一方通行の想いの果てに

第10話 追い風は敵か味方か

ㅤㅤㅤㅤㅤ――　Side　捺（なつ）美（み）　――

「――ただいまー」

「おかえりー」

夕飯の支度中の母が返答する。

「母さん、今日香（こう）子（こ）の家に泊まるかも。いいよね？」

「向こうが良いなら良いけど、　“かも”　って何？　香（こう）子（こ）ちゃんと上手く行ってないの？」

「え？　寧ろ上手く行ってるけど。なんで付き合い出したの知ってるの？」

「え？」

「え？」

「え？　香（こう）子（こ）ちゃんと付き合ってるの？　・・・・・・それは知らなかった。そう意味で言ったんじゃなかったんだけど」

「あー・・・・・・あーもう！　墓穴掘ったー！」

「嘘何？　香（こう）子（こ）ちゃんと本当に付き合ってるの？　そこんとこ詳しく！！」

墓穴掘ったー！

てかこの母はなんで嬉しそうにwktk（ワクテカ）しながら聞いてくるんだ！

「う、うん。今日から付き合う事になった」

本当は一か月前も少しの間付き合ってたんだけど。

「やったー！！　ついの香（こう）子（こ）ちゃんがうちの子に！！」

「なんでだよ！！　ならないって！」

「え？　なんないの？　単なる遊びなの？」

「違うけど！」

「真面目な付き合いなんでしょ？　それとも別れる事前提なの？」

「違うけどさー、なんで香（こう）子（こ）がうちの子になるんだよ」

「それじゃー捺（なつ）美（み）が嫁に行くパターン？」

「よっ、嫁とか、そ、そういうんじゃないだろ！？　・・・・・・それに法律上同性と結婚できないし」

ごにょごにょと語尾が弱まる。

「てか母さん、香（こう）子（こ）の事超好きだよね」

「香（こう）子（こ）ちゃん凄く可愛いんだから！」

「知ってるけど！　あ、いや」

「ふーん？」

ニヤニヤしてこっち見ないで。

「やー私はずっと香（こう）子（こ）ちゃんみたいな娘が欲しかったんだよねー」

「わたし（実の娘）の立場！」

「そりゃ親の欲目であんたは可愛いけど、違うの！　可愛さが！　男の子みたいなあんたと違ってちゃんと女の子な香（こう）子（こ）が断然！　可愛い！！　容姿もだけど、家事だって出来るしこの間くれたお菓子なんてもうお店レベルだったし！　もうね！　兎に角うちの子にしたい！！」

