第3話 人違い

「本当に着いたな」


 黒コートの男に言われた通の道を進んでみると確かに街が見えた。


 街に囲まれた西洋風の城もみえる。

 その光景は、まるで中世ヨーロッパ の時代に来たのかと錯覚させる。


 さらに言うならかなりの巨大都市で、一つの王国だと言われても不思議ではない。


(九割九分嘘だと思ったんだがな)


 ある意味街のイメージとはかけ離れていたので、今も騙された気もしないでもない。


 信用するしかなかったとはいえ、実際どんなとんでもない道かと思えば、その点は拍子抜だった。


 だがこの光景を見ても未だに信用ができない。


 最初にあった奴が説得力があればよかったのだが。

 完全に不審者な上に暴行まで加えられたのなら仕方ないだろう。


「とりあえず進むしかないか」


 何かのドッキリや、アトラクションの可能性だってまだある。そっちの方がまだ個人的には説得力があるだろう。


 異世界説は取り敢えず他の人に出会うまで保留にして、大きく聳え立つ城を目指すことにした。


 進んだ先には如何にもと言った門が構えている。


 どうやらこの門を抜けられなければ街にすら入れないらしい。


 それに門の前にいる二人は門番か。


 騎士の鎧に大きな槍、あれで侵入者を防ぐのだろう。あの槍に突かれればひとたまりもない。


 この状況で正面からいくのは無謀だろ。


「……当たって砕けろだ」


 だがあえて進むことにした。ここで悩んでいても時間が過ぎるだけだ。


 それなら堂々としていた方がまだマシだろう。


 いきなり問答無用で襲いかかってくることはないはずだ。


「……? 待たれよ!」


「何の用を持って我らが『サンサイド』の門に近付く!」


 リンの存在に気づき、門番は槍を交差させ行く手を阻む。この巨大都市の名前は『サンサイド』と言うらしい。


 その大きさは近くで見ると圧巻の一言だ。おまけに騎士達の事もあって、後ずさりしてしまいそうになる。


「あ〜怪しいものではないんだが」


 だがここは踏ん張る。両手を挙げ敵意がないことを表しているが、自分でもさすがに怪しいと思うがこれしか思いつかなかった。


リン様・・・!?」


「戻られたのですか!?」


「……ん?」


 予想外の反応が返って来た。この騎士達は俺の事を知っているようだ。


 だが、いきなり様付けというのは何だか抵抗がある。


「知っているのなら話が早い けどその様ってのはやめてくれないか?」


「「もっ申し訳ございません! 国王陛下!」」


 国王陛下にレベルアップしてしまった。


 どうやらこの騎士達は俺を国王陛下と間違えているらしい。


「では早速国中に知らせてまいります!」


「いや できれば内密に……」


「なるほど!魔王軍のことに関しての緊急会議に戻られたと言うことですね! ではすぐに馬車を用意します!」


「バトラー様もお喜びになられますよ! 何せこの二十年間ずっと陛下の代わりを勤めていたのですから!」


「話を聞いて欲しいんだが……」


 どうしてこの世界の人は人の話を聞かないのだろうか。このまま誤解を解かなかったら、おそらくは話がややこしくなる。


 結局無理矢理馬車に押し込まれ城に運ばれる。


 その中ではやれ『英雄』だの『伝説』だのなんだの褒め称えられる。


(……やめてくれ)


 そんなはなしききたくない。


 おれはそんなやつじゃないんだ。






「リン様! お久しぶりでございます! この"『バトラー』……主人無きこの城を二十年! 守り通す事ができました!」


「ああ それはすごいな」


「勿体無いお言葉!」


 いい加減疲れた。ここに来てからろくに休めていない上、精神的にも疲れてくる。


 バトラーと名乗るこの執事服の爺さんに無理矢理握手をされるが、もはやされるがままの状態でも御構い無しにブンブンと上下に動かす。


 だいたい騎士達もこの執事も二十年と言っている。いくら顔が似ていたとしても今ではいい歳したおっさんの年齢になっているはずだ。


 それでも間違えると言うことはよっぽど若作りがうまいということか。


「リン様が旅に出て九十年……帰ることはもともと少なかったですがついに二十年音沙汰無しは皆心配しておりましたぞ」


「ジジィじゃねーか!」


 流石にもう余裕がなくなってくる。休ませて欲しい。こいつらの目は節穴なのか。


「おや? どうしました? ひどくお疲れのようですが」


「できればあんたの持ってる杖が欲しいくらいだよ」


「それはいけません! 早速お部屋にお連れします!」


 そう言うと長い長い廊下へ案内される。歩く力もなくなってきた体力には堪えるがもう少しの辛抱だ。


 部屋に向かう途中、ある肖像画が目に入った。


 その姿は鎧とコートを合わせたような見た目。

 白をベースに青いラインのその服装は爽やかなイメージを与える。


 だがそれ以上に目に入ったのは『顔』だった。


「俺……?」


 その顔は自分でも驚く程にそっくりだった。


 今までしたこともない格好に、そしてあの微笑むような笑顔。


 とてもじゃないが直視できず、肖像画から目をそらす。


「……キモイな」


「どうしました?」


「なんでも」


 なるほど。たしかに間違えるのは無理もない。


 だが、この肖像画の男が例え同じ年齢だとしても九十年経っているのなら話は別だ。


「……なんで間違える?」


 答えの出ないまま、ついに部屋までたどり着いた。

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