太陽都市『サンサイド』
第2話 最初/最低の別れ
「──ッ【オイオイなんだってこんな英雄の紛い物を】」
(……なんだ?)
聞きなれない声で目を覚ます。どうやら仰向けに倒れているようだ。
体を起こそうとするが、全身が痛い。
麻痺しているのか、目が覚めたばかりなのかわからない。とにかく体が言うことを聞かない。
視界もぼやけていて見えないが、耳はなんとか機能している。
そして肝心の声ははっきりと聞こえているのだが、何を言っているのかわからない。
「──ッ【わざわざ別の世界のコイツを選んだのは理由があるはずだが……】」
やはり何を言っているのかわからない。少なくとも日本語ではないし、英語でもない。
(聞いたこともないな)
強いてわかった事と言えば、声の低さからおそらく男だという事しかわからない。
「──ッ【後で調べてみるかね まあどうせ破棄しただけと思うが】」
「あんた……言葉わかる……か?」
何もしないよりは良いと思いきって話しかけてみた。通じてくれることを祈るしかないと、藁にもすがる思いで尋ねる。
口が動くようになってくると身体が少しずつだが動かせるようになってきたのがわかる。どうやら一時的なものだったようだ。これならあと少しで起きられるだろう。
「──ッ【オヤオヤ〜? 目が覚めたのカナ〜?】」
やはり何を言っているのかわからないが、ぼやけていた視力が戻り始める。
視力が戻り始めたことでわかる事は、木々が生い茂ってる事からここは森の中、あるいは山の中か。
そしてわかりたくなかった事だが、どうにもコイツは黒いローブでフードで顔が見えない。
(怪しい)
人を見かけで判断したくはないが、絶対こいつは信用してはダメだと直感した。
「──ッ【あ〜悪い悪い 何言ってるかわかんないよナ〜】」
未だに通じない言葉でなにか言われたかと思えば、何やら得体の知れない木の実を無抵抗なのを良い事に、口へと無理やり押し込まれる。
(食べろと言うこと……か?)
あまり食べたくはないが、状況がわからない今仕方ない。幸い硬くはなかったので噛んで飲み込む事ができた。
「どうダ〜? 美味いカ〜?」
「……この世のものとは思えない」
まずかった。
何をしゃべっているのかが分かるようになった感動より、先に出た言葉は木の実への感想だ。
とてもじゃないがこの世の物とは思えない、という味の感想に、この感動は負けたのだ。
「贅沢言うなヨ」
「言葉が通じるようだが喋れたのか?」
「インや逆サ あんたがこっちの言葉を話せるようになったのサ」
「いまの殺人兵器でか?」
「察しが良いから説明が楽で助かるヨ」
殺人兵器は否定しないようだ。
それほどまでにまずいのを知っていて食べさせたのは気に入らないが、さっきの木の実で話せるようになったという事なら素直に感謝しよう。
「まあこの世界の物を飲み込めばなんでも良いんだけどネ〜」
いますぐ感謝の気持ちを返して欲しい。
やはり見た目からして最低最悪なやつという判断は間違ってないようだ。
だか一つ、気になる言葉を聞いた。
「この世界? まるで俺が異世界にでも来たみたいな言い方だな 」
何とか動くようになってきた体を起こしながら、気になる言い方をしたことについて聞いてみる。
「よくできましタ」
わざとらしく大きな拍手をする。
嘘だ。そんなことがある訳ない。
からかってるだけだそうに違いない、そんな根も葉もない話を信じろと言うのか?
「からかうならもっとマシなことを言ってくれ」
「ここはお前のいた世界とは異なる世界 俺はこの世界のことを
何も間違った事は言っていないと、黒いローブ姿の男は言う。
そう言った黒いローブの男の言葉は今までのふざけた態度と違い、驚くほど冷たいものだった。
「
態度が変わった事にも驚くが、それ以上に理解できない内容に質問するしかない。
いくらなんでも馬鹿げた話だと。
「そのままの意味だ お前は次元の穴に吸い込まれたはずだ」
意味がわからなかった。
だが、吸い込まれたと言う言葉にリンは心当たりがある。
「……それが本当だとして何故俺が吸い込まれた? どうしたら帰れる」
「それは俺も知りたい」
どう言う意味だ? この男も吸い込まれたと言うことなのだろうか?
「一体何故お前は来た? 何か特別な力があるのか? それともその顔だけか?」
「言ってる意味が一つもわからない だいたいなんだ顔だけってのは?」
「答えろ」
そう言うと突然首を掴まれ、後ろの木に叩きつけられる。
首を絞める力は普通の人間とは思えない程の力だった。
「ガッ……ハッ!?」
「答えろ」
無茶を言うな。
あんたのせいで話せないんだ。
いいから手を離せ。
一発ぶん殴る。
頭の中では言葉が出るが声に出せない。意識が飛びそうになる。
だが、黒コートの男は何かに気づいたのか顔をリンの顔に近づける。
「お前は……? そうか──そう言うことか!」
そう言うとさっきまでビクともしなかった手の力を緩め、リンを解放する。
「ゴホッ! ゴホッ……!」
「お前は"反対だった"のか……!」
「意味が……わからん」
一発ぶん殴ってやりたいが、その気力はすでに失われていた。
それにここまで力差があるのなら簡単にねじ伏せられていただろう。ある意味助かったのかも知れない。
「お前はわからなくていい! いやむしろ無知のままでいろ! その方が都合がいい!」
何がおかしいのか、人を小馬鹿にしたような「HAHAHA!」と高らかに笑う。その笑い方が非常に腹ただしい。
「……今すぐあんたを殺してやりたい」
「そうされたいのは山々だが今は遠慮させてもらう その代わり……お前にいいことを教えてやろう」
そう言うと、黒コートの男はリンから見て左の方向を指差す。
「そこをまっすぐ行くと出口だ──な〜に行けばわかる」
「信用できんがな」
「だが行くしかない 信用するしか選択肢はない」
実際その通りだった。
右も左も分からないならどこに行っても同じだろう。運や勘に頼るのはさすがに無謀すぎる。
こいつは、それを知っていて教えたのだ。
「悪趣味だな」
「十人十色と言うだろう〜?」
ぶん殴りたい。こいつに限ってははそんなこと絶対言ってはいけない。
気力も戻ってきたので一度ぶん殴ろうと殴りかかるが、それを難なく躱すと軽々と5メートルはあるであろう木の枝まで跳躍して見せた。
「降りろ猿野郎」
「猿に失礼だろウ?」
「いきなり喋り方戻すんじゃねよ」
だいぶ慣れてきたのかこいつは何が出来ても不思議ではないと思えてあまり驚かなかった。
「最後に一つ教えてやる さっき行った道をすすめば街が見えるはずだ まずはその街の城に迎えばいい お前を手厚く歓迎してくれるはずだ」
「その理由は?」
「──"英雄顔"だから」
やはり意味がわからない。
「こちらから一つだけ質問させナ お前の名前ハ?」
「……
「リン……
「何がだ?」
「顔と一緒の意味サ」
その意味もわからないのだが。
「そうかい黒ピエロ 世話されてやったぜ」
話しててもらちがあかない。十分に話も聞けただろう。
参考になったかは別としてだが。
「ならそろそろお暇させてもらいますヨ 次会う時が楽しみダ」
そう言うと黒コートの男は闇のなかえ消えて行く。
黒コートが消えた後、さよならの挨拶代りに右手の中指を立てて見送り、リンは唯一の道を進み出す。
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