第2話 気持ちは迷走

ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side なつ ――



――幼馴染に告白された。


こうに。

小さい頃から何をするにもずっと一緒だった。

幼馴染で親友だった。

殆ど姉妹の感覚だった。

正直驚いた。

真剣な表情、熱のこもった眼差しで告白された。

そもそもこんなことを冗談でいうやつでもないし、普段何事にも熱くなることが無く冷めてたこうから感じる熱は本気だ。


同じ女性同士だったというのもあるし、私は親友以上の感情を持ってなかったから、そんな風に思われてたのに気づかなかった。

気づいてあげられなかった。

もしかしたらずっと苦しめてたのかもしれない、そんな思いから彼女の告白をOKしてしまった。

驚いた後直ぐ涙を浮かべて喜ぶこうを見て、付き合う事を選択して良かったと思った。

きっとフラれる事を覚悟していたのだろうから。




それからは今迄以上に親密になって、たまにこうからキスをされる時は凄く恥ずかしかった。


こうと付き合う様になって以降、今迄見た事なかった表情を私に見せる様になった。

これが恋をすること、恋する少女ということだろうか。

そんな彼女がスゴく可愛く感じて戸惑ってしまう。

そんな時目が合わせられない。

わたしも大分絆されているな。

わたしの顔は赤くなっていないだろうか、だらしない顔はしていないだろうか、毎日不安になる。



なし崩しで付き合う様になったのは自覚している。

どこか歪な関係だと。

だから自分がどこ迄こうを好きか分からない。

以前にも増して彼女を好きという感情は大きくなっている。

でも果たして、私のこの感情が恋かどうか分からない。


こうと付き合い出してふと思う。

わたしには実は、こうから告白される前、気になっていた男子がいた。

同じクラスの男子。

あの気持ちは恋だったのだろうか。

わたしは今でも彼が気になっているだろうか。

何度か彼を見てみたけど分からない。

こうへの気持ちと同じだろうか。



ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ✕ㅤ



こうとの恋人関係は、彼女からの友達に戻りたいという言葉であっさり終わった。

わたしもこの歪な関係が終わらせられるのであればと受け入れたからだ。


その後こうは、わたしを好きだと告白したのが嘘だったかの様に、わたし捺美の恋を応援をすると言い出した。

こうが解らなくなった。

わたしの事好きだったんじゃないのか、と。

そんな簡単に人に譲れるのか、と。


 大体わたしの恋ってなんだ。



ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ ≫≫≫≫≫≫



決局、何となく気になっていた例のクラスの男子には、向こうから告白され付き合う事になった。

彼氏の要望で登下校も被っている道は出来るだけ一緒にしようと言われ了承した。

彼氏と話しているのはそれなりに楽しい。

気が合うのか趣味が合うのか、あまり話題が途切れる事もなく話しが出来る。


でもその時間と引き換えに失ったモノに気付いていない訳じゃない。


必然的に、それまでずっと何をするにも一緒で、毎日通っていた登下校も一緒だった、こうとの時間が減っているのだから。

なんとも言えないこの感情が、喪失感というものだろうか。

解らないけど。



ある日、校舎の片隅で彼と話しをしている時、彼にいきなりキスをされた。

突然、しかも断りも無くだったので怒りが湧いた。

こうはそんな事なかったのに。

それなのに彼は「帰りにどちらかの家に行って・・・・・・」と、その先も望んできた。

わたしは断った。

その後も何度も迫られたけどそれも突っぱねた。

とてもそんな気になれなかった。

でもいずれは “そういう関係” になるのだろうか。


想像出来ない。 

わたしが彼氏に抱かれるなんて。

正直、キスも良くなかった。

断りもなしにいきなりだったし。

聞かずにしていい間柄だと思ったのか。

付き合うってそんな?

わたしはなんか違う気がする。

もっと付き合ってるうちにそういう間柄に徐々になっていくような、そんな感じ。

わたしの中ではまだそこまで行ってない。


・・・・・・じゃあ、どこまで行ったら?

拒むのはわたしの我儘なのか?

わたしが割り切るべきなのか?

それとももっと時間をかけるべき?


