第21話 平行線



ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side こう ――



例の手紙の差出人と会い、一応話はつけれたと、少し軽くなった足取りで校舎に戻ると直後に声を掛けられた。


「――若槻わかつき こう


見覚えのない男子生徒。

この人も私のフルネーム知ってる。

しかも呼び捨て(イラ)。


「あんた、若槻わかつき こうだろ? 俺は二年の杵島きじま 準一じゅんいちって言うんだけど」

「はい?」


いきなり声を掛けてきて、人の事を “ あんた ” ?


「あんたについて面白い噂聞いたんだけど」


醸し出すのも凄く嫌な雰囲気なんだけど。


「はぁ、噂、ですか」

「何のことかわからねー?」


さっきも手紙の子、阿野あの君もそれらしい事を言ってたっけ。


「私が女性と付き合ってるって噂ですか?」

「そうそれ。なんだ知ってるんだ? なら話しは早い。今日すごい噂になってるよ?」

「そうですか」

「でー、その事なんだけど・・・・・・」

「事実です」

「どうす――っはぁ!? マジか! キモ!!」


なぜ同じ学校に通っているだけの見ず知らずに人に個人的な事でキモイと言われられなければならないんだろう?

・・・・・・同性同士というのは、周りから見ればそんなにキモイのかな?

かといって、そんな他人の不快感に一々責任が発生するとは思えない。


「普通女同士で付き合うとか無いって!」

「他人の意見を聞く必要が何処に?」

「イ、イジメられたりするぞ? みんなに気持ち悪いって言われたり? 良いのかそうなっても?」

「その辺りは覚悟の上です」

「へー。でも、君だけじゃなく彼女の方はどうだろうね?」

「同じくです」

「ふーん、それはどうだろうねぇ?」


何かニヤニヤした含み笑いが気持ち悪い。


「君の彼女? って君といつもいる子だよな? あの子さっき女子生徒と口論してたよ? イジメなんじゃないの?」

「??」


私が呼び出しの場所に行く前、教室を出て直ぐなつは女子生徒に呼び止められて二人で話をすると言っていた。

その事?

て言うか、この先輩の言ってる人がなつだという保証も無いんだけど。

仮になつだとして、口論って、一体何が?