冗談なのか本気なのか、多分９割本気だろう。　

「何この親」

「焼き餅やかない」

「焼いてねーよ！」

「で、こんな娘でも香（こう）子（こ）ちゃんを落としたと？」

「　“こんな”　は余計だけど、後、　“落とした”　って言い方もあれだけど、まあ、その、そうです」

「よくやった！　ああ、香（こう）子（こ）ちゃんから『お義母さん』って呼ばれる日がついに・・・・・・」

「ならないから！」

「ならないの！？」

「寧ろなんでなると思ったの！」　

「もう我が娘（こ）ながら不甲斐ないなー！　今すぐ押し掛けて行って香（こう）子（こ）ちゃんを嫁に貰って来なさい！！」

「な！　そんなの出来る訳ないだろ！？」

「へたれー！」

「そういうことじゃないって！　それにわたしらまだ高校生！　まだ子供だから！」

「　“それに”　？　ニヤニヤしながら帰ってきて？　付き合いだした子の家に泊まるって？　何もしないの？　その説得力ない顔で？　それでまだ子供だと言い張れるの？」

わたしニヤニヤしながら帰ってきたのか恥ずかしい。

てか下心がバレバレ！

あーもう恥ずかしい！！

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ≫≫≫≫≫≫

夕食時もwktkしながら詳しく聞いてこようとする母を無難な回答で逃げて、さっさと風呂に入って香（こう）子（こ）の家に行った。

呼び鈴を鳴らしても反応が無い。

香（こう）子（こ）も香（こう）子（こ）の母もいる筈なんだけど。

部屋の明かりはついてるし。

まあ、何かあった時の為に香（こう）子（こ）母からは合鍵を受け取っている。

それを使おう。

「お邪魔しまーす」

鍵を開け、声をかけながら玄関に入り、施錠するもその間に返事なし。

リビングに入ると、リビングの三人掛けソファーで寝ている香（こう）子（こ）を発見。

寝落ちしてて返答が無かったんだ。

近づいて寝顔を覗き込む。

クッションを抱えながら寝ている。

何この可愛い生き物。

お風呂に入った後らしく、リンスの香りと香（こう）子（こ）の香りがする。

思わずキスしそうになるのをグッと堪えた。

唇までギリッギリだったけど。

寝込みを襲うのはまずいだろう。

「いらっしゃい」

不意に後ろから声がした。

慌てて振り返れば香（こう）子（こ）母がそこにいた。

「あ、こ、こんばんは。お邪魔してます」

「はい今晩は」

返事がしどろもどろになる。

ついさっきしそうになったことの後ろめたさが半端ない。

「おや？　香（こう）子（こ）寝ちゃってたんだ。チャイム鳴ってたから見に来たんだけど、ごめんねー、出なくて」

在宅業の香（こう）子（こ）母は日頃から部屋に引き籠ってる。

仕事に集中するとチャイムもよく聞き逃す。

いや、敢えてシカトのが多いかな？

「イエダイジョウブデス」

「まあ、ゆっくりしてってよ。香（こう）子（こ）起こしたら？」

「あ、いえ。今日泊まってって良いですか？」

「別に良いけど」

「ありがとうございます。なら香（こう）子（こ）はもう少し寝かしときます」

「所で、香（こう）子（こ）に聞いたんだけど、君ら付き合ってるって」

「っ、はい。付き合ってます」

香（こう）子（こ）も話したんだ。

「で、さっきもキスしようとしたと・・・・・・」

「うっ」

バレてる。

「ふーん。本当にそう言う事したいんだ」

「え？」

「キス」

「あ、・・・・・・はい」

顔が赤くなるのが解る。

恥ずかしい。

「彼氏さんにはそうならなかったと」

「はい」

「ふーん。香（こう）子（こ）のが魅力的だったと？」

「は、はい」

うう、羞恥プレイか。

「まあ、選ばれた娘の親としては誇らしいんだけど、同性ってのがネックだね」

「そ、うですね・・・・・・」

「孫の顔見れないし。世間体ってあるし？　やっぱり異性と結婚してないと色々と、さ？　あ、香（こう）子（こ）には男性と見合いさせて、結婚させて子を作らせる。でもその男性もお互い割り切った関係にしてー、で、香（こう）子（こ）も捺（なつ）美（み）ちゃんとは愛人として関係続けるー、ってのはどう？」

「どう？　って、そんなの嫌です！　香（こう）子（こ）を他の奴に触らせたくない！」

つい大声をあげてしまった。

香（こう）子（こ）がびくっとして起きた。

「あ、捺（なつ）美（み）いらっしゃい。ごめん寝てた」

「いやそれは別にいいよ」

「あれ？　お母さん？」

「おはよう香（こう）子（こ）。まだ夜だけど」

香（こう）子（こ）がまた肩をびくっとさせた。

香（こう）子（こ）でも香（こう）子（こ）母は怖いらしい。

いや自分の母だからこそかも。

「今捺（なつ）美（み）ちゃんと話してたんだよねー」

「え」

「香（こう）子（こ）には将来子を産んで欲しいし、男性と結婚させたいって話。お見合いか何かで、お互い割り切って愛人OKにすれば捺（なつ）美（み）ちゃんと付き合ったままでいられて、その男性とは婚姻と子を作るだけの関係で暮らすー的なー、ね？」

「絶対嫌です！　香（こう）子（こ）を他人に抱かせるなんて」

「私も絶対嫌！」

「ふー・・・・・・」

「てか、お母さん、不倫はダメみたいな事言ってたよね！？」

そうなの？

そりゃそうか。

じゃあ何で愛人云々の話が？

「本気じゃないから気にすんな」

「は？」

「え？　不倫は許容って事？」

「そっちじゃねーよ」

「どっちですか！」

「そっちも何も他に何が！？」

はてなを浮かべる私たち二人をよそに、苦笑してた香（こう）子（こ）母が顔を急に引き締め、凄く厳格な顔で話をつづけた。

「君たちが好き合ってるってのは解った。親らしい事してこなかった私が言うのもなんだけど、ただこれだけは言わせて貰う。ただでさえ世間は同性同士の恋愛には厳しい。今の法律じゃ結婚だって出来ない。これからいくらでもそれ等を身に染みて解るだろう。その時になって別れるとかどうとか聞きたくない。だから今ここで覚悟を決めろ。捺（なつ）美（み）ちゃんは香（こう）子（こ）を泣かせたら承知しない。香（こう）子（こ）も捺（なつ）美（み）ちゃん泣かせたら張っ倒す」

