第7話 目的

(ここは……?)


 見慣れない天井で目を覚ます。起きあがろうとすると身体中に激痛が走り、その痛みであの戦いのことを思い出す。


 意識はあった。自分の意思でやった。


 だがまるで、自分ではないかのような感覚だった。


「俺は……一体?」


「目を覚ましましたか」


 その声はバトラーのものだ。周りをよく見ると医療機器が置いてある。ということは医療室か何かなのだろう。


(この世界……機械なんてあったのか)


 今まで機械的なものを見ていなかったため、この世界には機械の概念がないものだとばかり思っていた。


 こんな事を考えられているという事はだいぶ落ち着いてきたのだろう。そう思えたら楽になってきた。


「もう三日もお目覚めになられなかったので一時はどうなるかと」


「三日も……」


「ですがお目覚めになられたのであればよかったか」


「こうして生きていると言うことは魔王軍は…….」


 この世界にいるのが夢でなければ、眠りにつく前の出来事は現実だ。目の前で起こった戦争も。あの『鬼』も。


「撤退しました 隊長である悪鬼アッキが倒されたことによって」


「あれは夢じゃなかったんだな……」


  実感の湧かない出来事だった。何故なら自分があんなデカブツを倒したなど、今でも信じられない。


「あなたの戦いぶりは我らが陛下『リン・ド・ヴルム』様のようでした」


「そんな名前だったのか!?」


 なんだか一番驚いた気がする。顔と名前が同じならフルネームも同じと思い込んでしまったいた。


 よくよく考えて見ればこの世界で『優月ユウヅキ リン』は違和感があるか。


「かつての『伝説戦争』を終わらせた大英雄としてこの太陽都市サンサイドを治める『竜王』と呼ばれておりました」


「伝説戦争……竜王……」


 まだ謎が多いのにまた新たな謎が増えてしまった。そろそろ情報整理をしたかったというのに、まだまだ先の話になりそうだ。


「竜王と呼ばれた所以は『九つの聖剣』です」


「聖剣?」


「リン様が悪鬼アッキを倒した賢者の石の力でございます」


 覚えている。あの戦いで使えた炎は、ヘンテコな石が変化した剣から溢れ出していたものだ。


 まるで身体の一部かのように馴染む炎に。この世界に迷い込む前から、戦いに巻き込まれる前から扱えたかのよう感じるものだった。


「それが後八つもあるのか……」


「その場所をお教えしましょう」


 そう言うとバトラーは聖剣のありかを淡々と答える。


「この太陽都市サンサイドの他は 水の庭『アクアガーデン』風の都『カザネ』 砂漠大国『アレキサンドラ』氷の村『アイススポット』 雷の牢獄『トールプリズン』 木の国『ド・ワーフ』 光国家『ライトゲート』 そこに賢者の石があります」


 そこまで聞いた限りだとまだ八つ。あと一つ足りない。


「後一つは?」


「……竜王リン様が所持しております」


 九つの賢者の石に宿る聖剣。ここサンサイドの聖剣が火だったということは残る聖剣はまた別の力なのだろう。


「貴方様にお願いがあります」


「お願い?」


「賢者の石を集めてきてもらえませんか?」


 突然だった。むしろその力の事について、もっと聞かなくてはならない事があるというのに。


「──俺が集めなくちゃいけない理由はありますか?」


「賢者の石は竜王リン様でしか扱うことができなかったのです」


 過去形だった。実際に優月輪もう一人現れたのだから当然か。


「賢者の石はこの世界にある石の中でも魔力量はとてつもない物です もしかしたら元の世界へ帰る手助けになるかもしれません」


 確かに実際のところ、この世界でする事など全く決まっていない。


 それならば何か目的を持って行動して、この世界を旅をして何か情報を集めたほうがいいのかもしれない。


 だが、一つ疑問がある。


「なんでそれを俺に言うんですか? こっちのリンは生きているんでしょう?」


「……」


 バトラーは黙った。 二十年連絡がないと言っていた。便りがないのは元気な証拠というが、だからと言っても限度がある。


 ならば『賢者の石』を確実に・・・使える者は今ここにしかいない。


「本当は無関係な貴方に頼ってはいけないことは重々承知しております……ですが時は一刻を争います」


 魔王軍の事であると、あの戦いで一体何が起きているのかはもう知れ渡ってしまっているのだと言う。


「……何人死んだんですか?」


 一番聞きたかった事だ。一番聞きたくなかった事だ。


 だが関わってしまった以上、聞かなくてはならない事なのだ。


「敵兵討伐数二百七に対しこちら側の全部隊合わせ合計九百六十四人が犠牲になりました」


 これが現実だ。


 バトラーは平然と言っているように見えるが、よく見ると拳を震わせている。


 悔しいのだ。


 あれだけの部隊がいながら、敵兵に蹂躙されてしまった誇り高き騎士達のことを思うと、悔しくて悔しくてしょうがないのだ。


「ですからお願いです! どうか魔王軍を倒すために! この世界を救うためにお力をお貸しください!」


 バトラーは膝をつき頭を下げている。もう後がないこの国を見たくない、魔王軍を野放しにできない、そして魔王軍からこの世界を救いたい。それがバトラーの望みだった。


「……ついでですよ」


「え?」


 顔を上げるバトラーにたいし、恥ずかしくて直視できずに顔を背けたまま言う。


「この世界を救うのは……ついでですからね」


「あっありがとうございます! リン様!!」


 なんだか世界を救うという響きから、恥ずかして素直になれなかった。


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