鍛えるのに丁度良いとバトラーがのう」


(あのジジィ……!)


「バトラーのヤロウ……」


 最後の決め手はバトラーによるものだった。まさかここにきてバトラーが関わるとは思っても見なかった。


「まあなんじゃ! 終わり良ければすべて良しというじゃろ! それで全て水に流すというわけには……」


「なるわけねえだろうが」


「そりゃそうだろう」


「終わりが良くねえから不満が出てるんだよオレ様たちは」


「ぐぬぬ……!」


 相変わらずボロクソに言われるが、今回ばかりは自分に非があるせいで王妃は何も言い返せずにいた。


「無論褒美はとられせるつもりなのだ! あくまで渡せないのは『アクアシュバリエリエ』であってそれ以外の褒美はとらせるよ」


「……一番欲しかったんだがな」


「うぐ!?」


「それぐらいにしてやってくれリン これでも本当に何かしてやりたいのだと悩んでらしたのだから」


「これでもは余計じゃ」


「とはいえ……欲しいものと言われてもな」


「やっぱ金っすかね?」


「金ならこの魔法のカードがあるしな……」


「今回だけは使う事を許す」


「じゃあ何が欲しいんじゃ? して欲しいことでも良いぞ?」


「王様やめるとか?」


「酷すぎはせんか!?」


「して欲しいことか…….」


 物でなければして欲しいこと。強いて言えばというものが思い浮かばなかった。


 褒美に対しても特別期待もしていなかったから、いざ言われても何を貰えばいいのかわからなかった。


 ただ一つのことを除いて。


「……ならして欲しいことで一つ提案だ ダメならそれでも構わない」


い |言うてみるが良い」


「この国の地下労働施設 それの『地下労働施設の解体』が俺への褒美でどうだ?」


「……ほう?」


 王妃は今までと違う雰囲気を醸し出す。まるで別人のように、頬をついて見下しながらも相手をしっかり捉えて、試すかのようにリンを見つめる。


「その提案の理由を聞こうかの? 何の意味もなくお主が言う訳あるまいて」


「理由は簡単だ 『気に入らない』 それが答えだ」


「何がじゃ? このアクアガーデンにおる者たちは皆優秀な者しかおらん それはその地下労働施設があってのものじゃ」


「だとしてもだ そのやり方だとこの先持たないと思うぞ」


「どう言う意味か?」


 王妃は顔をしかめる。この国の昔からのしきたりを真っ向から否定されているだけでなく、その上これから先『やっていけない』と言う言葉に引っかかっているのだ。


「雷迅との戦闘でわかったはずだ どんなに質を求めたところでそれより上の実力を持った奴には通用しないことが」


「……それで?」


「今回の魔王軍が雷迅一人だったからなんとかなったが今のやり方だと軍勢で来られたらひとたまりもない だったら今は一人でも多くの人材が必要になってくるだろう」


「その根拠はなんじゃ? お主のような新参者に今後の戦況が理解できていると?」


「戦いにおいてはまだ素人さ……だがな 俺は少し前まで太陽都市『サンサイド』にいたんだ」


 その時のことは忘れはしない。この世界に来たばかりの頃、ここが『異世界』なのだと理解した初めての経験。


 目にしたのは、魔王軍との『戦争』だった。


「あんたも知らないわけじゃないだろ? あの戦いは魔王軍が手を引いたからなんとかなったが……あのまま続いていたら間違いなく陥落していた」


「そうじゃろうな」


「はっきり言ってこの国はサンサイドの部隊には足元にも及ばない そのサンサイドがあの結果だったんだ 間違いなく今来られたらすぐに落とされる」


「それで?」


「それを踏まえての『地下労働施設の解体』だ 風習とか仕来りだかは捨てて『アクアガーデンの防衛部隊強化』にまわすべきだ」


「……」


 王妃は答えない。この場に居る全員に緊張感が漂う。今までの真面目な話に誰も口を挟めなかった。


 過去を守るか前に進むか、それは今この瞬間に全て王妃によって決められる。


「……ククッ」


 最初に王妃の口から漏れ出したものは笑いだった。


「クハッハッハッハッハッハッハッハ! 良い! 実に良いぞ優月輪ゆうづきりん! 気に入ってしまったではないか!」


 突然大笑いをする王妃に全員が唖然とする。その大笑いは、先ほどまでの緊張感を全て吹き飛ばしてしまうものだった。


「なかなかの観察眼じゃった 全くもってその通りじゃ 我々の部隊を強化するには人手不足であったのは間違いあるまい 質にこだわりすぎていたのも認めねばな」


「なら……」


「良いぞ その考えを受け入れよう『地下労働施設の解体』 今これより宣言しようではないか!」


 玉座から立ち上がり、王妃は高らかに宣言する。この国が前に進むための一歩を


「アクアガーデン女王『ピヴワ』が今此処に正式に宣言する! 地下労働施の解体を! 男達と手を取り魔王軍との戦いに備えると!」


 この宣言はすぐに国中に知れ渡たる事となった。

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