「「はい！！」」

わたしと香（こう）子（こ）二人が即答する。

・・・・・・覚悟、か。

「わたしは、結婚が法律上できなくても、ずっと一緒にいたい。絶対香（こう）子（こ）を悲しませたりしない！　一生守り抜く！」

わたしの覚悟、というか素直な気持ち、思った事。

「私も。法律上の婚姻関係が無くても、生涯を共に生きていく事は事実上の結婚に等しいと思うから、捺（なつ）美（み）のずっとそばにいて、一生幸せにして見せる！　子供は出来ないけど・・・・・・」

香（こう）子（こ）も思った事を口にしている、　“思い”　というより　“想い”　？

素直に嬉しいけど、ここでニヤケ顔したらどんな揚げ足とられることか。

おちけつ、じゃなかった落ち着けわたし。

「わたしは法律上の婚姻関係や子供が全てじゃないと思う。二人で共に歩んでいくその過程が重要で、幸せなんだと思う」

「愛のない関係で子供を作ってもその方が子供にとっても可哀そうだと思う」

香（こう）子（こ）と共に想った事、思いを言葉にする。

感情の想いと、思考の思いを。

この思い香（こう）子（こ）母へ届け！

なんつって。

「まあ、そんな男性簡単に見つかんないだろうし、ブラフなんだけど」

は？　え？　ブラフ？

はったり？

・・・つまり、　“嘘”　・・・だと?

・・・・・・全てが嘘だと思えない。

どこまで本気なんだか・・・・・・本音というべきか？

めっちゃ怖い。

しかも内容のわりにずっと淡々と言ってるんだよね。

発想が極端な所も怖いし。

こういうと所、香（こう）子（こ）にちょっと似てる。

流石親子。

「二人の覚悟は解った。実質殆どプロポーズだったし」

「プロ・・・・・・」

「ゆ、誘導だったじゃん！」

「あ～、色んな意味で甘～い話だったわ～。胸やけしそ～」

香（こう）子（こ）母は、ウエっと言った表情をした。

二人でカッと赤くなった。

そうだ、お互い殆どプロポーズじゃん。

まあ、覚悟を決めるってなるとそうなるんだけど。

「その気持ちを忘れないように！」

香（こう）子（こ）母はわたしたちに釘をさして自室へ籠りに行った。

お互い恥ずかしさから顔を合わせられないけど、この機にさっきのプロポーズを完遂させよう。

「そ、それで香（こう）子（こ）」

「な、何？」

「一生一緒にいて欲しい！　・・・んだけど」

「あ、・・・・・・はい。私からもお願いします。生涯を共に歩んでください」

「はい！」

「ふふ」

「はは」

照れながら二人で笑い合った。

私たちは再確認を兼ねて実質プロポーズをし合った。

まだ高校一年生だとか、先なんてわからないとか、そんな事考えない。

自分の気持ちに自覚したのはつい昨日の事だけど、多分もっと前から好きだったし、香（こう）子（こ）にとっては漸くだろう。

漸く二人の気持ちが重なったんだ。

お互い支え合える。

お互い、喜びも悲しも色んなものを一人に背負わせないで、分け合ってく。

これからどれ程苦難が待ち構えていようと、二人で乗り越える。

わたしたち、二人でなら乗り越えられる――

って、なんかいい雰囲気で〆ようと思ってたけど、ある事に思い至った。

・・・・・・あれ？　

図らずも母の思い通りになってないか？

むむ、なんだか気に食わない。

実質義娘となったと知れば、あの母ならわたしを押しのけて香（こう）子（こ）を構い倒そうとするだろう。

香（こう）子（こ）はわたしのなのに！

まだイチャコラしてないのに！

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ〆

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤおい！↑

いやいやいや！　まだ終われねーからー！！

次回はわたしと香（こう）子（こ）とのイチャコラ回にしてやる！！

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つーことで、香（こう）子（こ）母と話しが終わった後。

「じゃあ、香（こう）子（こ）の部屋にでも行って何かだべろーよ」

「うん、そうしよう」

そして、私はさりげなく香（こう）子（こ）を香（こう）子（こ）の部屋へ――

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