第20話 心配をよそに

ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side なつ ――



――やっぱりあったかラブレター!(こう宛ての)


さー帰ろうかって時に、こうが下駄箱に手紙が入っていると言う。


わたしは自分の靴を取り出し、なになに? どんなの? と、こうの方を向いた。


白い無地の横向き封筒。

この状態ではラブレターかただの要件を書いただけの手紙なのか判断がつかない。


「封筒には宛名も差出人も書かれてないね」

「へー、じゃあ誰からか解らないね。前にもあったりした?」

「いや初めてだよ」


こうに今までラブレター貰ってたかどうかの探り、一応さり気なく聞けたかな?

ふむふむ、今まで無かったのか。

良かったけど、こう程ともなれば貰ってても不思議じゃない。

なのに今まで無かったと言うのは不思議だ。

考えられるのは、わたし(邪魔者)がいつも一緒だった事かな。

それが数日前までわたしは(元)彼氏と行動を共にしていたのでこうはフリー行動となっていた。

それを好機と狙ってきたか、もしくは今日わたしがこうにまたべったりだったのを焦ったかのどちらかで行動を起こしたと推測する。


「ふーん。ラブレターかー」

「まだ解らないよ」

「流石こう。御モテになるね~」

「ラブレターとは限らないでしょってば」


そう否定するこうが中を確認するのを横から覗き込む。


『放課後、校庭の銀杏の木の下で待ってます。』


銀杏いちょうの木の下とか、恋愛ゲームの伝説の木の下パロッてるのかよ!

正にこれは告白の呼び出し!

こうは可愛いからあって当然だろう!

流石こう

だが許さん!


と、心内をこうに悟られないようになるべく明るく振る舞って、一応こうに聞いておく。


「行くの?」

「行かない」


即答!

流石こう

でもこうだと、待たせてる相手に悪いから、とも言いそうだったから少し心配だった。

行かないならそれに越した事はないね。

宛名も差出名も書かれてないし流石に気持ち悪いよね。

さーさー、帰りましょ。



って、手紙の呼び出し無視したけど、そうもいかなかった。

翌日、学校に登校するとこうの机の中にまた手紙が。


しつこいなー!


今回も特に名前は書かれておらず、差出人不明。

字から見て男子みたいだけど、断言は出来ない。


それで昼休みの食事中、なぜか混ざってる友寧ゆうねも交えて、手紙の件を相談された。

私は当然、私が直接会ってナシ話しを付ける! 

って、主張した。

友寧ゆうねは離れた所で見守れと言ってくる。

いやいや、何があるか解らないし、直接相手と会うにしても、それとは立ち位置が逆ではありませんか?

私が相手を退治・・・・・・じゃなく相手と対峙して、こうが離れた所で見守る、これで行こう?


こうに笑顔で却下されました。

まあ確かにこう自身で対峙するのが筋だろうけど。

心配だな。

こうは律儀な上に優しいから言い包められなければ良いけど。

その辺はわたしがガッツリ阻止せねば。



放課後、いよいよ対決の時だ。

じゃあ、待ち合わせ場所に行こうかってこうと教室を出た時に呼び止められた。

何故かわたしを。


「すみません。神楽坂かぐらざかさん、ちょっと二人で話したい事があるんですけど」


てか、誰か知らない女子だし、わたしに何の話しがあるって言うんだ?

大体今からこうと用事が。

いや、正確には用事があるのはこうだけなんだけど。

一人で行かせたくないからね?


出来れば後に回したい・・・・・・んだけど、こうが、話があるみたいだし聞いてあげたら? って顔してる。

見知らぬ女子を心配してないで自分の心配して?

この人『二人で』とか言ってるんだよ、わたしが行ったらこうが一人になるじゃないか。

嫌なんですけど。


「あの、だめですか?」


と、こうをチラチラ見る女子。

あれ?

わたしに話があるんだよね?


こいつ、こう狙いか?

わたしと争う為に呼び出す気か?

おのれ、受けて立たねば!


「実は・・・、若槻わかつきさんにも関係ある話しで・・・」


こいつが小さい声でコソっと言ってきた。

こうには聞かせたくないのか?

これは一応どんな事か聞いておく必要がありそうだ。

話しによってはどんな手を使ってもこうを守らねば!


「いや、良いよ。こうごめん。ちょっと待ってて」


わたしはこうに『絶対一人で行くなよ』と眼だけで訴えて話しかけてきた女子と場所を移動する。


まあ人に聞かれずに話せる所という事で屋上へ続くドアの手前まで階段を上る。

うちの学校の棟の階段は、屋上まで行ける様に繋がっているけど、当然普段は防犯云々で鍵が開いてない。

最上階から屋上までの階段と踊り場と屋上のドア前は、基本的に普段人は来ないのでそこになった。


「それで何の話?」

「あの、その前に、自己紹介させてください。あたしの事知りませんよね?」


性急過ぎたか。


「うん知らないね。じゃあ、わたしの事は知ってるみたいだけど一応。一年の神楽坂かぐらざか なつです」

「あたしは一年F組の中島なかしま 夢彩みさって言います。よろしくお願いします」

「宜しくお願いします」


何を宜しくしろと?