なつなら上手く切り抜けられると思うけど、そうじゃなかったとしても、いつどこで誰に見られてるか解らないって事か。

心配だから早く探しに行きたい。


「これからはこういう事もっと増えると思うんだけどなー」

「そうかもしれませんね」


早く話しを切り上げたいんだけど。


「そんな目に合うぐらいなら早めに別れた方が良いって! 折角顔カワイイのに」

「その気はありません」

「だーかーらー! 女同士なんて気持ち悪いっつってんだよっ」


と、吐き捨てる様に言われた。


「貴方が不快だからと言う理由で私たちが別れる筋合いはありません」

「うるせーな。折角カワイイ顔してんのに勿体ねーって言ってんだよ。とんだ変態だったとはな」


確かに正常じゃないかもしれないけど、変態とまで言われると流石にキツい。

悔しい。


「貴方に何の関係が?」

「俺はあんたが好きだったのに、そのあんたが女が好きとかいう変態だった。俺はそのせいで酷く傷ついた。それだけで俺にはあんたに怒る権利がある」

「貴方と会った事はありませんよね? 友人はおろか知人ですらない貴方の懸想で『傷ついた』と言われても、こっちが困ります」


言いぶんが当たり屋並みだよ、どこのやからだよ。


「女同士なんて誰も認めてくれねーっての」

「母は認めてくれました」

「マジかよ! 頭オカシーんじゃねーの? あんたの母親、てかあんたら皆、か」


理解をしてくれた母に対して頭がおかしいと言われるとは思わなかった。

自分たちが何を言われても受け止める覚悟はあったけど、母にまで飛び火するんだ。

そう考えると『何が何でも心は揺るが無い』とまで言えない。

でも、今更後に引けない。

ごめんお母さん、私のせいで貴方の知らない所で貴方は頭がおかしいと言われてます。

一杯迷惑かけるかもしれない。


「母を広い理解がある人だと思ってますが、頭がおかしいと言うの失礼過ぎませんか?」

「はあ? 頭オカシーだろ? 普通じゃねーよ」

「普通って何ですか?」

「普通女は男を好きになるもんだろうが」

「性別で選べと?」

「まあそうだな」

「では、私は普通でなくて良いです」

「はあ? 何それ?」

「でも私の母に関して頭がおかしいと言うのは批評の様なものではなく、ただの中傷ですよね」

「事実だろうが」

「私の母の頭がおかしい・おかしくないの事実証明は出来ませんけど、貴方が私の母に対して使った『頭がおかしい』という言葉が中傷にあたるのが事実ですが?」

「はあ!?」

「このままでは話しは平行線だと思います。お互い住み分けて今後接触をしないのが良いと思います。そうすればほら不快じゃないですよね? それじゃーそう言う事で」

「ま、待てよ! 俺の話しはまだ終わってない! 別れろつってんだよ」

「お断りします」


もう。

お互いん意見が平行線だから話しを無理矢理切り上げようとしたのにしつこい!

そもそもこの先輩は何が言いたいんだろう?


「良いのか? あんた俺に交際してるって認めたよな? 俺が言い振らしても知らねーぞ?」

「私は彼女との交際を隠す気はありません。言い振らすなら好きにしてください。正し、事実と異なる事を言いふらす様であれば私も黙ってません」

「事実で気持ち悪がられるから十分だろう」

「だから、それは覚悟の上です、と言った筈です」

「女同士なんて誰も認めねーつってんだよ、どいつもこいつも」

「さっきから思ってたんですけど、先輩が私に話しかけた本題って何ですか?」

「はあ? だから、女同士何て付き合ってるような気持ち悪い事言い触らされたくな・・・・・・・・・きゃ・・別れて俺と付き合えって話だよ」


本題がモロ脅しでした。

女性同士の交際を否定されるのは解るけど、なんでそのネタで彼と付き合おう様強要されるのか解らない。

でも多分最初からそのつもりで私に話しかけたんだろうな。

私が簡単に交際を認めたり、噂になる事を嫌がらなかったから先輩としては思い通りになっていないだろう。

しかし、この先輩、話しが通じない気がするんだけど。

自分の求める答え以外受け入れないタイプか。

これ、話し終わらせられるのかな?

・・・・・・怖くなってきた。


「お断りします」

「(チッ)はあ。あんたはそれでいいかもしれないけど、相手はどうかな?」

「またそれですか?」

「現に女子にイジメられてるの見たんだって」

「さっきは口論している所を、と言いましたよね?」

「あ、いや、それ違ったわ。今思えばあれは一方的なイジメだった」


なつの件、この人の言い分途端に嘘くさくなってきたな。


「だから、彼女の為にも別れろつってんだよ」

「彼女の為を思って言ってくれてるようには見えないです」

「あんたは彼女の為を思わねーのかよ。彼女だってみんなに気持ち悪るがられるんだぞ」

「彼女も覚悟の上だと言いましたよね?」

「だから、それがあんたの意見であって本当に彼女がそう思ってるかどうかわかんねーだろうが」

「解りますよ」

「他人の考えなんてわかるわけねーだろ。わかるとか言ってる時点で自己チューなだけだ」

「考え? 思考の話しじゃなんですよ。気持ち、の話しです」

「はあ? んなもん同じじゃねーか。仮に、わかったって思ってても、傷つく結果は同じだろ。あ~あ、可哀相に。あんたの選択ミスのせいで、あんただけでなく彼女までみんなにキモイとか言われるんだろうな」


ゾクっとした。


確かに、それは怖い。

私のせいでなつがそんな目に合うなんて許せない。

最初に告白する前、何度もそれは考えた。

何度も告白を踏みとどまった。


あの当時、なつに私と同様の感情が無い事は解っていたから。

告白してもし仮に付き合える事になった時、周りには出来るだけ知られないようにしよう、そう思っていた。

前に付き合った時がそうだ。


結局お互いの気持ちをすり合わせなかったあの時の交際を私は終わらせてしまった。


色んな後悔をして、もう一度なつと付き合える様になった時、私の一番怖い物は何かを認識した。


なつが傷つく事。



それでも、









その苦しみは一人じゃない。

私も、なつも、一緒に背負うから。





その覚悟はお互い私の母の前で見せ合ったから解る。

でもこの先輩には同じ事を何度言っても話しが通じないな。

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