第9話 選んだ道を前へ

ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side こう ――



――なつと付き合う事になった。



玄関の戸を閉めたら自然と涙が流れた。


これは嬉し涙、いや感動の涙。


今度こそ夢じゃない。



なつからのキスは、唇を合わせるだけのキスで、味など感じるはずがないのに凄く甘く感じた。



夕飯を作らないと。

在宅業のデスクワークで部屋に籠る母の代わりに家事をするのは私の役目だ。

洗面所に行って手洗いのうがいの後、冷たい水で顔を洗い、浮かれた気持ちを引き締める。

今から包丁と火を使うからね。


夕飯の支度を終えて母に声をかける。

一緒に食事をした後、席を立つ母を呼び止めた。

この機会になつの事を報告する。


「あ、待ってお母さん」

「ん? 何?」

「あの、なつの事なんだけど・・・・・・」

「ああ、昨日も来てたね。でも暫くぶりじゃないか? 喧嘩でもしてたかー?」

「え、・・・・・・いや、違うくて、来てなかったのは、その、なつ彼氏出来たから・・・・・・」

「へー、もうそんなお年頃かー。相手どんな子?」

「あの、それなんだけど、今日別れた」

「ありゃりゃ。そっか。あ、昨日来てたのってその相談?」

「まあ・・・・・・、そうなんだけど。それだけじゃなくて、その、私、なつと付き合う事になった」

「ふーん、ん? 付き合うって・・・・・・、彼氏彼女的な?」

「う、うん。どっちも彼女だけど」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


あ、これヤバいかも。

お母さんの顔が険しくなってきた。


「昨日どういう話したんだ?」

「えー・・・・・・と、なつが彼氏さんとキスして、その先も望まれたけど、なつはそんな気になれなくて? て事を相談されて、私は、好きならその先を望みたくなる、好きでないならそうならない、みたいな? 感じで答えて、なつは彼氏さんにはそうならないって言って、私は自分の気持ちが一番だと思うって答えて・・・・・・」


考えをまとめる前に話し出したので、内容も言葉もめちゃめちゃだ。

取り合えず思い出して古い方から話してく。


「そもそもなつは彼氏さんの事それ程好きじゃなかったらしい。私はてっきり好きだと思ってたんだけど。前に、私がなつに告白した時に、なつには恋愛感情解らないって言われたんだど付き合ってくれて、でもなつは、その前から彼の事好きだったみたいだから私は別れたんだけど、昨日、そうじゃなかったって言われた。なつは私と別れた後、彼氏さんに告白されて付き合ったけど、キス以上を望まれて、でもなつはしたいと思わないって話・・・・・・」


母無言。

すっごく怖い。


「それで気付いたって、なつは私にはキスしたいって、後、私の事が好きだ・・・・・・って言われた。で、なつは今日彼氏さんと別れて、私と付き合う事になった・・・・・・」

「・・・・・・こうなつちゃんの事好きなの?」

「うん、好き」

「それは恋愛的な意味で?」

「うん」

「前に告白して付き合って別れたって?」

「う・・・・・・うん」

「だけど、また付き合いだした、と?」

「・・・・・・うん」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~」


たっぷり溜めてからため息を吐かれた。


「まぁ、以前付き合ってた云々の報告がその時無かったのは良いとして」

「え!? 良いの??」

「今回は聞いたから思う所はあるけど不問にする。問題は今後、だわな。同性同士って今でも世間の風当たりが冷たいのは知ってるよな?」

「・・・うん」

「もしもの時はまたすぐ別れるの?」

「もう簡単に別れたりしない! 別れたくない!」

「はぁ~、小さい頃から仲良かったけどこうの感情がそこまでとか気付かなかったわ。なつちゃんも。恋愛感情で、キスやそれ以上の事をしたい、と」

「う、うん」

「~はあ」


何度ため息つくの。


こうはしっかりしている。ある程度の事は任せられるし、こうが自分で決めてやる事についても心配してこなかった。そりゃ犯罪云々に巻き込まれる心配は別だけどな?」

「はい」

「恋愛に障害は付きもんだ。不倫は別にして、片思いーとか、歳の差ーとか、遠距離ーとか、それらを乗り越えてってのがあるもんだけど、同性愛ってのは乗り越えるもんじゃねーぞ?」


怖い怖い怖い!

お母さんの口調がヤバい!


