こどくなシード 異世界転移者の帰還道

藤原 司

異世界転移は唐突に

第1話 プロローグ


「あっリン君」


「先輩……」


「図書委員の仕事は終わったの?」


「終わりましたよ 今帰るところです」


「気をつけて帰って……って貴方には余計なお世話だったかしら?」


「どう言う意味ですか? それ」


 意味深な発言にムッとした表情で先輩に尋ねた。


「いつかわかると思うわ」


 そんな後輩に対して不敵な笑みとともに口元に指を当ててフフフッとウィンクしてみせる。


 何かを隠す先輩。だがさほど興味が湧かなかった青年は、どうでもよさそうに大きなため息を吐く。


「それじゃあ理解できるように努力しときますのでそれではまた」


「ええ また明日」


 そう言われると青年は階段を降りていく。タイミングを計っていたのか、少しすると教室から生徒達が出できた。


「先輩……行きました?」


「ええ 行ったわよ」


「よかった〜ワタシあの人苦手なんですよ〜」


「あら? 私は好きよ」


「え〜マジっすか〜? あの人暗いじゃないですか〜」


「暗いんじゃなくて慣れた人じゃないとあまり話さないだけなのよ」


「でもいつも不機嫌そうな顔してるし〜」


 指で自らの眉間にわざとらしく皺を寄せて真似して見せる。それを見てキャハハと笑いながら、似てる似てないとジャッジが下されていた。


「あ〜あとそれになんか壁作って人と距離置こうとしてんですよね〜えっと確か名前は…」


「『優月ユウヅキ リン』でしょ〜あんた同じクラスなんだから覚えときなさいよ」


「まっまだ学校始まって三カ月だしセーフセーフ!」


「ハイハイ それじゃあ先輩! 私たちこれで失礼しますね」


 そう言うと後輩達は帰り出す。どこどこのショップのアクセサリーが可愛いやらあそこの店のクレープが美味しい…… etc.。


 寄り道先について談義する。そんな後輩達を見送るために軽く手を振った後、校門側の窓を見て見ると先ほどの話題になった人物『優月 輪』が帰ろうとする姿が見える。


 窓に手を当て、懐かしむように。


「いつか……ね」


 その言葉を、笑みを浮かべ囁いていた。






「おっリンじゃん! ちょうど俺も帰るところだから一緒に帰ろうぜ」


 リンを呼び止める声。いつもの事だとため息を吐く。


「どうせ断っても帰る方角は一緒だろが」


「まあまあ! 細かいことは気にすんなよ」


 門を出たすぐ先で待っていたのはリンの数少ない友人。

 いつもならこの時間には帰っているのだが、部活でもあったのだろうかと思うが口には出さない。


「なあなぁ〜今度の休み遊園地行こうぜ!」


「男二人でデート? 新手の罰ゲームか何かか?」


「バッカお前! それ口実に先輩誘ってこいよ 仲良いんだろ?」


 先程の先輩は、実は校内ではとても有名だった。


 才色兼備で文武両道、おまけに面倒見良しと学年問わず慕う者は多いのだ。


 完璧すぎてお近づきになる事に(特に男は)躊躇してしまうのだが、何故かその先輩はリンのことをよく気にかけていた。


「お前それが本音だろ」


「あれ? バレた?」


「バレバレだ」


「でもお前休みの日にはいつも予定入れてんだろ? いつもなにして……ハッ!? まさかデート!?」


「そうだといいな」


 はぐらかすリンを見て焦りを隠せない友。


「頼むぞリン! オレ達の友情は永遠なんだからな!」


 彼女いない同盟をいつの間にか勝手に結成され、そんな同盟と一緒に誓われる友情にリンは呆れてしまう。


「その程度で無くなる友情なら捨てても構わんぞ」


 くだらない会話、そんな事を話してるいつも通りの平和な学園生活、明日明後日の話しが当たり前のようにできるこの日常。


 その『当たり前』と言う幸せを、ちゃんとリンは理解している。


 だから、リンは自分を許せなかった・・・・・・・・・。そんな資格は俺にはないのにと、もっと他にこの幸せを知らなくちゃいけない人がいるのにと。


「じゃあな」


「おう! 約束忘れんなよ!」


「守って欲しいなら契約書でももってこい」


 いつもの十字路でいつも通り別れる。あいつは人の話を聞かないからまた後で念を押しておこうと心に決める。


(──今日も行こう)


 心の中で『いつもの場所』に行くと決めた。ほぼ毎日行くため、休日の予定は埋まっている。どこに行くかは一部の人しか知らないだろう。


 そして、ここまでの『日常』は『非日常』によって壊された。


(なんだ……あれは?)


 いつもの場所に行くために、先へ進もうとしたのだが、目の前に大きな『穴』があらわれた。


 穴が壁や地面にあるのはまだわかる。だが異常なのはその穴は目の前、それはなにもない・・・・・空間に出現したのだ。


 その見た目はまるでブラックホールのように真っ黒であり、そのまま穴に吸い込まれてしまいそうだった。


 そして、それは比喩ではなかったとすぐにわかる。


(なっなんだ……!? 身体が吸い寄せられて!?)


 身体が穴に向かって吸い込まれて行く。引き寄せる力が強すぎるうえに、何か電柱でもあれば掴まれたのだろうが、あいにく周りにそういったものは無い。


 もっとも、あったところで長くは持たないだろう。


(もう……ダメだ)


 いくら考えても良い案が思いつかない。吸い込まれるのは時間の問題だろう。そう思うと昔のことがフェードバックしてくる。


(ああ……コレが走馬灯ってやつか)


 諦めが肝心と言う言葉が頭をよぎる。その方が楽だと囁かれた気がして、身を委ねることにした。


(俺が死んでも……どうでも良いか)


 諦めて吸い込まれた瞬間、優月輪は『この』世界から消えた。






 自分が嫌いだ。


 自分が好きだと言う人は少ないと思うが、自分は人一倍嫌っていると思う。


 人は『十人十色』と言うが、それが良い事だとは決まっていない。むしろ、その中で差が生まれ差別や偏見をしてしまう。


 この言葉の意味を理解しているのならそんなもの生まれないはずだ。


  人は『隣の芝生は青い』と言うが、思った事はない。何故ならよく見えたものが、自分にとって本当に活かせるかは別の話だからだ。


 人と比べて自分を嫌う。そう言う事では無い。


 いつも考えてしまう。自分はなぜ──。


 そんな想いは、今"目の前の事を解決してから"考えよう。

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