第6話 賢者の力
「ウグアアアァァ! 腕が! 腕がああアァァ!」
本来あるべき右腕が無い。
消し飛ばされている。あまりの痛みで
「そんなに
この場に突如起きた爆炎は、
起こした張本人は、さっきまで虫の息だった『
「一体……何をしたぁ!?」
「──なんだ? まだわからないのか?」
余裕の笑みを浮かべ、答え合わせと言わんばかりに『剣』を突き出す。
リンの手には剣のようにして炎が渦巻いている。
それは
さっきまで持っていた仕込み刀の杖とも、まったく違う別の『剣』が握られていたのだ。
黄金に輝く刀身。凄まじい勢いで炎を燃え上がらせて、リンに力を与えている。
これこそ
「まさか──それは!?」
「いくぞ 鬼退治の時間だ」
瞳は赤く染まり、さっきまでの傷口からも炎が上がっている。
炎を纏わせ、剣を構えるその姿は、先程までの『
「バトラー様! 城に
司令室では魔王軍との戦いに対して、今出来る最善の指示を出す為に皆が一丸となって状況を確認していた。
「すぐに第三後衛部隊の一部を城へ向かわせよ!」
「援軍からの連絡! 魔王軍の別働隊にいく手を阻まれているそうです!」
「それでは援軍には期待できないですね……」
前線ではバトラーの指揮によってなんとか持ちこたえているが、どれだけ持つかわからない。
そのうえ援軍も期待できないとなると打つ手がない。
(こんな時にリン様がいて下されば……)
弱音は心の中だけで吐く。口に出してしまう訳にはいかないからだ。
「城からの連絡! ただいま陛下が
「なんですと!?」
そしてよりにもよって最悪の展開が報告される。
「これならば安心ですね! バトラー様!」
「一旦私は城に戻ります! 指揮は貴方に任せましたよ!」
「ええぇ!?」
これはマズイ。あのリン様は
戦いの経験のない一般人なのだ。交戦中ということは
そう思い急いで向かったのだが、たどり着いた場所での光景は、その想像と違っていた。
「これは……一体!?」
確かに
だがそれは"リンの方が一方的"に、あの鬼を圧倒していたのだ。
あちこちから爆炎が上がっている。それは全てリンの起こしたものだった。
「あれは……あの時渡しておいた『
半信半疑であった。
顔や名前が同じなら、もしかしたら賢者の石の力を使えるかもしれない。
仕込み刀に仕込んでおいた『赤い宝石』こそ、伝説の賢者の石。それに宿っている火の聖剣。
「
それがその聖剣の名前。相手に絶望の火を見せる。
その炎は人々に見せる『希望の火』であるが、敵対する者から見ればそれは『絶望の火』となる。
「どうした? さっきまでの威勢は?」
「にっ人間の分際で! 虫けらの分際で! 我らが
「その虫けらにここまでされるお前は──虫けら未満になるのか?」
「この人間風情がアアァァ!」
最初の余裕など燃え尽きた。あるのは目の前の敵を八つ裂きにするというただの『怒り』だった。
「鬼は鬼らしく地獄に逝け」
そう言うとリンは聖剣を天に向ける。
すると聖剣は、先程までとは比べ物にならない程の炎を纏いだす。
「この地でお前は──
「ホザクナアアァァ!!」
もはや理性は無く、本能のままに襲いかかる。右腕は無くなり、右目は抉られ、身体中火傷の跡が残っていた。
その姿に誇りはなく、ただ本能に赴くままだった。
「『
天に向けられていた聖剣を勢い良い叩きつける。
あの5メートルはあるであろうその巨体を、葬るほどの炎の塊は、まるで火の神のように荒々しく、その一撃は『太陽都市サンサイド』に希望を与え、『魔王軍』には絶望を与えるのだ。
そしてこの出来事は、すぐに司令室に伝わった。
「魔王軍の隊長である『
「そっそれは本当なんですか!?」
「はい! それに伴い魔王軍が撤退を始めています!」
司令室に歓声が上がる。しかも戦いにおいて高い誇りを持つあの
皆が口を揃えてこう言う。
「我々の勝利だ!」
魔王軍への勝利を皆が噛み締めてる。そして、リンのもとへ向かっいたバトラーは、リンの側はと駆け寄った。
「リン様!」
撤退を始める魔王軍。撤退に追い込んだ当の本人は、力を使い果たして眠っていた。
バトラーにはリンに聞かなくてはならないことが沢山ある。今の戦いのこと、聖剣のこと、聞かなくてはならない事は山ほどあるのだ。
「これは……!?」
先程までの身体に纏った炎は、元に戻ると共に傷だらけの体に戻る。
そして気づく。すでにいつ死んでもおかしくない身体だったのだと。
「……よくぞここまで戦ってくださった」
気を失ったリンを抱きかかえると、すぐに医療班の元に連れて行く。
聞くのは後にしよう。今は一刻も早く休ませてあげることが先決だと。
そしてバトラーは、ある思いを決意した。
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