「うっ。・・・・・・好きになったのがなつで、同性で。でも自分の気持ちに気付いて、踏み込んでしまった以上は、私はその道を進むよ」

「まあ、気持ち的に乗り越えるもんはあるわな。心の折り合いってやつ? こうがそれを済ませてるのは解った。でも多分、今の社会じゃ少なくとも一生ついて回る壁だぞ」

「乗り越えるもんじゃなくても、ずっと続く場所でも、終わりがない道でも、それでもその道を前に進みたい、得たいものがそこに、その先にあるから」

なつちゃん――ねぇ」

「うん。なつもそうだけど、なつと共に過ごす未来とかも」

「はぁ~。気持ちは解った」

「・・・・・・はい」

なつちゃんも、のほほんとしていてしっかりしていると言い難いし、こうはまだまだ幼いってのを再認識したから、しっかりした男性見つけて欲しかったんだけどなー」

「お、幼い?」

「うーん、まあ、変な男に引っかかるよりはマシだけど、良い男は一杯いるだろうに」

なつしか考えられない」

「後、正直言うと、孫の顔が見たかった」

「ごめん」

「取り合えず、君たちの事は様子見ね」

「はい」



うう、孫の件に関しては本当にごめんなさい。


・・・・・・と、いう事で一応母も納得させられて? ひと先ず安心。

後は父と、なつの両親にどう報告するか。


母にはタイミング的にさっき話しちゃったけど、後はなつと話し合おうかな。


母は部屋へ戻り、私は食器を片付けてお風呂に入る。

髪を乾かしてソファーに座れば一気に眠気が襲ってきた。

怖いラスボスと対決して緊張の糸が切れたせいかも。


ダメだ・・・・・・。


なつがもうすぐ来るから・・・・・・。


起きてないと・・・・・・。


一杯おしゃべりしたい・・・・・・。


一か月近く・・・まともに話せなかった分・・・・・・。


・・・沢山・・・・・・。


・・・・・・すや~――





ㅤㅤ================ㅤㅤㅤㅤ================




ㅤㅤㅤㅤ―― Side こう母 ――



――娘のこうは親の欲目を抜きにしてもしっかりした娘だ。

幼い頃から父親は家におらず、在宅業とはいっても殆ど机にかじりつきの私の代わりに家事をよくやってくれて、今ではほとんどを担ってくれている。

真面目で問題を起こした事もないし、勉強も何も言わなくても一人でやって成績を維持しているし。


しっかりしているとは思っていたけど、今日話して気付いた。

この子はまだまだ子供だわ。

幼いというか危うさを感じる。

しかしその子供が恋愛をしている、と。

しかも相手は幼馴染とはいえ女性、同性だ、と。


・・・・・・なぜ敢えて茨の道を選ぶかねー?


でも、その道より別れて進む道のが辛いと判断したのなら仕方ない。


何でもかんでも反対して親の思い通りの道に歩ませたくはないし、そもそも私がこうに歩ませたい道が見えてるわけでもない。

ならこう自身が選んだ道を見守る事こそ親の役目だろう。


でも、

なつちゃんはこうに激甘だから心配だね。

二人共倒れにならなければ良いけど。

なつママもこうには激甘だし・・・・・。

それを言えばなつパパも、うちの旦那もこう・・・というか二人に激甘。

あれ? 今更気付いたけど、厳しくあたる大人が私しかいやしないか!?


まさかこんな事になるなんて思ってもみなかったし、今後どうすれば良いのやら・・・・・・。

厳しくつってもな、育児も家事も、今迄仕事にかまけてあんまやってこなかった手前、それでもしっかり育った娘に言える説得力ある言葉なんて、・・・・・・うん、ねーな。


良い母親じゃ無かった自覚はある。

私が香子の立場なら、何か言われたら今更母親面すんなって思うわ。


年長者って事で上から目線で言うのもなんか違うよな。

さて、これからどうしたもんやら。


正直、こうが選んだ道が、間違った道だとかは思わないから、その事で叱って世間の一般常識つうのを参考に修正? なんてするつもりはない。

大変な道選んだなー、位だわ。

何故? とは思う。

ホントなんでだ??


・・・・・・好きになっちゃったもんは仕方ない、か。


うーん、出来る事つったらカバーしてやるくらか。

後、親として知っておきたい事としては、なつちゃんの方も何処まで本気かって事位は知っておきたいねー。


ぶっちゃけ、なんつうか、あれだね、“損な役回り” ってやつか。




ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ




ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side 友寧ゆうね ――



今日、お昼になつの彼氏から呼び出された。

何の話しかな?

ドキドキ。


なつの事で相談かな?

任して! 私がパパっと解決しちゃうからねー!

っと、思ってたら違った。

なんかなつにフラれたらしい。

他に好きな人がいるのに気づいたとかなんとか。

えー!? そうだったのー!?

って、その相手って誰? っていうか後はこうしかいないじゃん!!

ヤバーい!

やっちゃったかも!


うん? なつ元彼が何かまだごちゃごちゃ言ってるけど今それどころじゃないの!

俺のこと好きだって聞いたから告白したのに恥かいたとか、知らないし!

その時は好きだと思ってたし。

てか好きでなくても付き合ってんだから “自分の事好きになってもらう” ぐらいしたら良かったんじゃん?

結局好かれなかったんじゃん?

って言ってやったら沈んだしー。

てかあんたはなつのこと好きだったの? って聞いたら、俺のこと好きだと聞いたからすぐヤらせてくれるかと思った、ってなんだそれー!!

ヤったの?

もうヤっちゃったのー!?

って、散々断られたんだって、残念だね! でも仕方ないね!

正直こんな男をなつに推してたんだと思うと土下座もんだよ!

こうにも私の思い込みで迷惑かけちゃって、もうこれは二人にジャンピングでエクストリームな土下座でもしないとダメなやつだ!


ああ、明日明後日休日だから、休み明けに早速土下座するために今から練習しないと!


ごめーん! こうー! なつー!

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