第15話 まさか

「ああ……?」


 確かに直撃した。だがエドは生きていた・・・・・・・・


 最も黒焦げになっているため再起不能なのだが。


悪鬼アッキの時は消し飛んだがな……」


 確実に鬼より脆いであろう『人間』に使ったのだが、こうして原型を留めている。勢いも同じようにやったはずだった。


 理由はすぐにわかった。


「目の前が……赤い?」


 目から血が流れていた。


 すでに身体は限界だったのだ。ここに来るまでにすでにいくつも技を使っていた。そのぶんの負担が今こうして返ってきた。


「ゴホッゴホッ!?」


 吐血する。目が霞み、手が震えだす。


 これがエドを倒す前であれば間違いなくやられていただろう。その点は不幸中の幸いだ。


「調子に乗った結果か……」


「キャプテン!? テメェやりやがったな!」


 船内にいたグールの奴らが船から出て来る。最悪のタイミングだ。上げて落とされた気分だ。


「……お前らもこうなりたくなければ今すぐ退け 二度は言わん」


 最後の賭けにハッタリをかましてみる。この見た目では乗ってくれる可能性は薄いが統率者がいない今、やらないよりもマシだろう。


「なっ何言ってやがる! テメェもうボロボロじゃねえか!」


「この血が誰のかわかるか? 何で他の奴らがここにいないと思う? それに・・には傷ひとつないぞ」


 嘘は言っていない。だが、それを大袈裟に言ってみればご覧の通りハッタリになる。あとはこれに引っかかってくれればいい。


「ちっちくしょー……」


「大チャンスだぞ ここで退けば命が助かるんだ 俺も長くは持たんからな」


 最後は脅す。我慢できないという意味ではなく、自身の身体の話だ。これをいい感じに誤解してくれればいい。


「ボートを用意するぞ! 逃げられる奴は全員だ! キャプテンはオレが連れていく」


「いい判断だ 出世するぞ」


 助かった。心の底からそう思う。ここで向かって来たらやられていた。


 海賊達が逃げて行く。船は置いて行くようだ。これだけやったらしばらくは来ないはずだ。


「お〜いリン! 見てたぜ見てたぜ! 流石だな!」


「チビルか……あと任せたぞ」


 そう言うとリンは倒れた。限界を迎えた身体は強制的に休ませた。


 心配する声が聞こえてくるがそれもよく聞こえなかった。


 薄れゆく意識の中で、もう『目覚めないかもしれない』と、不意にその言葉が脳裏によぎった。


(……嫌だ)

 

 自分が目覚めない事では無い。その言葉が嫌いだったのだ。






「…-ここは?」


 なんとか逃げのびたエドは、広い洞窟の中で目を覚ます。

 そこは前に適当な島に作った隠れ家だった。


 身体中が熱い。それは火傷のあとのせいだった。周りの部下達が看病してくれたようだ。


「全く情け無いねぇ オレ様が……」


「気づいたかイ? エドキャプテン」


「!? アンタ確か!?」


「魔王三銃士の一人 『アイン』だヨ〜 ずいぶん無様にやられたネ?」


 その発言に海賊達は武器を構え敵意をむき出しにした。一人の海賊はアインに怒りをぶつける。


「テメェ! キャプテンに対してなんだその口の聞き方は!?」


 海賊の一人が殴りかかる。だがその一撃はアインに当たることはなかった。


「ング!?ンー! ンー!」


「黙っていろ」


 殴りかかった海賊が影のようなものにとらわれてしまう。

 アインが指を鳴らすと、次第にその影はその海賊の体を締め上げ、最後には身体が弾け飛んだ。


 その光景を見て、海賊達は誰も口出しすることができなくなった。


「アリャ? 力加減ミスっちゃっタ」


「……何の用で来やがった」


 部下を失った怒りを必死に抑え、アインに聞く。


「いや〜ネ? 負け犬の顔見るのって楽しいじゃなイ? ボロボロの身体を見るのも面白いシ」


「だったら失せろ 見ての通りこっちは怪我人なんでね アンタからの依頼ももうこりごりだ」


「情け無イ情け無イ 天下の海賊グールがガキ一人に根をあげるなんてネ」


「どうとでも言いやがれ 俺らにゃプライドなんてないでね」


「それじゃあ最後にお見舞いの品を」


 するとアインは注射器らしきものを取り出し、それをエド突き刺した。


「グアッ!? テメェなにを!?」


「グールはグールらしくしてな」


 注射器の中身を入れ終えると、アインは闇の中に消えて行った。


 部下達がエドに近づく。


「キャプテン大丈夫ですか!?」


「なにされたんですか!?」


「チカ……ヨルナ……チカヨルナ……」


「キャプテン?」


「グオオオオオオォォォォ!」


 突如獣のような雄叫びが響き渡る。






「またか……」


 そんな事を知る由無いリンが、目を覚ます。


 一度見た天井を再び見ることになった。


「確か……グールと」


 思い出した。グールの奴らと戦っていたのだ。そしてこの手でエドを……。


「殺そうとしてた……よな」


 自分でも驚いている。簡単に人間・・を殺そうとしていたことに。


 自分の歯止めが効かなくなって来ている。絶対におかしい、殺すつもりなどなかったのに。


「やっぱりこいつか……」


 手には賢者の石が握られている。この状態ならなんともないが、石を聖剣にした時は違う。


「もしかしてこいつに乗っ取られてるのか……?」


 その可能性はある。何せ聖剣のことはまだよくわかっていないのだ。


 このまま使い続けるのはまずい、そう思った。


「とりあえず風呂場で考えよう」


 身体中ベトベトだった。日が沈み、周りが静かなことを考えるとおそらく全員寝ているのだろう。今なら一人風呂のはずだ。


「怪我はないみたいだし シミなきゃいいんだが」


 体を起こすと額からタオルが落ちてきた。


 誰かが看病してくれたのだろうか、机には氷の入った洗面器が置かれていた。


「誰かわからんが礼を言わなきゃな」


 その気持ちを胸に一旦風呂場に向かう。とりあえず汗を流したい。誰が看病してくれたのかはアレクにでも聞けば教えてくれるだろう。


(ん? なんだ一人風呂じゃなかったのか)


 風呂場には明かりが灯っていた。脱衣所の服を見て見ると見慣れた服だった。


(なんだアレクか なるべく人が良かったがしょうがない聞きたいこともあるしちょうどいい)


 服を脱ぎ、銭湯のように広い風呂場に入る。案の定そこにはアレクがいた。


「ヘ?」


「アレク ちょっと聞きたいことがあるん……だが?」


 そこにいたのは紛れもなくアレクだった。


 だがそこに移った光景は思ってたのとは違っていた。


「え〜と……あれ?」


 理解が追いつかない。


「キャ……」


 海賊船ナイトメアの風呂場から『女性』の悲鳴が上がった。

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