いっそ・・・・・・。




それから数日経ってもまだ気持ちの整理がつかない。

望まれているのは解る。

でも彼と “そういう関係” に進展してしまって良いのかどうか、自分の気持ちが解らない。


親しい友人に相談しようにも、一番の親友に避けられている。

そう、いつの間にか避けられるようになって、ここの所殆ど会っていない。


 どうすればいいの。



ㅤㅤ━━━━━━ (´·ω·̥`) ━━━━━━ 



今日、昼休みにこうと友人が話しているのを見かけた。

最近避けられてるから、この機に捕まえようと思った。

こうが友人と話していれば逃げられないだろうから。

友人は私とも共通の友達、友寧ゆうねで、私が話しに割って入っても問題ない間柄だ。


気付かれない様に近づくと会話の内容が聞こえてきた。


「えー、いいじゃん。向こうもこうのこと、何かいいって気に入ってくれてるから、ちょっとお試しで付き合ってみなよー」

「いや、私にはその気が無いし」

「えー、でも今フリーでしょー?」

「――そう、だけ、ど」

「ならいいじゃーん。お試しだから! ちょっとだけ! 先っちょだけだから!」

「それダメなやつじゃん!」

「あはは、冗談冗談! でも向こうがこうのこと気に入ってるってのはマジだから!」


話しを聞きかじった限り、どうやらこうのことを気に入ってる男子を紹介しようという話しらしい。


「いや、付き合うつもりないから」

「じゃー会うだけ! 会ったら案外気に入るかもしれないじゃん? 会って気に入らなきゃ断っていいから!」


なんでこいつはこんなにこうにその男子を紹介したがってんだ?


「それにそいつテクニシャンらしいから、付き合わなくてもそっちだけの関係でも全然アリだと思うよ?」

「余計嫌なんだけど」

「えー? じゃー清い関係? それこそ有り得なくない?」

「うっ、そ、うだね」


やっぱり付き合うとそうなるのかな。


「あー、じゃー “そっち系” ?」

「  “そっち系” ?」

「だーかーらー、女性の方! そうだよね、なつと付き合ってたんだし」

「いや、そいう訳でなつと付き合ってた訳じゃ」

「大丈夫! “そっち系” の女性も何人か知ってるから! SNSで知り合ったの! みんないい人ばかりだし、こうカワイイから絶対気に入られるよ!」


能天気に不確かなことを絶対だとか言って話しを推し進めている。

何だか不愉快だ、当事者じゃないけど。


「いやそうじゃなくて、私は誰とも付き合わないよ」

なつ以外とはって?」

「――っ、う、・・・・・・」

「でもなつとは別れたんでしょ? でもってなつは今付き合ってる彼氏がいるんでしょ? こう一人フリーじゃ寂しいじゃーん」

「寂しくない、・・・・・・とは言えないけど、誰でも良い訳じゃ無いから」


誰でも良い訳じゃない、その言葉にドキッとした。


「えー? じゃーなおさら会ってみた方がよくない? 好きになるかもしれないじゃーん。そう言うの会ってみないと判んないじゃーん」

「う、そうだけど」

「はい、じゃー1回会ってみるで決定! 今日放課後早速こうを気に入ってるっていう男子紹介するから! 気に入らなきゃそれでいいから! 放課後開けておいて!」

「あっ! 待って! まだ会うなんていってない! って、逃げられた」


言い捨てて友寧ゆうねは走って逃げた。

話を聞き入ってしまって気付けば昼休み終了を知らせるチャイムが鳴る、こうと話す時間が無くなった。


こうはその男子と会うのだろうか。

いや、律儀なところがあるからきっと会うだろう。

こうがその男子を気に入ったらどうしよう。

付き合い出したら、いつか “そういう事” もこうは彼氏とするのかな?


なんか、嫌だな。

これは嫉妬かな?

いや、嫌悪感か。

こうが誰かに触れられたり、キスしているなんて想像したら、胸が凄く不快になった。


何だこれ。

こんな気持ち知らない。


自分に湧いた初めての感情。

こうの事も解らない、

彼氏への気持ちも、自分のことなのに解らない。

解らないことだらけだ。




 どうすればいいの?――

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