「それで? 話って何かな?」

「実は、今日噂聞いちゃったんです」

「ふーん。どんな噂?」

神楽坂かぐらざかさんと若槻わかつきさんとの仲が怪しいって」

「へー。それで?」

「でも神楽坂かぐらざかさんて男子と付き合ってますよね? 同じクラスの」


え?

この子なんでそんなこと知ってんの?

私が男子と付き合ってるとか、同じクラスの子だとかを。

正確には3日前に別れたんだけど。

そこまでは知らなかったみたいだけど、今日はわたしがこうとベタベタした事が早速噂になってるのか。

それでこうに集る虫があぶり出されたのならやった甲斐があったってもんだ。


 うん。


「それが何?」

「え? 普通にヤバくないですか?」

「何が?」

「だって浮気ですよね?」

「どうかなー」

「それとも二人はそんな仲じゃないと?」

「 “そんな仲” って?」

「恋人・・・・・・のような関係、とか」

「ふーん」


敢えて話を濁したけどやっぱりわたしとこうの関係か。

わたしが彼氏と別れた事は知らないのかな?

なら敢えて情報を与える必要は無いよね。


「で、どうなんですか?」

「だったらどうなの?」

「いやいやいや! さっき言いましたよね!? 浮気じゃないですか! ヤバいですって!」

「もしそうだとして君となんの関係があるの?」

「えー、心配しているんじゃないですかー」

「なんで?」

「そりゃあ・・・・・・」

「何?」

「ああ、もう! ここまで言ったんだから気付いてくださいよ! あたし神楽坂かぐらざかさんの事が好きなんです!」

「はぁ?」


わたしの事が好き?

こうじゃなくて?

なんだ、じゃーこう狙いじゃなかったのか、良かった良かった。

いやまだ安心しちゃいけない。

こう狙いで幼馴染のわたしに近づく作戦かもしれない。

だいたい、なんでわたしが好きとかいう話しになってんだ?


「わたしを好き?」

「はい。実は入学早々、神楽坂かぐらざかさんに一目ぼれしちゃったんです。それからは目で追うようになっちゃって、性格も明るくて運動神経が良くてどんどん好きになっていったんです」

「へー」


へー、としか言えないわたしは薄情だろうか。

知らない人にそんな事言われても嬉しくも無ければなんの感動もない。


「勿論あたしは女です。女が女を好きになるなんておかしいじゃいですか。だからあたしは告白とかする気はなかったんです」

「なのに今になって告白されたんだけど?」

「だって、神楽坂かぐらざかさん、男子と付き合ったから諦めてたのに、今日になって幼馴染の若槻わかつきさんと怪しい仲になってるって噂が! それがもし本当なら神楽坂かぐらざかさんはどっちもイケルタイプって事じゃないですか! それならあたしにだってチャンスがあると思ったんです!」


そんなチャンスねーよ。


「違うよ。わたしは “どっちもいけるタイプ” なんかじゃない」

「じゃあ若槻わかつきさんとの噂は所詮噂だと?」

「いいや? わたしはこうと付き合ってる」

「は?」

「君が聞いてきたんでしょ」

「え? ま、まじですか? え? うそ」

「いや事実だけど」

「えっと、じゃあ浮気ですよね?」

「違うよ?」


あ。


こうと付き合ってる事認めちゃった。

これだと彼氏と別れた事言わないと、わたしが浮気してる云々はともかく、こうの誠実さが問われてしまう。


「は?」

「だって彼氏とは別れたから」

「え・・・・・・」

「だから浮気じゃない」


仕方ないから情報をバラしとこう。


「で、でも、いや、じゃあ女性の方専門って事ですか?」

「それも違う」

「ノーマルって事ですか? 女性の若槻わかつきさんと付き合っていながら?」

「うーん、わたしは “どっちもいけるタイプ” じゃなく、“こうしかいけないタイプ” なんだよ。こう以外、男性でも女性でも誰だろうとダメなの。でもまあ好きになった相手のこうは女だから、それで言えば、わたしはこう(女性)限定のレズビアンでもあるのかな? こう限定でね?」


えーっと、名前が出てこない・・・・・・、そうだ中島なかしまさんだ。

中島なかしまさんは口を半開きで鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている。


君の入る余地はない!



さて、結構長く話したような気がする。

こうが気になるからここらでおいとましたいな。


ん?

スマホにメッセージが。


差出人:こう「待ったけどまだかかるみたいだし、先行くね」


 いや待ってこう!!

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